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魔術の原理―原書  作者: 岸田四季
聖初書~二章~
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第二章~Chapter 2~弱さ

 奇怪な、気味の悪い音を立てながら、佐々神(ささがみ)の目の前に巨大な空気のうねりが出現する。そしてそれはみるみるうちに巨大化し、敵――風雅(ふうが)聖樹(まさき)へと向かっていく。

 しかしそれは、前のものとは明らかに異質だった。そこに圧倒的な強さはなく、本当に普通だった。普通と言ってもこの状況がすでに普通ではないのだが、佐々神の実力通り、端的に言うと“弱い”一撃だった。

 当然、佐々神の“弱い”一撃は、聖樹にとっても“弱い”一撃である。それを聖樹はほとんど力を労することもなく避ける。

 だが、この“弱い”一撃を放てるようになったことは、佐々神にとって大きな進歩であった。大鎌(サイズ)にはすべてを破壊し尽くす“強い”一撃しかなかった。しかし、これは本当に“強い”と言えたのだろうか。

 確かに大鎌(サイズ)を一振りすれば目の前にいる敵どころか、この先出会うであろう敵たちを難なく倒せるだろう。だが、どんなに足掻いたところで神級魔術師(the fool)の(しょう)に勝つことが出来ない。そして翔とぶつかることはどうしても避けることが出来ないだろう。

 なら、どうやって翔に打ち勝つのか? 佐々神はこの三ヶ月それを考え続けてきた。

 そこで見つけた答えは「共闘」だった。

 佐々神はひどく弱い。魔術だってろくに使えないし、身体能力がいいと言っても人の域を超えることはない。そんな弱い彼がどうすれば強い彼に勝てるのか。それはやはり助けを求めるしかなかったのだ。カトレアや梓、カトレアの所属するlast(ラスト)も協力してくれるだろう。翔にはないカード、「仲間」を使うしか彼に勝つ方法はなかった。

 それ故に佐々神は弱くある必要があった。仲間を最優先に考え、仲間とともに戦うことを前提とした信頼、言いようによっては甘えなどの弱さが今の彼には必要だった。

「当たらないんだよ!」

 聖樹は手刀で空気を裂くと、風を生み出し、佐々神を襲った。

「っ、クッソ!」

 佐々神は地面を蹴って右にかわすが、それを見越したかのようにそこへ次の風が飛んでくる。

 だが、佐々神は反応することが出来ない。気づけば戦闘開始からすでに一〇分ほど経っている。その間受けた傷や大鎌(サイズ)の負担は、佐々神の体を自由にはしてくれなかった。

 そして、佐々神は攻撃を受け入れた。

 直後、

 ――拒否(キャンセル)――

 頭の中でその言葉が聞こえた瞬間、そこまで来ていた攻撃(かぜ)が消えた。

 聖樹は舌打ちをすると、新たに構えた。

 また、幻器(げんき)によって佐々神の本能と呼べる部分が出てきてしまった。

 だが、それ以上のことは起きなかった。

 それならば好都合だった。佐々神の内にあるものはとても魅力的だった。それを完全に抑えつけずに利用することが出来れば、佐々神は今より数歩進むことが出来るだろう。

(もっと意識して使うんだ。暴走させずに、利用するんだ)

 佐々神は理性を少しだけゆるめ、自分の中の何かに身を任せる。

 そしてもう一度、大鎌(サイズ)をなぎ払った。

 奇怪な、気味の悪い音を立てながら巨大な空気のうねりは出現する。しかし、それは弱いままだった。

「どうした。おかしくなる前より弱くなってるぞ!」

 聖樹の言っていることはもっともだった。普段より形状維持の負担が多いため、佐々神の攻撃はすべてにおいてダウンしていた。

 やはり佐々神の考えは理想論に過ぎなかった。いまだ成長しきれていない彼が扱える力ではなかったのだ。

 では、どうしたらいいのか。

「だったら、“今”成長すりゃいいんだろ?」

「ったく、佐々神君はいつも滅茶苦茶なこと言うわね?」

 目の前に現れたのは、黒のスーツを着た、ウェーブのかかったブロンドヘアの女性――カトレア=フォーチュンだった。

「梓ちゃんに呼ばれてきたけど……佐々神君が戦うとどうしてこう、周りが滅茶苦茶になるのかしらねぇ」

 そう言ってため息をついたカトレアの顔は、眩しいほどの笑顔だった。

「遅いぞ」

 佐々神は悪態をついてみるが、表情はやはり笑顔だった。

「これでもかなり急いだの! そこらの救急車よりよっぽど早いわよ」

 そして、カトレアの視線は敵――風雅聖樹に向けられる。

「じゃ、あそこにいるのを倒せばいいのね?」

「ああ」

 そこで安心しきってしまった佐々神は、やっぱり弱かった。

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