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魔術の原理―原書  作者: 岸田四季
聖初書~一章~
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第一章~Chapter 1~流れるプールの正体

 学ランと二人で謎の洞窟らしき場所に流された佐々神(ささがみ)は、打開策を見つけようと必死で辺りを見渡す。しかし、どんどん流される。打開策どころか、ここがどこに位置する場所かすらわからない。

「おい、学ラン」

 佐々神は背後にいる学ランに声をかける。

 そして、なぜか後ろを向いていた学ランが振りかえる。

「ん?」

 振り向いた学ランの顔は凄まじかった。顔中漫画の世界でよくある、猫に引っかかれたような切り傷が無数にあり、体には青い痣がぽつぽつとある。よく見ると鼻血も出している。

 いったい何があったんだ? 佐々神は疑問に思った。

 とりあえず、舞華(まいか)のところへ戻らないといけない使命感(主に殺されるかもしれないという意味で)に駆られた佐々神は、学ランに尋ねる。

「舞華どこにいるか知ってる?」

「んー、ついさっきまで軽く意識飛んでたから分かんない」

 ごもっともです。佐々神はそう思った。

 学ランに聞いた自分が馬鹿だったと気付き、考え直す。

(そうだ! とりあえず、プールを出よう)

 佐々神はすぐに学ランにそのことを伝えようと再び振り向く。が、学ランがどんどん視界の右の方へ移動していく。

(あれ? あいつ何やってんだ?)

 佐々神は学ランの意味不明な行動に理解に苦しむ。

(いや、違う。俺が流されてるぅ?)

 学ランは流されていなかった。佐々神自身が流されていただけであった。

 そのことに気が付いた佐々神は、必死で元の場所へ戻ろうとするが、水流と化した水の力は偉大だ。その偉大な力に人間如きがで勝てるはずもなく、虚しく流されていく。

 佐々神はその時学ランを見た。本日二度目の本気で泣きそうな目をしながら、佐々神とは逆の方向へ流される学ランを。

(……シュールだな)

 佐々神は思わず吹き出した。



 現在、(あずさ)は花畑に囲まれた川のようなところにいた。ガラス張りの天井があるにもかかわらず、頭上にはさらにガラス張りの天井がある。よく意味は分からないが、途中から入ってこられないようにそうしているのか、と考え、納得する。

 梓は寂しそうに辺りを見渡す。だが、誰もいない。一人くらいいてもよさそうだが誰もいない。どんなに見渡しても見えるのは、さらにたくさんに分岐する新たなコースのみ。運がいいのか悪いのか。さっきからずっと、この花畑に囲まれたコースを流されている。

「本当にめちゃめちゃに流れるんだぁ」

 梓は感心する。実を言うと、更衣室で舞華からここのプールについては聞いていた。そして「面白そうだから、男二人には秘密ね」と言われていた。舞華のように演技こそしなかったが、ばれないようずっと黙っていた。

「でも、あたしまで迷っちゃったな」

 この『流れるプール』はその名の通り流れるプールなのだが、普通とは違う。普通は円をぐるぐると回っているだけだが、これはそうではない。途中に『迷路(ラビリンス)』と呼ばれるゾーンがあり、全長は三五〇メートルあるらしい。そして、『迷宮(ラビリンス)』にはランダムで吹き出されるジェット噴射があり、様々なコースへ飛ばされる。佐々神たちのように洞窟をイメージしたコースや梓が現在いる花畑をイメージしたコースもある。他にも、天空をイメージしたコースや近未来の町をイメージしたコースなど、全六種類あるらしい。本人の意思とは関係なく、いろいろなコースに飛ばされるその様子は、まさに『迷宮』だ。

 梓が暇そうにぷかぷかと浮きながら、水流に身を任せていると、目の前にある左側の分岐から人が流されてきた。

 梓は久しぶりに旧友に再開した時と似た感情を覚えた。目の前に流れてきたのは、佐々神だった。

亮平(りょうへい)君!」

 梓は思わず声をかけてしまった。

 佐々神は梓の方を見て、

「おお、梓か! 久しぶりだな」

 どうやら佐々神も梓と似たようなことを感じたらしい。

 梓はやっと見つけた知り合いの元へ泳いでいく。

「そう言えば、ここどうなってるんだ? なんかいきなりふっ飛ばされたぞ? しかも、ここ花畑だし……」

 梓は佐々神このプールについて説明する。ついでに舞華の作戦も教え、謝った。

 佐々神は梓の話を聞き終え、ようやく納得する。

「そんなハイテクなのか! すげーな。つか、舞華のヤツ……絶対、復讐してやる!」

 梓はさらなる舞華の復讐が怖そうだからやめなよ、とは言えなかった。

「そう言えば……」

 佐々神はそう言って話を切り出した。梓はいつもと違う雰囲気を感じ取り、すぐに「魔術か地下世界(アンダーグラウンド)絡みだ」と分かった。

「あのさ……あの日の事件。誰かに言ったりしたか?」

 梓は少し驚いた。まさかその質問をされるとは思っていなかった。「あの日の事件」……それは十中八九、四月一七日あった地下世界(アンダーグラウンド)侵入事件のことだ。

 梓は質問に答える。

「本当に誰にも言ってないよ……なんでそんなこと聞くの?」

 梓が誰にも言っていないのは本当だ。言えるはずがないのだから。

 本来なら”あの事件”がばれたら大変なことになってしまう。実際は地下世界(アンダーグラウンド)に入ってはいけないという法律は存在しない――が、入ったとすれば、侵入者を法の届かないところで裁くに決まってる。もしあれほどの施設が日本にあると、世界にばれてしまったら、とんでもないことになるに違いない。政府は必死で情報の隠蔽(いんぺい)をするだろう。おそらく、地下世界(アンダーグラウンド)に閉じ込めるなどの処置を取って。

 佐々神はうなる。

「んー、そうだよなー。言うわけないよな。あのさ……俺の親父が知ってたんだよ……あの日のこと」

「え?……」

 思わず大きな声を出してしまう。梓は疑問をぶつける、

「亮平君のお父さんって……確か政府関係の仕事している人だよね?」

「ああ。親父は『テロ特別対策本部』というところのトップだ。一応、防衛庁の傘下らしいが……表には公表されていない。『テロ特別対策本部』って名前だけど、実際はEARTH(アース)に対抗するために作られたようなもんだ」

 梓は寒気がした。そんな人にばれたら……そう思ったら怖くて仕方がない。

 佐々神はそれに気付いたのか気付いていないのか、

「大丈夫だ。親父は個人として知っているだけで、組織とは関係ないらしい」

 そう付け加えた。

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