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魔術の原理―原書  作者: 岸田四季
聖初書~二章~
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第二章~Chapter 2~スーツの男

 現在、佐々神(ささがみ)たちはファミリーレストランを出て繁華街にいる。今が夏休みのせいか、辺りは人で溢れ返っている。人混みが苦手な佐々神にとっては少し億劫に感じる。がしかし、そんなことは言ってられない。なぜなら、厄介な奴に捕まってしまったからである。

 倉敷(くらしき)舞華(まいか)。見た目は、かなりカワイイ今時の女子高生だが、中身はと言うと……怖い。下手をすれば、そこら辺にたむろしているタバコ吸ったお兄ちゃんより怖い。ドスの利いた声に迫力満点のセリフ。佐々神は仁侠映画に出られるじゃないかと本気で思う。

「リョーヘー、リョーヘー。暑いなんかおごってよ」

 胸があふれそうなくらいシャツのボタンをはずしている、エロくもみっともなくも見える舞華が言う。

「ま、舞華ちゃん。さっきクレープおごってもらったばかりでしょ?」

 慈悲深き癒し系アイドル的なポジションを獲得している(あずさ)が止めに入る。そう言う梓が一番高価なクレープを食べているのも事実。

 ちなみに梓は少し間違っている。おごってもらったのではなく、舞華が財布を奪い取っただけだ。

 佐々神はすぐさま反論する。

「ふざけんなよ。俺はCD買いに来たんだぞ! それなのに……」

 佐々神は地面に両手をつき嘆き始めた。佐々神自身、現実世界でこれをやるとは思ってもみなかった。

「八六三円しかないんだぞ? これじゃ買えないだろ! 電車賃で精いっぱいだよ……」

 佐々神の視界がぼやける。

(あれ? 目の前が見えないぞ)

 基本的に学ラン以外には普通に接する舞華は、さすがに不憫に思い、

「ホラこれ」

 そう言って、五円玉を二つくれた。

(意味ねぇぇぇ)

 佐々神は心の中で思ったが、結構本気でやってるっぽいので口には出さなかった。

 周りの目があまりにも痛かったので、佐々神は立ち上がることにした。

 ズボンに着いたほこりを払い、腕で目から出た汗を拭う。その時梓がハンカチをそっとに差し出した。また佐々神の目から汗が出そうになった。



 しばらく、どこにでもありそうな繁華街をふらついていると、小さな公園を見つけた。佐々神たちはそこで一旦休憩することにした。

「あー、疲れた。リョーヘー、ジュース」

 まただらしない格好をして舞華が言う。

「お前は何様だ!」

 ついつい突っ込んでしまう。

「ッチ! リョーヘーのくせに……ま、いいや。この間おごってもらったし、今日はアタシがおごってあげる」

 この間とは、猫の死骸を見た時のことだろう。

 舞華は佐々神と梓の二人の注文を取る。梓は断っていたが、舞華が強引に欲しい飲み物を聞き出した。

(俺の財布が奪われた時は遠慮しなかったのに……)

 佐々神は心の中で嘆いた。

 舞華が買いにっているので、残った二人はベンチを探し席を取っておくこととなった。

 大して探さない内に三人が腰掛けられるベンチを発見した。そして、佐々神と梓はそのベンチに座る。

「舞華ちゃんって……なんだかんだ優しいよね」

「まぁ……な」

 佐々神はいろいろ思うところがあったがそう答えた。実際舞華は優しいと思う。普段がちょっとアレなだけで……。

「アイツ、俺が風邪引いたときは必ず家に来てくれるんだ。そして、散々『風邪引いてやんの』とか言って馬鹿にした後は、ちゃんと看病してくれる。ただ、優しくすることが恥ずかしいだけなんだよな……」

 佐々神は気が付くとベラベラと恥ずかしいことを喋っていた。

 梓はくすりと笑い、

「舞華ちゃん、信用されてるんだね。ちょっと羨ましいかも」

 そう言うとどこか遠くを見始めた。佐々神は気になったが、ちょうど舞華がジュースを買って帰って来た。

「ホラ、買って来たぞ」

 舞華は乱暴に佐々神にジュースを投げつける。

 よく見るとそのジュースは、何も言っていないはずなのに、佐々神の今一番飲みたい炭酸のジュースだった。

「やっぱ、優しいよな」

 佐々神は周囲の人間に聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。



 佐々神、梓、舞華の三人は公園を出て、再び繁華街へ来ていた。どうやら、二人は洋服が欲しいらしい。佐々神はあらかじめ言っておいた。「俺の所持金は八六三円だからな?」と。

「あずさー、これ似合うんじゃない?」

 そう言って真白なワンピースを梓の体に当てた。

「そう? 似合う? 亮平(りょうへい)君はどう思う?」

 梓は唯一の男、佐々神に尋ねる。

「ま、似合うな」

 そう告げると不満そうに、

「ッチ、もっと褒めるとか出来ないのかよ」

 舞華に悪態を突かれた。

 正直言うと、かなり気まずい。この店は女の子向けの服しか売っておらず、内装は女の子を意識した明るい色ばかりをチョイスしている。ピンク、紫、水色、黄色など色とりどりの壁に、何色って言うのか分からない暗いオレンジ色のようなライトが当てられている。おまけに通路を挟むと女性用下着がずらりと並んでいる。近づかないよう努力はしているが、時々視界に入って来る。こうして見ると、

「水着みたいだよなぁ」

「キモいな」

「りょ、亮平(りょうへい)君」

(ヤバ! 声に出てた)

 佐々神は慌てて誤魔化そうとするが全く通用しない。本日二度目の目から汗が流れそうだ。

 しばらくすると、梓と舞華の買い物が終わった。

「じゃ、次は下着ね」

 そう言って舞華は佐々神の腕をつかみ、ずかずかと下着コーナーへ入って行く。

「待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て、俺は外で待ってるって」

「はぁ? 意味分かんない」

「意味分かんないのはこっちだって。二人で見てくればいいじゃん。俺は下の本屋で時間つぶしてるから!」

 佐々神はなんとか誤魔化そうとする。が、

「いいじゃん、亮平君も一緒に行こうよ!」

 梓まで加わる。

「そうだよ、梓が言ってるんだよ。男だったら行かないはずないよね?」

 笑顔だが笑顔じゃない。



 佐々神は先ほどの建物から出て、入口のところにいた。結局あの後、下着コーナーへ連れ行かれ、散々連れ回されたが、梓、舞華は何も買わなかった。今考えてみると、ただ佐々神をいじって遊んでいるだけだったのかもしれない。

「じゃあ、次はどこいこっか」

 舞華は上機嫌に言う。

「適当にぶらぶらすればいいじゃん」

 佐々神は口ではそう言ったが、本音を言うと帰りたかった。だが、舞華が怖いので口が裂けても言えない。

 どこも行く当てがないので、しょうがなくぶらぶらと繁華街を散策する。ちょっと裏通りも見てみよう、と言う舞華の案で大通りから逸れた裏通りも行ってみたが、特に面白い物なくすぐに大通りに戻る。

 そんなことを三〇分程繰り返していた時、上下真白なスーツを着た茶髪のオールバックの二〇前後の男が声をかけてきた。

「お前が佐々神亮平か? EARTH(アース)まで来てもらおう」

 その言葉はずしりと重く、真夏の日差しを受けて汗ばんだ、佐々神の背中から汗が引いた。

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