第三章~Chapter 3~くだらない原理
梓の首に剣の先端が突き刺さろうとした瞬間、佐々神は即座に反応し、
「hialga!」
一瞬辺りは光に包まれた。
「ックソ」
フロントは眩しそうに腕で目を覆った。
その隙に佐々神は二つの拳銃を双剣に変形させ、地面を蹴り一気に距離を縮める。射撃をしなかったのは、まだ目がくらんだ状態で撃てば梓に当たる恐れがあったからだ。
そして、フロント目がけて右に持った剣を突き出す。
だがフロントはそれに反応し、梓を離して距離を取る。人質は解放されたが危機が去ったわけではない。今は人の目から離れた場所にいるとは言え、いつ人が通りかかって巻き込んでしまうかわからない。常に辺りに気を配り、さらには梓を守りつつcrossの一人と戦うのだ。簡単とは言い難い。むしろ勝てるかどうかわからない。最悪逃げることも頭に入れて置かなければならない。
佐々神は少しずつ後ずさりをして、いつ攻撃が来ても対応できるよう一〇メートル程距離を取る。
それを見たフロントは、
「嬢ちゃん。運が悪かったネェ。こいつが邪魔に入らなければ、乱暴はしなかったンだけどよォ」
にやけながら佐々神を見つめる。余裕の現れか癖なのか分からないが、右手に持った剣をだらんと垂らしている。
「梓を巻き込むじゃねぇ!」
佐々神はそう叫ぶと、魔術も何も使わず一〇メートルを〇メートルにした。両手に持った双剣を交差させ、同時に斬りかかる。
フロントは軽く後ろに飛びつつ右手に持った剣で軽くいなす。
「その動きと言い、ここまで追って来れたことと言い、テメェやっぱり……」
フロントが途中まで言いかけると、それを遮るように佐々神が攻撃を仕掛ける。
カキン! という金属がぶつかる音がどんどん大きくなる。
「俺が何て呼ばれてるか知ってるか?……紅蓮の魔剣士だ!」
そう言うと突然、右に持った長い両刃の剣が真赤に燃え始めた。そして、フロントの周りを無数の野球ボールほどの火の玉がふわふわと漂い始めた。
フロントは剣を一振りする。佐々神は咄嗟に後ろに思いっきり飛ぶ。だが、それにも関わらず熱風が佐々神を襲った。
「ぐ、っ……ぁああ」
ただでさえ魔術によってボロボロになっている。熱風だけとは言え決して無視できないダメージだ。軽く意識が飛びそうになる。
フロントはその様子をニヤニヤ見つめる。
「なぁ、嬢ちゃんをこっちに渡せよ。そしたら、殺しはしネェ。こっちだって好きでテメェみたいなガキとやり合ってるワケじゃネェンだ」
佐々神は意識を繋ぎ止めようと踏ん張る。
「その嬢ちゃんを渡せばあのEARTH共とまともな交渉が出来ンだよ。したら世界が救えンの。その嬢ちゃん一人でEARTH潰せンだよ。安いもンだろ?」
佐々神はそれを聞くと意識がはっきり戻った。
「……ざけんな……ふざけんじゃねぇ! 世界を救うために女の子一人を危険な目に遭わすだと? バカじゃねぇのか? そんな子供でも分かる常識が分からねぇヤツに世界が救えるかぁ!」
佐々神は一気に踏み込む。ダメージをかなり受けているというのに、さっきの速度とは段違いだ。
構えも知らない剣をフロントの胸目がけて振り下ろす。
だが、フロントの周囲に浮かぶ火の玉が何個もくっ付き、炎の壁を形成する。佐々神の二つの剣は壁によって阻まれた。それどころか、逆に炎によって弾き飛ばされる。
「……ックソ」
そう吐き捨てると、両手に持った剣をさらに強く握りしめる。そして、回復魔術を唱えようとする。
だが、フロントはそんな隙を与えない。
「こっちの事情も知らネェでガタガタ言ってンじゃネェ、クソガキがぁ!」
周囲に浮かぶいくつもの火の玉が佐々神目がけて飛んでくる。
佐々神はボロボロの体に鞭を打ち、横に飛び地面を転がる。が、それを火の玉が追う。地面に転がっている佐々神は身動きが取れず火の玉が直撃する。
「……ぐ、あああああああああ」
体中ビリビリと電気が走るような痛みを受け、また意識が飛びかける。
なんとか抵抗しようと回復をする。
「hi……hialga」
弱々しく唱えると、弱々しい光が佐々神を包み込んだ。
佐々神は何とか立ち上がれる程度まで回復する。立ち上がれるまで待っているというのはフロントの余裕かもしれない。
佐々神は一歩足を踏み出す。
「待ってろ。その原理がくだらないってこと分からせてやる」




