第三章~Chapter 3~二度目の敗北感
佐々神は壁に叩きつけられた衝撃で、なんとか意識を取り戻す。
「、ッぐ……ッ」
佐々神は声が出ないほど痛みを感じていた。
(クソ、なんとか幻器を拾えれば……)
佐々神は痛くて動けないが、状況がそれを許さない。痛みに耐えながら、佐々神は石に戻ってしまった幻器に向かって駆け出す。
佐々神の靴底と地面がザッと擦れた音がする。それと同時に佐々神の進む位置を予測してジーパンの男が雷を放つ。
それを横に転がりながら避ける。避けると言うよりは転んだと表現したほうがいいのかもしれない。元々ダメージを受けていた佐々神の体は、無理に動かしたことによって思い通りにいかなくなっていた。
「チクショウ」
捨て台詞を吐き、立ち上がる。
だが、その時間すら与えないといったように雷が放たれる。それに続いて魔獣も襲いかかって来る。
ふらふらと立ち上がった佐々神は、ほとんど倒れるように横にかわす。
「……ぐ、ッあぁぁぁぁああ」
避けきれず足に直撃する。
痛いが倒れてる場合じゃない。雷の後には魔獣が数匹いる。佐々神は痛みが邪魔して魔獣の数も数えられなくなっていた。
「ッ……クソ」
佐々神は床を這って移動する。
ジーパンの男は不審な顔をする。
「お前まだ動けるのか? ホントに化物だな」
男はニヤッと不気味な笑いを浮かべる。
「けど、そんな化物も幻器がなけりゃ、ただのガキだな」
「ッ……」
佐々神は何も言い返すことが出来ない。
だが、気にしてる暇はない。魔獣は目の前まで来ている。万全の状態の佐々神ならなんてことないが今の状況だと絶望的だ。
辺りを見渡し、何か使えるものはないか探す。
ソファのところまでたどり着けば何とかなるか? いや、間にあわない。
思考を巡らせていると、気が付いたら魔獣は佐々神に飛びかかって来るところだった。
(これって死ぬのかな? ニュースだと腕とか食いちぎられてたし……)
佐々神はこの期に及んで無意味なことを考えていた。
瞼を閉じようとしたその時、部屋中に轟音が響いた。それだけではない、気のせいか部屋は熱くなっていて、真っ赤に染まっている。
(あれ? 魔獣に襲われたんじゃなかったっけ?)
佐々神は状況を整理しようと頭を動かしていると、つい最近から聞き慣れている声がした。
「アタシの教え子になにしてんの?」
声の主は、佐々神のことを教え子と呼んでいる。
(カトレアか?)
佐々神は確証を得ようと、辺りを見渡すが炎に包まれていてよく見えないが、二つのシルエットが見える。
そこへ、誰かが扉を蹴破り、侵入する。
「応援に来た」
男の声でそう言っていた。
おそらく、さっきジーパンの男が応援要請した奴だろう。
佐々神は先を見届けたかったが、ダメージを受けすぎたせいで瞼が重い。
『けど、そんな化物も幻器がなけりゃ、ただのガキだな』
ジーパンの男の言葉を思いだす。
(……ッ、ク、ソ)
床にうつ伏せの形で寝ていた佐々神は、思い頭を重力に任せた。
ダメージを少なくするため、なんとか腕を枕代わりにしたところで佐々神の意識は途切れた。




