【22】おっさん、スキル付きアイテムを作る
スキルを発動した瞬間、魔力が腕輪に吸い込まれていった。
かと思うと、腕輪から光の粒子となって魔力が飛び出し、空中で凝集していく。
そうして形を成した光の粒は、手のひらで隠せるくらい小さな結晶体となって結実した。
淡く輝く光が消え、結晶体が重力に引かれて落下するより先に掴み取る。
「これが……スキル結晶、か……?」
透明な結晶体で、ただの水晶だと言われても否定する者はいないだろう。そんな見た目だ。
しかし、水晶にしては異様に軽い。
結晶としての硬さはしっかりと手のひらから伝わって来るのに、重さなどほとんどないのだ。
俺はとりあえず、手の中の結晶を鑑定してみた。
【名称】『飢餓耐性』のスキル結晶
【種別】素材
効果の説明も耐久値の表示もない。何とも簡素な鑑定結果だった。
どうやらスキルは成功したようだが、どのくらい魔力を消費しただろうか?
疑問に思ってギルドカードで確認すると、消費した魔力は「50」だった。
上位の攻撃魔術すら余裕で発動できる魔力だから、消費としてはとんでもなく重いスキルになるはずだ。しかし、俺にとっては今更だろう。「50」くらいならば大した負担でもない。
「腕輪の方は……なるほど、こうなるのか」
それから再度、スキルを抽出した腕輪を鑑定してみる。
【名称】食欲増進の腕輪
【種別】装飾品/呪物
【効果】身につけた者の食欲を増進させる腕輪。気づかぬ内に必要以上の食事をしているかもしれない。
【スキル】『食欲増進』
【耐久値】61/100
スキルを抽出した影響だろう。鑑定で表示される結果に、色々な変化があった。しかし、種別は未だに「呪物」のままだ。
【効果】の欄にも表記されているように、「気づかぬ内」にというのが問題なのかもしれない。
「今度はこっちを……」
と、もう一度同じ腕輪にスキルを発動して、『食欲増進』のスキルを抽出する。
それからもう一度鑑定してみると、変化は明らかだった。
【名称】豪華な腕輪
【種別】装飾品
【耐久値】61/100
呪物ではなく、ただの装飾品になっている。
呪いの元となるスキルを抽出すれば、呪物ではなくなるらしい。
「とりあえず、全部抜いておくか」
俺は購入したアイテムから、全てのスキルを抽出した。
そうして手に入れたスキル結晶は、以下の通り。
『飢餓耐性』
『食欲増進』
『毛根死滅』
『魔術師殺し』
『狂化』
『恐怖喚起』
『衰弱』
五個のアイテムの内、二つスキルが付いている物が二個あった。一つは腕輪で、もう一つは短剣だ。
他の三つのアイテムはそれぞれ冠、変な生き物を象った置物、指輪で、付いていたスキルは一つ。
短剣に付いていたスキルが『魔術師殺し』と『狂化』、冠に付いていたのが『毛根死滅』、変な置物に付いていたのが『恐怖喚起』、指輪に付いていたのが『衰弱』だ。
呪いのアイテムだったから当たり前ではあるが、ろくなスキルがないな。
武器屋に売っているスキル付きの武器であれば、『斬撃強化』や『軽量化』『硬化』『炎熱付与』など、普通に有能なスキルが付いているものだが。
「でも、自由にスキルを付けられるなら、使い方次第か」
俺はアイテム袋の中から、一本の鎖を取り出した。
そこそこに長く、太く頑丈な鎖で、だいぶ昔に魔物をペットにしたいという金持ちの依頼で、魔物を生け捕りにする時に使用した鎖の内の一つだ。
とはいっても、生け捕りにしたのは俺ではなく先代のクランマスターだったが。
ドラゴノイドという竜に似た大蜥蜴を捕獲したのだが、あの人、素手でぶん殴って気絶させていたからな。
まあ、そんな思い入れがあると言えばある品物だが、今は使い道がないのも確かだ。
こいつにスキルを付与してみよう。
俺は『衰弱』のスキル結晶を握ると、取り出した鎖に押し当てた。
そして『スキル付与』を発動してみると――、
「お、吸い込まれた」
スキル結晶が鎖に吸い込まれるように消えたのだ。
魔力の消費を確認してみると、こちらは「5」の魔力しか消費しなかった。
結晶化には多めの魔力が必要となるが、付与するのは少ない魔力でも良いらしい。
「これで呪いのアイテムになってたら、店には並べられないな」
規制する法律はないという話だったが、流石にそうと知っていて人に売るのは良心が咎める。
なので、呪物となったなら売らないつもりだった。
しかし、鑑定した結果、その心配は杞憂だったと判明した。
【名称】衰弱の鎖
【種別】拘束具
【効果】巻き付けた対象から体力、魔力、気力を徐々に奪い、衰弱をもたらす鎖。
【スキル】『衰弱』
【耐久値】100/100
続けて、俺は『魔術師殺し』のスキル結晶を鎖に押し当て、同じように『スキル付与』を発動させようとする。
「やっぱり、無理だったか……」
最初から予感はあったが、それは確信に変わった。
スキルが発動しなかったのだ。
鎖は大きいとはいえ、その素材は単なる鉄だ。対してスキルが二つ付いていた腕輪と短剣は、主な素材は鉄でも宝石や金などで装飾されていた。
スキルの説明にもあったように、スキルを付与できる上限数は、使われている素材によって変わるようだ。
それからも俺は、日を跨いで数日間、魔力が許す限りに色々と対象となるアイテムを変えて、スキルを付けたり抽出したりを繰り返してみた。
その結果分かったのは、何に付け替えても、必ず呪物となるスキルがあるということ。
今回手に入れたスキル結晶で言えば、『魔術師殺し』『狂化』『恐怖喚起』のスキルは、どんなアイテムに付与しても、必ず呪物に変化した。
これらのスキルは結晶の状態にして、しばらくは保管しておくことにする。
この先、使うことがあるかは分からないが、これらのスキルを付けたアイテムを店で販売するわけにもいかないしな。
しかし、他のスキルは適切な(と言って良いのかは分からないが)アイテムに付与すれば、呪物にはカテゴライズされなかった。
こちらは説明文でも付けて、店の棚に並べてみることにする。
ちなみに、作ったアイテムは「衰弱の鎖」を含めて、以下の通りだ。
・食欲増進の匙――「銀の匙に『食欲増進』を付与した。病人に使わせるのがおすすめ」
・飢餓耐性のロザリオ――「神官などが使う簡素なロザリオに『飢餓耐性』を付与した。粗食や断食にも耐える強い体に」
・毛根死滅の剃刀――「折り畳み式の剃刀に『毛根死滅』を付与した。髭剃りが煩わしい人に」
これらの四つを説明文付きで店舗に並べれば、そこそこ需要はあるんじゃないだろうか? まあ、ウチの店に来る客層に合っているかは分からんが。
ちなみに、少し怖かったが「毛根死滅の剃刀」は、他の剃刀にスキルを付与した上で、自分で試してみた。
アイテムを鑑定してみた結果、剃刀で剃った部分にしか『毛根死滅』のスキルは働かないはずだが、最初はアレなアイテムだったのだから、頭部に影響しないとも限らない。
恐る恐る試した結果――幸いにも俺の頭髪に影響は一切なく、元々薄かった髭も完全に生えてこなくなった。
ここまでを検証するまで、約二週間。
そうしてようやく、俺は四つのアイテムを店頭に並べてみた。
――さて、売れるかね?
お読みくださりありがとうございます(o^-^o)




