第三章~Chapter 3~クソ野郎
佐々神が声をかけると梓は驚いたように振り向いた。それに続き隣にいた黒いマントを着た男も振り向く。
「え? なんで亮平君がここにいるの?」
佐々神は質問を無視して無言で男を見つめる。と、言うよりも睨みつけるのほうが正しいだろう。
癇に障ったのか男は舌打ちをし、
「あ? なんでテメェがここにいンだよ?」
相変わらず乱暴な口調だ。
「梓をどこに連れてくつもりだ?」
佐々神は静かに尋ねる。逆にその静けさが佐々神の怒りを表してるようにも思える。
この雰囲気を察した梓は慌てて止めに入ろうとする。
「ま、待って。ただ、フロントさんにお兄ちゃんのところまで案内してもらってるだけだから」
少しオドオドしながら言う。それほどまでに佐々神の気迫は凄い。
「へぇ、名前なんてあったんだ」
佐々神は馬鹿にするようににやけながら言う。
これがただの挑発だと気づいてるフロントは、
「ただの仕事上の位置の名前だ」とだけ言って口を閉ざす。
「んで、気になることあんだけど」
佐々神はにやけ顔から真顔に戻り、
「梓を案内するってどういうことだ?」
それに対し梓が慌てて答える。このままだとトラブルが起きる。そう直感した。
「だ、だから、フロントさんはEARTHの人でお兄ちゃんに頼まれて来ただけで、フロントさんは悪くないの」
フロントは顔をしかめる。それを見た梓は何かまずいことを言ったか、と不安になった。
「こっちの掴んでる情報と違うんだけど?」
佐々神は嫌味ったらしい笑顔を浮かべる。
フロントは諦めたように、
「はぁ、メンドクセぇなぁ」
フロントは声を荒げる。
「俺は無天井だ。EARTHのクソ野郎共と一緒にすンじゃネェ」
梓は困惑する。
「……どういうことですか?」
梓は全く理解できないでいた。フロントはEARTHじゃない。じゃあなんで、今まで梓をここまで連れてきたのか? 訳が分からない。
フロントに代わり佐々神が答える。
「簡単だ。EARTHを潰すためにお前を人質にしただけだ」
無駄な言い回しをせず事実のみを伝える。
フロントは頭を掻きながら、
「ま、ばれちまったし、しょうがネェな」
そう言って、虚空からレイピアを出す。が、それとほぼ同時に佐々神は幻器を二つの黒い拳銃に変形させ、フロントの手に掴まれようとするレイピアを撃ち抜く。
レイピアは真っ二つに折れ、クルクルと回転させながら地面に突き刺さる。
ようやく、佐々神の訓練の成果が見られた。
「早エェな」
フロントは嬉しそうに笑い、近くにいた梓を掴んで引き寄せ、いつの間に出現させたのか長い両刃の剣を梓の首元に当てる。
「大人しくしろ。ブッコロスぞ」
佐々神は呆れたように、
「EARTHとどっちがクソ野郎だよ」
「ざけんじゃネェ」
フロントは怒鳴り散らすと剣を高く振り上げ、梓の首目がけて一気に振り下ろす。




