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魔術の原理―原書  作者: 岸田四季
聖初書~一章~
53/71

第一章~Chapter 1~集合

 午後一時二〇分。

 現在、佐々神(ささがみ)は学校近くの駅の改札にいる。

 先ほどの約束を覚えているだろうか。「遅刻したら全額おごり」確かに舞華(まいか)はそう言ったはずだ。

 だが、ここにいるのは佐々神と(あずさ)二人のみ。後の二人は……不明だ。佐々神は一〇分前に着くとすでに梓がいた。そして、しばらく待つこと三〇分。最初のメンバーと全く変わらない。

 これはあの約束はどうなるんだろうか。遅刻した二人が割勘でおごるということでいいのだろうか。佐々神は、まさか舞華が遅れるとは思っていなかったので、細かい約束まではしていなかった。

「……来ないね……」

 梓が言う。

 すかさず佐々神が答える。

「ああ、来ないな……」

 佐々神は思う。この会話を何回しただろうと。

 その時、一つの足音がすごい速さで近づいてくる。

「はぁはぁはぁ、遅れた」

 そう言って駆けつけたのは、学ランである。

「ってか、舞華はいつ来んだよ!」

 佐々神は思はず突っ込んでしまった。

 直後、物凄い勢いで赤い髪の少女が走って来る。そして、拳を握りしめ、学ランの脇腹目がけ一撃を放つ。

「ッぐがぼォ」

 学ランはまた訳の分からない叫び声を上げて倒れる。

 佐々神は目の前の光景が理解出来なかった。なぜ学ランは殴られたのか。意味が分からない。

「よし、これで一番最後はこいつね」

 舞華はそう言ってニコッと笑う。

 佐々神は背筋が凍った。舞華は自分の遅刻を誤魔化すために学ランをぶん殴ったのだ。横暴にも程がある。

 しかし、舞華はそれだけでは止まらなかった。

「おい、起きろや」

 そう言って学ランを無理やり起こそうとする。

(……もうやめてあげなよ)

 佐々神は可哀想過ぎて涙が出てきそうになる。

 梓はどうしていいか分からず、あたふたしている。

(どうすんだよ……)

 佐々神がこの事態を収拾する術を探していると、学ランはムクリと起き上った。

「あれ? なんで寝てるんだ?」

 舞華は自分が遅刻したことがばれないように、

「アンタは遅刻したのよ。罰として全額おごりなさい。アンタは遅刻したのよ。罰として全………………」と、学ランの耳元で繰り返し囁く。

 それを見た佐々神は思う。これは間違いなく、ただの洗脳だ。

「ま、舞華ちゃん可哀想だよ」

 梓が止めに入る。

 さすがに見かねた佐々神もそれに加わる。

「おい、お前も遅刻しただろ」

 佐々神がそう言うと、不機嫌丸出しの顔で佐々神を睨みつける。

「大体この企画を考えたのは誰? アタシなの。それくらい我慢しろ!」

 館を入れず佐々神は言い返す。

「確かにこの企画を考えたのはお前だ。だが、考えといて来なかったのもお前だ!」

「あ?」

 佐々神はもう一度背筋が凍る。怖い。正直にそう思った。それからの行動は簡単だった。

『学ランに全額おごらせる』考えてみれば、自分には損はないじゃないか。そう悟った佐々神は、学ランを完全に見捨てるまで時間はかからなかった。

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