第一章~Chapter 1~集合
午後一時二〇分。
現在、佐々神は学校近くの駅の改札にいる。
先ほどの約束を覚えているだろうか。「遅刻したら全額おごり」確かに舞華はそう言ったはずだ。
だが、ここにいるのは佐々神と梓二人のみ。後の二人は……不明だ。佐々神は一〇分前に着くとすでに梓がいた。そして、しばらく待つこと三〇分。最初のメンバーと全く変わらない。
これはあの約束はどうなるんだろうか。遅刻した二人が割勘でおごるということでいいのだろうか。佐々神は、まさか舞華が遅れるとは思っていなかったので、細かい約束まではしていなかった。
「……来ないね……」
梓が言う。
すかさず佐々神が答える。
「ああ、来ないな……」
佐々神は思う。この会話を何回しただろうと。
その時、一つの足音がすごい速さで近づいてくる。
「はぁはぁはぁ、遅れた」
そう言って駆けつけたのは、学ランである。
「ってか、舞華はいつ来んだよ!」
佐々神は思はず突っ込んでしまった。
直後、物凄い勢いで赤い髪の少女が走って来る。そして、拳を握りしめ、学ランの脇腹目がけ一撃を放つ。
「ッぐがぼォ」
学ランはまた訳の分からない叫び声を上げて倒れる。
佐々神は目の前の光景が理解出来なかった。なぜ学ランは殴られたのか。意味が分からない。
「よし、これで一番最後はこいつね」
舞華はそう言ってニコッと笑う。
佐々神は背筋が凍った。舞華は自分の遅刻を誤魔化すために学ランをぶん殴ったのだ。横暴にも程がある。
しかし、舞華はそれだけでは止まらなかった。
「おい、起きろや」
そう言って学ランを無理やり起こそうとする。
(……もうやめてあげなよ)
佐々神は可哀想過ぎて涙が出てきそうになる。
梓はどうしていいか分からず、あたふたしている。
(どうすんだよ……)
佐々神がこの事態を収拾する術を探していると、学ランはムクリと起き上った。
「あれ? なんで寝てるんだ?」
舞華は自分が遅刻したことがばれないように、
「アンタは遅刻したのよ。罰として全額おごりなさい。アンタは遅刻したのよ。罰として全………………」と、学ランの耳元で繰り返し囁く。
それを見た佐々神は思う。これは間違いなく、ただの洗脳だ。
「ま、舞華ちゃん可哀想だよ」
梓が止めに入る。
さすがに見かねた佐々神もそれに加わる。
「おい、お前も遅刻しただろ」
佐々神がそう言うと、不機嫌丸出しの顔で佐々神を睨みつける。
「大体この企画を考えたのは誰? アタシなの。それくらい我慢しろ!」
館を入れず佐々神は言い返す。
「確かにこの企画を考えたのはお前だ。だが、考えといて来なかったのもお前だ!」
「あ?」
佐々神はもう一度背筋が凍る。怖い。正直にそう思った。それからの行動は簡単だった。
『学ランに全額おごらせる』考えてみれば、自分には損はないじゃないか。そう悟った佐々神は、学ランを完全に見捨てるまで時間はかからなかった。




