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魔術の原理―原書  作者: 岸田四季
聖初書~序章~
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序章~Introductory chapter~猫の死骸

 佐々神(ささがみ)は書斎を出て二階の自室にいた。

 書斎での話がまだ気になっていた。

 なぜ、佐々神宗太(そうた)地下世界(アンダーグラウンド)の事件を知っていたのか? いや、事件そのものは知らなかったのかもしれない。ただ、佐々神が地下世界に行ったということだけを知っていたという可能性もある。

 もしそうだとしても、なぜ知ってるいるか分からない。あの日、誰にも見られずに学校へ行ったはずだ。見られている可能性があるとすれば、あの日工事をしていた作業員の人だけだ。でも、たかが作業員が学校の地下へ人が入っていくのを見ても、不審には思うが政府の重役である宗太に連絡することはない。

 もし警察に言ったのであれば、おそらく事情聴取くらいは受けていただろう。それがないということは、本当に佐々神宗太以外には情報がいっていないのだろう。

 考えれば考えるほど、分からなくなってくる。

 そこで佐々神は、あることを思い出す。

「あ、今日水曜日じゃん。マンデーの発売日だ」

 そう、今日は佐々神の大好きで毎週読んでる週間少年誌『マンデー』の発売日だ。

 佐々神は早速コンビニへ行く支度をする。といっても、適当に金髪を整え、財布と携帯電話と鍵を持ち、部屋の電気とエアコンを消すだけだ。

 佐々神はリビングを通り、母親に「コンビニ行って来る」と声をかけ、玄関へ向かい、サンダルを穿き、扉を開ける。

 直後、むっとした空気が伝わって来る。佐々神は一瞬帰ろうと思ったが、『マンデー』をどうしても読みたかったので、仕方なく気持ち悪い暑さを我慢してコンビニへ向かうことにした。

 佐々神の自宅は普通の住宅街にある一軒家だ。そのため駅までが少し遠く、駅前のコンビニとなると徒歩で一〇分程かかる。だから佐々神は、駅とは反対方向のコンビニを目指す。住宅街の中に公園などがある少し開けた場所にあるコンビニだ。そこなら五分もかからずにつくため、普段はそこを利用している。

 佐々神は公園を抜け、コンビニの前まで行くと、屈みこんでいる見慣れた人物の背中を発見する。

 身長は一六〇センチ強と女子にしては少し大きく、瞳も胸も大きい。髪の毛はセミロングで左右に一本ずつ三つ編みを入れている。髪の色は赤で地毛の少女。

 舞華(まいか)だ。

 とりあえず声をかけてみる。

「おい、何してんだ?」

 佐々神が声をかけると舞華は体をビクッと震わせた。そして、首が取れるんじゃないかと心配してしまうほどの勢いで振り向く。

「な、なんだぁ。リョーヘーかぁ」

 ほっとしたように言う。何かと思い、コンビニの前の道路にいる舞華の前に、ある物体を見つける。

 猫の死骸。

 無残に内臓などが飛び出ていることから、車に()かれたのだと推測できる。おそらく舞華は、それを見て気分を悪くしていたのだろう。舞華はこの手のグロテスクなものは苦手だ。佐々神が見ても気持ちが悪いと思う『コレ』は、舞華にとってみれば相当なものだろう。

 佐々神はとりあえず舞華を落ち着かせるため、公園のベンチに座らせた。そして、飲み物を買いに自動販売機まで行く。

 二人分の飲み物を買うとまた舞華のいるベンチに戻って来る。

 佐々神は長い付き合いから舞華の好きな飲み物は把握している。炭酸だ。

 買いに行った自動販売機は、炭酸系の飲み物が一つしかなかったためそれを買ってきた。

 佐々神はベンチに腰掛け、舞華に飲み物を渡す。

「はいよ」

 舞華は嬉し恥ずかしそうにうつむきながら飲み物を受け取り、

「あ、ありがとう」

 佐々神は自分に買ってきた缶コーヒーを開け、飲み始める。

 しばらく、無言が続く。それは居心地が悪い無言ではない。お互いのことを知っていての無言だ。佐々神は舞華が喋りたくないのを知って黙り、舞華は佐々神が自分のことを気遣って黙っていることを知って黙っている。

 そして、ようやく舞華が口を開く。

「ありがとね。付き合ってもらって」

 舞華はまた恥ずかしそうにうつむく。

 佐々神はボーっとしたまま、

「あ? ああ、まあ、気にすんな。暇だったし」

 素っ気ない返事をする。いや素っ気ないのではない。素っ気ない振りをして、舞華に気を使わせないようにしているだけだ。

 だが、舞華がそれに気が付かないはずない。舞華はクスリと笑い、

「ありがと、もう落ち着いた」

 そう言ってベンチを立つ。

「じゃあ、遅くまでありがとね」

 そう言うとすぐに後ろに振り向き、走って帰っていった。佐々神は送っていこうとしたが、その前に帰ってしまった。

 仕方なく、残った缶コーヒーを飲みながら家に帰る。



「あ……マンデー読んでない」

 佐々神はまたコンビニへ向かった。

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