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魔術の原理―原書  作者: 岸田四季
聖初書~一章~
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第一章~Chapter 1~迷子

 先に着替え終わった男性陣、佐々神(ささがみ)と学ランは入場門付近で女性陣が来るのを待っていた。

「あーまだかなー、(あずさ)ちゃん」

 学ランは警察に会ったら即職務質問されそうな気持ち悪い顔で言う。どうやら、相当楽しみなようだ。

 とりあえず佐々神は無視をすることにした。

 周りの人に知り合いと思われたくない。そう思った佐々神は距離を取り始める。

「おい、なんで離んだよ」

 学ランが近寄って来る。

 すぐに佐々神は距離を取る。近寄られたくない。本能的に思った。

 佐々神と学ランがくだらないことをやっているうちに、梓と舞華(まいか)はすでに集合場所へ来ていた。

「何やってんのアンタたち?」

 舞華が不機嫌そうに言う。

 直後、学ランが反応する。

「おお、すげー。何カッ、ブフォゥ」

 学ランが殴り飛ばされた。今回ばかりは仕方がない。おそらく「何カップ?」と聞こうとしたのだろう。

 佐々神は改めて舞華と梓を見る。男なら誰でも見惚れてしまうだろう。

 水色の地に白い水玉模様が付いたビキニを着ている。胸はもちろん大きく、はみ出るんじゃないかと、こっちが心配になるくらいだ。

 一方梓は、上下白のビキニタイプの水着で、下は水着と同色のフリルが付いている。幼さが目立つが、それが逆にいい味を出している……と、佐々神は思う。

「ベ、別に、ロリコンじゃないもん」

「は? 何言ってんの?」

 舞華に突っ込まれる。どうやら、口に出ていたらしい。

「そう言えばさぁ……リョーヘーは普通だけど……学ランの水着はなに? 流行りのギャグ?」

 舞華がようやく突っ込んでくれて、佐々神はホッとした。あまりにも気持ち悪過ぎて突っ込んでくれないんじゃないかと心配していた。

 がばっと起き上った学ランは答える。

「どうだ? 似合うっしょ?」

 このセリフに対し、

「ああ、似合うな……別の意味で」

「うん、そうね。別の意味で」

「に、似合うね。違う意味だけど……」

 どうやら全員の意見は一致したようだ。『学ランの馬鹿さ加減』にとても似合っている。

 佐々神は、こんなところでアホみたいな会話をしていても仕方がないと思い、とりあえず『流れるプール』へ向かう。

 舞華が言うには、ここの流れるプールは一味違うらしい。ただ流れるのではなく、めちゃめちゃに流れるというのだ。佐々神は、そこまで聞いても想像が付かなかった。

(めちゃめちゃに流れるプールってなんだ?)



「? 普通じゃん」

 流れるプールを目の前にし、学ランがつまらなそうに言う。確かにその通りだ。佐々神の知っている『流れるプール』とどこが違うか分からない。

「アレ? こんなのなの?」

 舞華も不思議そうにしている。どうやら、舞華の想像していたところとも違うらしい。

「ま、いいよ。行こうよ!」

 梓がそう言って盛大にプールに飛び込む。

 大きく波が立った直後、ライフセーバーに、

「コラー、お嬢ちゃん飛び込んじゃダメだよ!」

 と、注意された。

 梓は恥ずかしそうに頭を下げる。

 それに続き舞華、学ランも飛び込んで行った。例に漏れなく、二人とも注意されたがへらへらと笑っている。完全にわざとだ。

 佐々神はよくわからない場の流れに逆らい、普通に静かに入る。

「おい、ノリ悪いなー」

 学ランがムカつくことを言ったので沈めた。

 ブクブクと泡を立てながら沈んでいく。そして、段々と泡の量が減っていく。

亮平(りょうへい)君! 死んじゃうよ」

 梓に声をかけられたところでようやく手を離す。

「悪い悪い。沈めてること忘れてた」

 佐々神は笑いながら謝る。それに対し学ランは、

「おい、忘れるってどういう状況だよ! 死ぬところだったぞ!」

「ま、いいじゃん。学ランなんだし」

 佐々神は半分本気で言う。

「そもそも学ランってなんだ? 普段なら分かるが、今は水着だぞ。ちゃんと俺には名前があるんだぞ!」

 佐々神はある疑問が浮かぶ。

「お前って名前あんの?」

 それを聞いた学ランは唖然としている。

 舞華も思い出したように、

「そう言えばそうだ。名前あったっけ? あ、(がく)乱太郎(らんたろう)とか?」

「ちげーよ! なんで名前まで学ランなんだよ。もしそうだったとしたら、絶対学ランなんか着ないだろ。俺の名前は、ッぐがぼォ」

 学ランはまた訳の分からない叫び声を上げ、吹っ飛んだ。

「なげーよ」

 この一撃は言うまでもなく舞華だ。

 佐々神は思った。なぜそこまでして学ランの本名を知りたくないんだろうと。

(つか、ヤバいだろ。倒れたとこ水中だよ? 窒息するよ?)

 佐々神は慌てて学ランを引っ張り上げる。

「ッブハァ、」

 学ランは苦しそうに呼吸を整えている。

 佐々神は、ふとあることに気づく。ここはどこだ?

 辺りを見渡すと真っ暗で、でこぼこした岩のような壁面しか見当たらない。さっきまでいた梓と舞華の姿も見えない。

(まずい……はぐれた、というか迷子になった)

 佐々神は久しぶりの迷子体験をした。

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