表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術の原理―原書  作者: 岸田四季
聖初書~二章~
60/71

第二章~Chapter 2~風雅流操風術

 どこにでもある繁華街の大通りのど真ん中で、佐々神(ささがみ)はしばらく動けなくなった。なぜ今EARTH(アース)の話が出てくるのか? こいつはいったい何者なのか? なぜ佐々神を知っているのか? 何が目的で動いているのか? 頭の悪い佐々神の脳裏に、一瞬で複数の疑問が浮き上がってくる。

「もう一度言おう。佐々神亮平(りょうへい)、EARTHへ来い」

 また重い一言を放つ。

 全く事情を知らない舞華(まいか)まで、この事態の深刻さを理解しているのか、微動だにしない。

 佐々神は人よりも回転の遅い脳をフル回転させ、ようやく一つの答えにたどり着く。

(あずさ)。舞華を連れてここから離れろ」

 佐々神は普段ポケットにしまってある、黒い光沢のあるビー玉大の石が付いたペンダントを取り出した。

 それを握りしめ、

「早く行け! こいつの目的は俺だ。頼む……舞華を巻き込まないでくれ」

 語尾が段々と小さくなる。そして、梓にカトレアを呼ぶように指示した。

「で、でも、一人じゃ危ないよ?」

 梓が心配そうに声をかける。

「大丈夫だ。それよりも他の人を巻き込まないようにしてくれ」

「わ、分かった!」

 梓はそう言うと、舞華を連れ遠くへ走り出した。

「賢明な判断だね。で、EARTHに来るのか? 来ないのか?」

 上下白のスーツの男は佐々神に尋ねる。

「その前に一つだけ聞かせてくれ。なぜ俺をEARTHに連れて行こうとするんだ? 理由が分からない」

 その答えに納得がいかなかったのか。スーツの男は不敵に笑っている。

「理由が分からない? ふざけんな! お前が政府のスパイだってことは分かってる。どうせ、父親に頼まれて、地下世界(アンダーグラウンド)に潜り込んだんだろ?」

 佐々神は一瞬何のこと言っているか分からなかった。政府のスパイ。なぜか佐々神はスパイということになっているらしい。

「何を勘違いしているか知らないが、俺はスパイなんかじゃない」

「まだ白を切るか!」

 男は繁華街の大通りのど真ん中で叫ぶと、右手を手刀のにし、それを水平に空を裂く。つまり、水平にチョップをするような感じだ。

 ビュンと音がすると、空気が動いた。

 佐々神は咄嗟にその場から横に飛ぶ。空気に敏感な佐々神だからこそ避けられたが、普通の人間ならまず気がつかないだろう。

 直後、佐々神のいたところのコンクリートの地面が抉れ、少し土が見える状態となった。

「お前……何者だ? ただの魔術師じゃないな?」

 佐々神言う通り、ただの魔術師ではこんな芸当は出来ない。手刀を作ってから謎の攻撃まで一秒とかかっていない。これが出来るのは(しょう)並の魔術師か、それ以外の特別な何かを持った魔術師だけだ。どちらにせよ、とんでもなく厄介なのは確かだ。

 スーツの男の攻撃で、周囲の人間はパニックを起こし、すぐに遠くの方へ逃げて行った。佐々神からしたらありがたい。これで周囲を気にせず戦える。

 スーツの男は嬉しそうに笑う。何がおかしいのか、佐々神にはよくわからない。だが、腹が立ったのは確かだ。

「俺の名前は、風雅(ふうが)聖樹(まさき)。EARTHの一員だ。覚えておけ」

「攻撃の後に自己紹介か。気持ち悪い奴だな」

 佐々神は最大の嫌味込めて言うが、聖樹となる男は気にした様子はない。

「もう一度言うが、EARTHに来い。俺は戦いたくない。教主(ガーベラ)に命令されて来ただけだ」

 佐々神は教主(ガーベラ)がどういうものなのかよく分からなかったが、まともではないということだけは分かった。

「残念だが俺は断る。お前らには関わるつもりは、ない」

 言葉と同時に右手に握っていた石の状態の幻器(げんき)散弾銃(ショットガン)に変える。そして、攻撃範囲を捨て、威力のみを追求し、最大出力で散弾銃(ショットガン)を放つ。

 映画の中でしか聞けないような轟音が響く。

 が、聖樹は先ほどと同じように手刀を作り、水平に空を斬る。

 ビュン! 先ほどより少し大きい音がすると、佐々神の持つ散弾銃(ショットガン)から放たれた細い光弾(こうだん)が一瞬にして消えた。

 一体何があったのか。佐々神には理解が出来ない。

「何が起きたか、分かっていない様子だな」

 聖樹の言うとおり、何が起きたか分かっていない。見当すらついていない。最初は、水平に薙ぎ払うことで発動する簡易魔術(ショートマジック)だと思ったが、すぐに違うと気がついた。なぜなら、簡易魔術(ショートマジック)は二度は発動できないからだ。聖樹は確かに同じものを二度使った。おそらく、空気を操作する空気使い(エアマスター)なのだろうが、原理が分からない。それに、魔術を発動しているなら魔法陣が出現するはずだ。いくら術の発動が早いとは言え、光くらいは見えるはず。がしかし、聖樹の使う技には光が見えない。本当に手刀で薙ぎ払っただけなのだ。

 聖樹は馬鹿にしたように笑い、

「ま、種明かしくらいしてやろう。俺が使っているのは風雅流操風術。暗殺を得意とする最強と謳われた古武術だ」

「古武術?」

「ああ、そうだ。俺は第三七代目当主。先代たちは馬鹿だった」

 聖樹はそう言って話を始めた。どうやら本気で佐々神とは戦いたくないようだ。

「この武術は昔から『気』を使っているとされてきた。一〇〇年ほど昔、『魔術の原理』という一つの書物が書き記された。それを見た一部の人間は、風雅流が使っているのは『気』ではなく『魔力』だということに気がついた。だがそれを、風雅流の人間は認めようとしなかった。古来より流れる『気』だと言い張り、魔術を否定した」

 聖樹は突然、くすくすと笑い始める。

「だが、この様だ。今は風雅流は完全に廃れ、残ったのは魔術の存在を認めた俺一人のみ」

 聖樹は笑うのを止めると、

「これは進化だ。古武術と魔術、両方を合わせた文字通り最強の術だ。魔術により魔力を完全に制御し、肉体を強化する。そして、古武術風雅流操風術の動き」

 佐々神は口角を上げて言う。

「ベラベラと喋ってるとこ悪いんだが、結局風雅流ってなんだ?」

 九割嫌味を込めて言ったが、聖樹に気にした様子はない。

「お前に分かりやすく言うなら……素手での空気断絶(エアラプター)だ」

 佐々神に衝撃が走った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ