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魔術の原理―原書  作者: 岸田四季
聖初書~二章~
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第二章~Chapter 2~世間の厳しさ

 八月一日、午後一時。

 佐々神(ささがみ)は、かなり遅めの起床をする。

 今は夏休み。気温は三五度をゆうに超えている。四〇度はあるのではないかと思ってしまうほど暑い。おまけにカラッとした暑さではなく、前日の雨の影響でじめじめして気持ちが悪い。エアコンはタイマーをかけていたのですでに止まっており、そのせいで佐々神の背中は汗でシャツとピッタリくっついている。

「暑っつー」

 文句を垂らしながら、別のシャツに着替える。

 佐々神の母親は朝から友人と出かけて家にはいない。よって昼食は用意されていないことになる。

「はぁ、めんどくさ」

 佐々神はまた文句を垂らす。

 そこであることを思い出す。

「そう言えば……今日CDの発売日だ」

 そう、今日は佐々神の好きなアーティストの新曲の発売日。二ヶ月以上待ち焦がれていた佐々神とっては、それだけで抑揚してしまう。

 それを思い出すと、すぐに出かける準備をし始めた。いつも通り適当に金髪を揃え、財布と携帯電話と家のカギを持つ。

 それが終わると靴を穿き、玄関を出た。



 佐々神は自宅近くの駅から一駅の繁華街へ来ていた。CDを買って昼食を済ませるだけなら、自宅近くの駅前でよかったが、ついでにいろんな買い物もしようと思ってここまで来た。

「それにしても暑い」

 独り言をつぶやくと早速エアコン(オアシス)を求め、街中を彷徨い始めた。

 適当にふらふらと歩いていると、目の前にオアシス、もとい大手のファミリーレストランを見つけた。

 佐々神はすぐに中に入る。

「いらっしゃいませ。一名様ですか?」

 ウェイトレスの女の子にそう聞かれ、恥ずかしさを覚えた佐々神は、「いえ、後から一人来ます」と答えようと思ったが止めた。よく考えれば、後から一人来ると言っておいて来ない方が恥ずかしい。

 佐々神は普通に答える。

「はい……一人です」

 佐々神は一人でファミリーレストランに来るのは初めてだ。

 そんな一名様の佐々神に対しウェイトレスは丁寧に対応する。

「かしこまりました。では、あちらの席にご案内します」

 そう言って奥の方の席へ案内する。

(そうだ、考えてみれば自分以外にも一名様の客はいっぱいいるじゃないか)

 そのことに気づき、少し元気を取り戻す。

 だが、それもつかの間、案内された席は最悪だった。いや、席が最悪なのではない。席の隣に座っている人達が最悪なのだ。

 柄が悪い連中が座ってる訳でも、派手派手なおしゃべりが大好きなうるさい女子高生が座ってる訳でも、なぜか手術の話が大好きな噂好きのでかい声でしゃべるおばさまたちが座っている訳でもない。ただ、クラスメイトの女の子が二人座っているだけだ。もっと言うなら、赤い髪のクラスメイトと黒い髪のクラスメイトの二人だ。この際、どこかの暴力団が座っていた方がまだマシだ、と思えるほど佐々神は愕然とした。

「アレ? リョーヘー何やってんの?」

 リョーヘー。佐々神のことをこんな風に適当に呼ぶのは、知り合いにただ一人。赤い髪の少女、倉敷(くらしき)舞華(まいか)だけだ。

「あ、ホントだ。亮平(りょうへい)君、何やってんの?」

(何もしてねーよ。何もしてねーから気まずいんだろうが!)

 心の中で軽くキレる。

 佐々神はとりあえず二人を無視して、ウェイトレスに案内された席に着く。

「あ、あのー、お知り合いの方ですか? でしたら、席をご一緒にした方が……「結構です!」」

 佐々神はピシャリと言う。

 ウェイトレスは佐々神に怯え、頭を下げてその場を去った。そして、残ったのは……二人の痛い視線のみ。

「うわー、サイテー」

「ウェイトレスの娘、可哀想だよー」

 黒髪の少女、巫梓(かんなぎあずさ)まで佐々神を責める。

(うわああ、ごめんなさい)

 心の中で謝る。だが、態度には出さない。理由は恥ずかしいからだ。

 佐々神は二人のことを気にしないよう努力をしメニューを見始める。

「ねぇねぇ、リョーヘー暇なの? 一人なの?」

 赤い髪の少女が痛いところばかり突いてくる。少し涙がこぼれそうだ。

(最近こいつらと会うと、泣きそうな目にばかり遭う)

 佐々神はそのことに気づくと、より一層無視するという決心を固める。

 しばらく無視を続けると、赤い髪の少女はとんでもない行動に出た。

「すいませーん」

 そう言って近くのウェイトレスを呼び付けると、

「この隣の席に移っても大丈夫ですか? クラスメイトなんですぅ」

(待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て、何してるんですか?)

 佐々神がそれを阻止しようとしたときにはもう遅かった。舞華と梓はこちらの席にコップを持って移動して来ていた。

「おい、ワレェ。なに無視してくれとんじゃあ。ぁン?」

 佐々神は瞬時に気づいた。こいつ絶対極道だ、と。

 佐々神は慌てて言い訳をする。

「え、えーと……ま、いろいろです」

 舞華は机を強く叩く。

「ぁあン? なめとんかワレェ。世の中そんな甘ないんじゃボケェェ!」

 佐々神は顎をガタガタ震わせる。

「無視してすみませんでした。以後気をつけます」

 そう言って頭を下げた。意地も恥も何もかも捨てて。が、その時見てしまった。梓もガタガタ震えてる様子を。

(……可哀想だろ)

「まあ、分かればいいのよ」

 舞華は元に戻った。

(あー、今度から本気で気をつけよう)

 佐々神は今度は別の決心を固めた。

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