終章~Closing chapter~教主(ガーベラ)
「上手くいったか?」
いかにも偉そうな椅子に座っているのは、二〇歳前後の青年だ。髪は黒く、背丈は一八〇センチを優に越えている。モデルと言っても通用しそうなそのスタイルは、暗闇に紛れている。
深い青のジーパンに上は無地のダボッとした長袖のTシャツを着ている男は答える。
「はい、上手くいきました。教主」
教主というのは、EARTHのトップに贈られる最高の称号だ。
ジーパンの男はさらに言葉を加える。
「ですが、予定が少し狂いました。当初、Cattleya=Fortuneにcrossのフロントを討たせるつもりでしたが……」
椅子に座った教主と呼ばれる男は怪訝そうな顔でジーパンの男を見つめる。
「フロントを倒したのは幻器使いの少年です。それ以外の奇襲をかけ、フロントを追わせ、crossの戦力を削ることは成功しました。ですが……あの少年は何者なんですか? 幻器なんて伝説上の魔道具を持っているなんて……それに、短期間での成長速度が異常です」
教主の称号を持つ男は微笑み、
「彼はね、昔一緒に戦った仲間だよ。それに彼は………………」
ジーパンの男はそれを聞いて驚きを隠しきれなかった。そんなはずはない、そう顔に書いてあった。
「では、幻器の少年は……」
ジーパンの男がそこまで言いかけると教主の称号を持つ男は、
「そう。だから、彼をここまで連れて来て欲しい。あのお方が呼んでいる」
教主の称号を持つ男がそう言うと、ジーパンの男ははいと答え後ろに下がった。
「佐々神亮平、か……懐かしいな」
男はそう言うとどこか遠くを見つめた。
僅かに息をする黒いマントを着た男が地面にうつ伏せに倒れている。そばには白いロングコートを着た男が立っていた。ブロンドの髪は肩まであり、眼鏡をかけている。
白いロングコートの男は愚痴を漏らしている。
「まったく、なんでたかがガキに負けているんですか。まあ、あなたは末席の前部だからいくらでも替えはききますけど……大体私は二席の後部なんですよ? なんであなたの始末なんてしなくてはいけないのですか」
バックと名乗る白いロングコートの男は、全く応答のない前部に話しかけている。
バックはフロントに向け、右手を翳す。そして、詠唱する。
「黒死病」
バックがそう呟くとフロントの体中に黒い痣が出来ていく。やがてフロントの体は真っ黒に染まる。そして、僅かに息があったフロントの呼吸がゆっくりと止まる。とても静かだった。
バックはつまらなそうに、
「死ぬのが早いですねぇ。普段のあなたなら三時間は耐えられたはずですよ」
バックはニコニコと話しかけている。もう二度と呼吸のすることのないフロントに向かって。
そしてバックはどこから取り出したのか、三メートルを超える大太刀をフロントに向かって振り下ろす。
次の瞬間フロントの頭が真赤な液体と共に胴体と切り離された。
バックは忌々(いまいま)しげな顔をする。
「まったく、あなたの薄汚れた血がついてしまったじゃないですか。本当に最後の最後まで迷惑な人ですね。独断行動に走ってこれですか? はっ、ウルバヌス様が聞いたらなんと仰られるか」
バックはそう言うと大太刀を素早く振るい、こびり付いた真赤な液体を払い落す。
「それにしても、幻器の少年ですか……興味深いですね」
男は微笑みそのままどこかへ姿を消した。




