【8】おっさん、商人ギルドに登録する
ザックとの話し合いが終わり、俺は冒険者登録の解除手続きを行った。
それから治癒、解毒、魔力回復、能力向上ポーションなどの素材となる薬草や、魔石などの魔物素材の納品依頼をギルドに出し、逆にギルドからは俺個人に「とある依頼」を出された。
その依頼を請けるに当たって幾つかの取り決めを交わし、条件を詰め、それらを書面で契約を交わす頃には、すっかり外は暗くなってしまった。
その日はそれで家に帰り、翌日、俺は商人ギルドへ向かう。
ギルドでまずは商人として登録を済ませ、昨日冒険者ギルドに返却したギルドカードの代わりとなる、新たなギルドカードを発行してもらう。
商人ギルドのカードは、身分証明としてステータスを表示できる他、商人としてのランクも表示される。ちなみに俺は、登録したばかりなので「F級」だ。
その他、商人ギルドでは銀行業務を執り行っており、ギルドで金を預けたり引き出したりすることができる。ギルドカードには預金額を表示する機能も付いているようだ。
さらに、今の俺には関係ないが、ギルドの階級が上がり信用が積み重なって来ると、ギルドから融資を受けられるようになるらしい。
あとは冒険者とは納税の仕組みが異なるので、その説明というか勉強会を長々とされた。
帳面の付け方や申告の仕方、店舗を持つなら別に良いが、行商人の場合は商売をした場所によって納税先が異なること、納税額は個々の商人の申告によって変わってくるが、誤魔化したのが発覚した場合、かなりの額の追徴課税があること、それを払えなければ借金奴隷に落ちることなどなど――覚えなければいけないことは、かなり多かった。
ついでなので、開業届けも出す。
こちらは書面に幾つかの必要事項を記入するだけで、実にあっさりと終わる。
ただ、屋号を求められたので、その場で適当に考えることになった。
アイテムショップ――『ロイドよろず店』
それが店の名前だ。
かなり適当だが、まあ、特に店名を喧伝するつもりはないし、登録を担当してくれた職員の人も、屋号には店主の名前や家名、そして何を売るつもりの店なのか、良く分かる方が良いと言っていたから、これで大丈夫だろう。
ともかく。
そうして諸々の手続きを終わらせる頃には、朝早くからギルドに来たというのに、日が落ちる頃合いになっていた。
その日はそれで家に帰り、翌日、俺は再び冒険者ギルドに顔を出す。
●◯●
「ようロイド! 良く来てくれた! 待ってたぜぇ!!」
朝も早くから冒険者ギルドのロビーに顔を出せば、中は大勢の冒険者たちで溢れ返っていた。
だが、依頼の奪い合いというような混雑ではなく、何かを待っているような落ち着いた雰囲気だ。
その中心で、中に入ってきた俺に気づいたのか、ザックがデカイ声で俺を呼び、こっちに来いと身振りで促す。
俺は冒険者たちの間をすり抜けて、ザックのもとに向かった。
「よう、ザック。まさかとは思うが、ここに集まってる冒険者が、全員同行するのか?」
「おうよ! 何しろ、森の外まで戻るだけで解毒ポーションが確実に手に入るってんなら、安全性は段違いだからな。依頼を請けるのを控えてた奴らも、ここぞとばかりに集まって来たぜ」
俺はぐるりと周囲を見渡す。
カウンティアのギルドはかなり大きな建物だが、それでもこの人数が集まっていると手狭に感じるな。
ざっと見ただけで、50人近くはいるんじゃないか?
この人数が次々に毒になったりしたら、流石に俺の魔力も尽きてしまうだろう。
初級の魔力回復ポーションじゃあ、焼け石に水だ。
だから俺は、忘れない内に確認しておく。
「で、例のアレは用意できたか?」
「ああ、解毒と治癒ポーションとは違って、幾らかはまだ残ってたぜ。方々からかき集めた上質な奴が10本ある。だが、気をつけろよ? 一日に使えるのは時間を置いても3本が限界だからな」
「分かってる」
何の事はない。
例のアレとは、魔力回復ポーションだ。
ただし、かなり腕の良い錬金術師にしか作成することのできない、上級品質のポーションだが。
「んじゃあ、さっそくだが、今日お前の護衛につくパーティーとギルドから派遣する職員を紹介しておく」
「ああ、頼む」
「エイミー! それから護衛のメンバーは、ちょっとこっち来てくれ!」
ザックが大声で呼ぶと、数人の少年少女たちがこちらへやって来た。
人数は全員で五人。年齢はいずれも17~8歳、といったところだろうか。
その内の一人はかなり体格が小さく、幼い少女のように見えるが、ギルドの制服を着用しているから、それなりの年齢のはずだ。
「紹介するぜ。まずこのちんまいのがウチのギルドから派遣する職員で、エイミーだ」
「ちんまいは余計ですよぉ!」
ぷりぷりと怒りながら言ったのは、ここに来た初日に見た顔だった。
確か、解毒ポーションがない時にザックと大声で言葉を交わしていた職員だ。
長い金髪を一本の三つ編みにした背の低い少女で、どことなく小動物っぽい印象を受ける。
「ロイドさん、ご紹介与りましたエイミーです。ウチのギルマスがご迷惑をおかけしてすみません!」
「ああ、いや、大丈夫だ」
ペコリと頭を下げた少女に、俺の好感度が上がっていく。
どうやら常識のある少女らしい。
「おいエイミー、俺がいつ迷惑かけたってんだ?」
「職人さんを危ない場所に連れ出してポーション作らせるなんて、迷惑以外の何ものでもないですよぉ!」
「話は変わるが、ロイド」
「勝手に話を変えないでくださいー!」
「魔力回復ポーションはエイミーに持たせてあるから、必要になったらこいつに言ってくれ。使うタイミングやらの判断は、全部お前に任せる」
「ああ、了解」
急に真面目な話題を持ち出して話を変えたザックに、頬を膨らませつつもエイミーは空気を読んで口を出さないことにしたらしい。
紹介の途中だからとでも考えたのだろう。良い子である。
一方、悪い大人であるところのザックは、何食わぬ顔で紹介を続けた。
「んで、こっちの四人がお前の護衛をする冒険者たちだ。パーティー名はアネモネ。リーダーはこっちの別嬪な女剣士で、アイシャだ」
「アイシャです。よろしくお願いします、ロイドさん」
「ああ、こちらこそ、よろしく。……ん? 君は確か……?」
紹介された少女――アイシャの顔を見て、軽く目を見張る。
艶やかな黒髪を肩口で切り揃えた美しい顔立ちの少女で、細身の長剣を腰から提げ、革製の軽鎧を身に纏っている。
こちらもまた、見覚えのある少女だった。
「一昨日は、ありがとうございました。一度、お礼を言いたかったんです」
ニコリと控えめに笑った少女は、一昨日、治療室で横たわっていた冒険者の一人だった。
初級の解毒ポーションが効かずに、『魔力付与』をしたポーションで何とか解毒できた少女だ。
そう気づいて見てみれば、他の三人も治療室で見た顔ばかりだった。
「俺はテオっス。このパーティーで斥候をやってるっス」
背の低い、細身の少年が自己紹介する。
短い栗毛の髪に茶色の瞳をした、どことなくお調子者っぽい雰囲気の少年だ。
身軽そうな服装に、腰には短剣とナイフを佩いている。
テオの後に続いて、他の面々もそれぞれに名乗った。
「アタシはイザベル。マジシャン。よろしくぅー」
気だるげに挨拶したのは、ローブを羽織った少女だ。
長杖を持っているから分かっていたが、魔術師らしい。
ウェーブした赤い長髪に茶色の瞳をした少女で、かなり発育が良い。……いや、どこがとは言わないが、ローブの上からでもはっきりと分かるほどだ。
「拙者はレオンでござる。クラスはウォーリアー」
最後に名乗ったのは、背が高くがっしりとした体つきの少年。
金属製の鎧に身を包み、長剣を腰から提げ、さらに背中には大きなカイトシールドを背負っている。なかなかの重装備だ。
短く刈り上げた金髪に碧眼で、顔立ちも整っているから、どこぞの貴族の御曹司と言われてもおかしくない外見である。
「ロイド殿、拙者ら、一度しっかりとお礼を言いたかったでござるよ。先日、毒に侵されて危なかった拙者らを救ってくれたのが、他ならぬロイド殿だと聞いているでござる」
「いや、そんなに気にしないでくれ」
ずずいっとこちらに迫ってきたレオンに、俺は顔を逸らしながらそう言った。近いんだよ。
しかし、彼はガシッと俺の手を握り、至近距離で目を見つめて言う。
「いやッ! 命の恩人に感謝するのは当然でござるッ! 今日はそんな恩人に少しでも恩を返す機会と、ロイド殿の護衛役に立候補したのでござる! 魔物どもにはロイド殿に指一本触れさせないゆえ、大船に乗ったつもりでご安心召されよ!!」
「ああ、そうか……ありがとう。頼もしいよ」
近い。近いよ。
「ロイド、アネモネはC級の冒険者パーティーだから、大抵の魔物は相手にできる。安心してくれて良いぜ」
「へぇ、C級か。それはすごいな」
俺はザックの注釈に素直に感心した。
彼らの若さでC級に至っているということは、かなりの才能と実力の持ち主、ということだ。
俺なんて22年でD級にしかなれなかったからな。
そもそも生産職と戦闘職で比べる方が間違っているのだろうが。
そして近い。
「レオン、ロイドさんが困ってるでしょ、離れなさい」
「む? 承知した」
アイシャが命じてくれて、ようやくレオンが離れる。助かった、というように視線を向ければ、彼女はニコリとして頷いた。
どこかおしとやかな雰囲気を持つ彼女だが、パーティーメンバーの手綱はしっかりと握っているらしい。
「しかし、もう体は大丈夫なのか? 先日あんなことがあったばかりだろ?」
俺はアイシャたちに問う。
もちろん彼女らの実力に不安を覚えているわけではないが、死にかけていたのが一昨日のことだ。もう仕事を再開して大丈夫なのかと心配に思ったのだ。
「はい、傷も完治していますし、昨日一日休みましたから、大丈夫です。ロイドさんが不安に思われるのも分かりますが……」
と、申し訳なさそうに言うアイシャに、これ以上何か言うのはまずいかと判断する。
それに不安に思っているわけでもないしな。
「いや、君らが大丈夫なら俺も問題はないよ。今日はよろしく頼む」
「はい、よろしくお願いします」
アイシャが安堵した様子で頭を下げたところで、
「んじゃあ、自己紹介も終わったところで、そろそろ出発してくれ。ロイドも大変だと思うが、どうか頼むぜ」
「分かってる。任せろ」
ザックの言葉に頷いて、それから俺たちは出発することになった。
ちなみに、レオンの口調については誰も突っ込まなかったので、俺も空気を読んで質問するのは控えることにした。
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