不穏な日々の存続①
「王家主催の舞踏会ですか?」
レオは父との仕事が終わるとそのままロードナイト伯爵家で一緒に食事をしてから帰る。
今日はその席で父が私とレオに近々開催される舞踏会について話をしてきた。
「今までは出る必要がなかったが、これからは違う。二人は婚約し、ロードナイト伯爵家を継いでいかねばならない。それには社交も必要なのだよ」
私とレオは大きく頷いた。
「そのために――学園ではいいとして、今つけている認識阻害の魔法具はすべて外していく必要がある」
レオがハッと顔を上げた。
「心配はいらない。あの時、すべて処理したと言っただろう?」
父はレオが気にしていることを見透かすようにそう言うと、レオは小さく頷いた。
レオがあれほどまで徹底して目立たないようにしていたのは、彼がアラスター・クオーツであることを気づかれないようにするためだったのだから。
それを堂々と晒せと言われたら不安にもなるわけだけど――父のあの言葉はどういう意味だろう? どんな処理をしたのか……ちょっと怖いんだけど。
「当日は私も側にいるから」
私が不安そうな顔をしていたのに気がついた父は、安心させるようにニッコリと微笑んだ。
◇
「本当に大丈夫かな……」
窓際の席に差し込む陽射しがジリジリとしてきて、私は薄いカーテンを引きながら思わず呟いた。
「アイリーンパパが言うんだから、大丈夫でしょ?」
当の本人は意外にもあっけらかんとしている。それにそこまで父を信頼しきっているのも驚きだ。一緒に仕事をしていて関係が構築されたのだろうか。
魔法具を使っていたこともあり、レオの容姿はアラスターと違って見えていたが、魔法具を使わない姿を知っている私としては、挿絵のアラスターと髪型が違うだけのような気もする。
転生者であるディアーナにレオがアラスターだと気づかれてしまわないか、が心配だ。
ただ、彼女は社交をしていないようだし、あれだけビビリなら、舞踏会にも出てこないだろう。
「でも――王家主催だよ?」
「まあ、確かに」
レオは頬杖をついて、短く息を吐き出した。
もう一つの不安要素はその舞踏会が王家主催であるということだ。
あの問題の王妃様とまた対面しなければならないと思うと気が重い。あの茶会から顔を合わせていないから、余計に気まずい。
婚約解消して、王子と婚約してほしいと懇願する瞳が美しすぎて抗えないのが怖かった。
何にせよ、舞踏会当日は公の場であるし、父もいるから何も起こらないはず。父にもきっと何か策があるのだろう。そうでなければ、王家主催の舞踏会に私を連れて行くわけがない。今までだってすべて断っていたのだから。
ただ、私は大事なことを忘れていたのだ。
父は――私たちとディアーナが転生者であることを知らない、ということを。




