【32】おっさん、依頼を完遂する
「――というわけで、何とか『鬼火』と『魔術師殺し』の付いたアイテムを集められないかな?」
【迷いの森】に設置するアイテムを作るのに必要なスキル結晶が全然足りないと判明した翌日、俺はカウンティアの露店市場に顔を出していた。
そうして探すのは、いつもスキル付きアイテムを仕入れているハーフリングの露店だ。
運の良いことに、店主であるポポはいつもの場所で店を開いていた。
「なるほどですよ~。まあ、どちらも仕入れることはできなくもないですね~」
挨拶もそこそこに事情を説明したポポは、おっとりと頷きつつ、「ですが~」と続ける。
「『鬼火』はともかくですよ~、『魔術師殺し』の方は強力な呪いですから~、方々から集めても在庫が足りそうにないですね~。そうなると~、あとは新しく作る他ないのですが~、これがとっても大変で~、つまり、少し時間が掛かるですよ~」
「どのくらい掛かりそうなんだ?」
「一週間くらいですかね~?」
思ったほどではなかった。
俺はそれくらいならと頷く。領主様も一刻も早く【迷いの森】を抜けられるようにしろ、というのではないはずだ。
「分かった。それで問題ない。集めてくれるか?」
「了解しましたですよ~! その代わり、代金の方は弾んでくださいですよ~? 特急料金が欲しいのですよ~!」
「……まあ、それも大丈夫だと思う」
お金を払うのは俺ではないし、領主様なら良いと言ってくれるはずだ。たぶん、おそらく、きっと。
俺は頷いて、ポポの店を後にした。
●◯●
『鬼火』と『魔術師殺し』のスキル結晶を手に入れる算段が付いてから一週間。
その間に俺は、すでに揃っているスキル結晶を使って【迷いの森】へ設置するアイテムを12個作り上げた。
後はポポが商品を入荷するまで、俺にできることはないため、通常通りに店を営業していた。
そうして一週間後、アレックスから呪いのアイテムを購入するための代金を預かり、ポポの露店に出向くと、宣言通りに必要な個数のアイテムを仕入れてくれていたので、これを購入する。
もちろん、支払った代金は特急料金として、かなり色を付けた金額だ。ポポも、
「ヒッヒッヒィ~ッ! さすが領主様は気前が良いのですよ~!!」
と、大いに喜んでいたので、あの金額で問題なかったのだろう。
『忌避結界』のスキル付きアイテムの方も、すでにアレックスたちが購入済みだ。何でも教会関係者を大量の金貨で黙らせ、特急で作らせたらしい。
金の力は聖職者にだって効果抜群なようだ。
ともかく――これで設置用アイテムを作るための、スキル結晶は全て集まった。
さっそく、【ブラッド・メイカーズ】のクランハウスに運ばれたアイテムたちからスキルを抽出する。
スキルを付与するためのアイテムについては、物置部屋を漁ることで、30個分をすでに確保していた。これも金額にしたらとんでもない額になるはずだが、アレックスは笑顔で使用を許可してくれた。
今回使用するアイテムの補填は、後で領主様から出るので、何の問題もないとのこと。
それなら安心だ。
俺は短剣やら杖やら装飾品やら置物やらと品目としては統一性皆無だが、漏れなく使われている素材の質が高い、つまりは値段のお高いアイテムたちにスキルを付与していく。
すべての素材が揃ってしまえば、作業自体は一日で終了した。
出来上がったアイテムたちをアレックスに納品したところで、今回の俺の仕事は終了だ。
後は実際にアレックスたちがアイテムを【迷いの森】に設置して、領主様から依頼のあった「正道」を開拓するのみである。
しばらくは設置と、実際に森を抜けられるか、その検証に時間を取られることになるだろう。
「ロイドさん、ありがとうございました! これならきっと、【迷いの森】を簡単に抜けられるようになると思います!」
「ああ、俺も成功を祈ってるよ」
「そういうわけで、領主様からは後日、別に報酬が与えられると思いますが、先に僕らからの報酬をお渡ししたいと思うんですが……」
そういえば、そんな話だったな。
「別に領主様から報酬をいただけるなら、アレックスたちから貰う必要はないと思うし、別に良いぞ、気を遣わなくて」
俺はアレックスにそう言う。
おそらく領主様からの報酬はそれなりの金額になると思うし、実際のところ、今回の依頼主は領主様だろう。なのでアレックスからも報酬を貰うのは、少し悪い気がしたのだ。
しかし、これにアレックスは断固として首を振った。
「そんなわけにはいきませんよ! 僕たちからロイドさんに依頼した形ですし、何日かお店まで休ませてしまったじゃないですか。報酬はきっちりと受け取ってください」
「……まあ、そこまで言うなら」
あんまり反対するのもどうかと思って、俺は頷いた。
「それで具体的な報酬の内容なんですけど、ロイドさんが今回使用したスキルと、その回数で算定してみました。それに店を休ませてしまった補填分をプラスしてます。この金額で大丈夫ですか?」
アレックスから一枚の紙を渡される。
紙面には俺が使ったスキルが、おおよその回数と共に記載され、その横に一回当たりの金額が書かれている。加えて店を休業した日数掛ける一日当たりの補填金額を加算され、最終的に算出された金額は……、
「お、おお……!? ……いや、さすがにこんな金額は受け取れないぞ」
凄まじい金額になっていた。
呪物ではないスキル付きアイテムを十数個は購入できそうな金額といえば、その凄まじさが少しは分かるだろうか。
俺が【ドラゴンスレイヤーズ】で22年間働きつつ、貯蓄してきた金額にも匹敵しそうな額だ。
知り合いからこんな大金を受け取るということに、小市民な俺は拒否感を覚えてしまう。
結局、俺が今回したことなんてスキルを使っただけで、店の商品や在庫を持ち出したわけでもないしな。
「いや、これくらいの金額は普通でしょう? 何だったらもう少し足しても良いかと思いますが」
しかし、アレックスとしては大したことはない金額らしい。流石はA級クランのマスターというべきか、金銭感覚が俺とは違い過ぎる。
「いやいや、もっと少なくても良いって」
「いやいやいや、そんなわけにはいきません。受け取ってください」
「いやいやいやいや、ならせめてこの三分の一くらいでも」
「いやいやいやいやいや――」
報酬の金額を押し付けるアレックスと、断る俺の攻防が幾度か続き、
「何やってんだお前ら」
傍らで成り行きを見守っていたスカーレットが、呆れたように口を挟んだ。
「おい、アンタ。これは正当な報酬だ。支払わなかったらウチらが困んだよ。仕事を頼んでもろくに報酬も払わねぇクランなんて噂が立つかもしれねぇだろ」
スカーレットの言い分は確かに分かる。
だが、俺は何がなんでも報酬を受け取らないと言っているわけではないのだ。
「それはそうだが、俺が納得してるんだし、金額を少なくするのは構わないだろう?」
「チッ」
舌打ちされてしまった。
スカーレットはガリガリと頭を掻くと、面倒くさそうな顔で、
「んじゃあ、何か欲しいモンでもねぇのか? 金の代わりに物でも良いぜ?」
そんな代案を提示してきた。
急にそんなことを言われても困るんだが、と思いつつ、しかしふと、俺の脳裏には一つのアイテムが浮かんでいた。
実は『パーフェクトリペア』がどれくらい精巧なアイテムを修復できるのか、実際に試してみたいと考えていたのだ。俺が作ることのできない、もしくは内部構造を全く理解していないアイテムでも、問題なく修復することができるのか?
それに上手くすれば、最近忙しくなってきた店の手伝いも手に入るかもしれない。
そんな、まさに一石二鳥なアイテムがある。
本当はそろそろ店員でも雇うべきかと思っていたんだが、そういうことならちょうど良いかもな。
しかし、あれが幾らの価値があるのか、俺にも正確なところは分からない。もしかしたら、アレックスが提示した報酬よりも高いかもしれないし。
断られるかな?
そう思いつつ、俺は駄目元で聞いてみることにした。
「……じゃあ、物置部屋にあった、壊れたオートマタを貰えないか? 報酬で足りないようなら、差額も支払うよ」
この言葉に、アレックスとスカーレットは顔を見合わせる。
それからこちらに向き直った顔は、これまでの親しさも一変、心に壁を一枚隔てたような引き気味の表情だった。
「オートマタというと、あの壊れたオートマタですか? 幼い少女の姿をした?」
「まあ……アンタがそれで良いって言うなら、ウチらとしては構わねぇけどよ。……そういう趣味なのか?」
俺はしばし沈黙した。
言われている意味が分からなかったのだ。
だが、報酬代わりに貰おうとしているオートマタの姿を思い出すに至って、何の嫌疑をかけられているのか理解する。
「――誤解だッ!!」
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