【23】おっさん、スキル付きのアイテムを販売する
俺が作った四つの「スキル付きアイテム」は、わずか二日の内に完売してしまった。
スキル付きの装備品ではないから、価格はそれよりもずいぶん低い値段に設定したが、それでもスキルが付いているアイテムを格安で売ることもできない。
原価を加味しても十分に儲けが出る値段にすると、どうしてもそれなりの値段にはなってしまう。
なので、まだランクの低い冒険者が主な客層であるウチで、本当に売れるかどうかは俺としても賭けだったのだが……それは杞憂のようだった。
まず初日。
冒険者パーティー、アネモネの面々が来店した。
彼らはC級のパーティーだけあって、必要とする武器やポーションのランクも中級以上がほとんどだが、なぜか定期的にウチにも来てくれる。
買っていくのは生活用の魔道具やポーションなどの消耗品だ。
魔道具はまだしも、ポーション類は彼らにとっては回復量が足りずに役不足だと思うのだが、それを聞いた俺にアイシャは首を振った。
「確かに中級以上でないと一気に回復はできませんが、軽い怪我や小まめに魔力や気力を回復するには、まだ初級でも十分です。それにロイドさんのお店は他よりも大分安いので助かっていますし」
「そうか……でも、一応中級ポーションもしっかり用意はしておいた方が良い。これは俺が言うまでもないとは思うが……」
俺はそう忠告する。
自分の作った物ではあるが、俺は俺の作ったアイテムの性能を過信しない。
所詮は初級の性能しかなく、初級の中でも手慣れた専門職が作った物の方が性能は良い。
確かに安いが、やはりいざという時には性能が高いアイテムの方が頼りになるはずだ。アイテムの性能が生死を分けることも多い冒険者ならば、なおさら良い物を揃えておくべきだ。
「はい、もちろん中級のポーションも準備していますよ。初級は比較的安全な場所でしか使いません」
「そうか。これは余計なお世話だったかな」
「ふふっ、いえ、心配していただきありがとうございます」
老婆心ながら忠告したが、そうするまでもなく、アイシャたちはしっかりと理解していたらしい。
大人からの、まさに余計なお世話というやつだったが、アイシャは笑って許してくれた。本当に性格の良い娘だと思う。
「ところで、おじさん。ちょっと気になってたんだけどー?」
と、そこでタイミングを見計らったようにイザベルが質問してきた。
「おじさんの肌、いつもより何かー……綺麗じゃない?」
「あ、それ、私も思ってました。何かしたんですか?」
「ああ、いや、何かしたっていうか……」
少女たちからの思わぬ質問に、無意識に顔を撫でながら、たぶんあれが影響しているんだろうなぁ……と推測しつつ、答えようとした時。
店内で商品を物色していたレオンが、一本の剃刀を手にしてこちらへやって来た。
「ロイド殿! 拙者、この剃刀を買うでござる! 『毛根死滅』のスキル付き剃刀とは物騒でござるが、まさかこういった使い方があるとは。剃った髭が生えてこなくなるなら便利でござるなぁ。定期的に髭を剃る手間が省けるでござるよ」
「ああ、レオン。だけど、間違って髪とか剃らないように注意してくれよ? たぶん、剃った場所からは生えなくなるからな。いや、効果が永続するかはまだちょっと分からないんだけどさ」
どうやら、今日から並べていた新商品を、レオンが気に入ったようだ。
俺たちの会話を聞いて、なぜかレオンが持つ剃刀を注視している少女二人に、俺はそういえばと説明する。
「俺の肌が綺麗になったように見えたなら、たぶん、髭が生えてこなくなったからだろうなぁ。物が物だから、売る前に一応自分でも試してみたんだよ。――あ、安心してくれ。使った剃刀は別の物だから。それは新品だよ」
「そうでござるか。いや、拙者は別に中古でも気にしないでござるが」
「あ、あの、ロイドさん。この剃刀は他にもありますか?」
なぜか少し慌てたように、アイシャが聞いてくる。
「いや、すまない。それは一つしかないんだ」
「おお、最後の一つでござったか? それは運が良かったでござる」
そうしてカウンターに剃刀を置こうとしたレオンの手を――、
「む、イザベル? 何でござるか?」
イザベルががしっと掴んだ。
そして言う。
「……それは、アタシが買うわー」
「いや、これは拙者が買おうと思って持ってきた物でござるよ?」
「ちょっと待ってイザベル、それは私も買おうと思っていたの」
「いや、アイシャ、これは拙者が買うでござるよ?」
「レオン」
「何でござるか、イザベ――ブボォッ!?」
イザベルはレオンの頬を平手で打つと、素早い動きで剃刀を取り上げた。
俺は突然の凶行に、目を丸くして眺めることしかできない。
いったい今、何が起こったんだ……?
「イザベル」
「いくらアイシャのお願いでもー、これは譲れないわー」
そして向かい合ったアイシャとイザベルの間で、バチバチと火花が散る――ような幻が見えた。
どうやらどちらが買うかで牽制し合っているらしい。
すでにレオンが眼中にないことが哀れだ。
しかし、ここで喧嘩などされても迷惑というか……恐いし。
「それ、二人で買って、二人で使うのではダメなのか?」
俺はそう提案してみた。
潔癖性の人なら嫌かもしれないが、長年使える頑丈な造りの剃刀だ。別に洗って使い回せば問題はない。
「……」
「……」
アイシャとイザベルはしばし目と目で語り合い――コクリと頷いた。
そして彼女らは半額ずつ出し合って、『毛根死滅』の剃刀を買っていった。
ちなみに、テオは争いになるのが分かっていたかのように、ずっと気配を消していた。
●◯●
そしてさらに翌日。
「店主、ちょっと良いだろうか?」
「はい、何でしょうか?」
その日はちょっと毛色の変わったお客さんがいた。
見たところ二十代半ばほどの男性で、アッシュブロンドの髪に碧眼の、どことなく品の良い人物だ。平民が着るような普通の服を着ているのだが、汚れもほつれも見当たらないし、腰から下げている剣は武骨だが、かなり良い造りの剣だと分かる。
あえて指摘するつもりなどさらさらないが、明らかに家柄の良い人物がお忍びでやってきた――という感じだった。
彼は物珍しそうに店内を見回っていたのだが、スキル付きのアイテムを見つけると、俺を呼んだ。
何事かと内心恐々としながら近づけば、
「これらの品にはスキルが付いているそうだが……本当か?」
「はい、誓って本当です」
詐欺紛いの行為を働いていると、疑われているのだろうか?
「ふむ……疑っているわけではないのだが、鑑定できる者を連れて来て、確認させてもらっても良いか?」
「え、ええ……それはもちろん、構いませんが」
「では、この「食欲増進の匙」と「衰弱の鎖」を取り置いてもらいたい。何、すぐに戻ってくる」
「分かりました」
その言葉通り、彼は店を出ていくと一刻も経たずに戻ってきた。
連れて来たのは線が細く眼鏡を掛けた人物で、俺が裏に下げていた二つの商品を持って来ると、すぐに瞳に魔力を集めて鑑定した。
そして結果を報告する。
「……確かに、どちらの品にもスキルが付いていますね。こちらの匙には『食欲増進』が、こちらの鎖には『衰弱』のスキルが付いています。間違いありません」
「そうか」
と、男性は頷くと、
「では、店主。こちら二つとも買わせてもらおう」
「あ、ありがとうございます」
あっさりと、二つとも購入することに決めたらしい。
匙の方はともかく、鎖の方は大量の鉄を使っているから結構な値段がするのだが。ちなみに匙は小金貨一枚、鎖は小金貨五枚だ。
アイシャたちが買っていった剃刀は、小金貨一枚。
残っている「飢餓耐性のロザリオ」も、小金貨一枚で、全部が売れても小金貨八枚。ポポのところで使った金額には届いていないが、収支的には決して悪くない。
使い道があるかは分からないが、スキル結晶がまだ三つ残っているし、呪いが抜けた品物自体も残っている。特にスキルが二つ付いていた腕輪と短剣は、かなり良い物だ。売ればそこそこの値段になるだろう。
まあ、スキルを付与してみたいから、売らずに取って置くが。
「時に店主」
「……何でしょうか?」
アッシュブロンドの男性が、支払いを終えてから鋭い視線でこちらを見てくる。
俺は緊張を隠しながら応じたが、次の言葉にはさすがに動揺せざるを得なかった。
「このスキル付きのアイテムは、誰が作ったのだ?」
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