第三章~Chapter 3~侵入者
カトレアは部屋を一つ挟んで隣の佐々神のいる部屋に向かっていた。
(とりあえず、梓ちゃんは怖いくらい順調ね。潜在能力だけならそこらの魔術師を遥かに超えてるわね)
ため息をつき、佐々神の部屋の扉を開けると、目の前に信じられない光景が広がっていた。
壁中にはドアノブ程度の穴が無数に空いていて、佐々神は両手には一五〇センチ程度の両手剣が握られていた。
どれもカトレアが目にしたことない光景だった。
「おう、カトレアか。壁にいっぱい穴空いちった」
佐々神が頭を掻きながら言う。
「こっちも穴空いてんのか」
ため息をつく。
「ん? 梓も穴空けたのか? 意外と脆いんだな」
佐々神は笑っているが、この壁はそう簡単に穴が空くはずない。中級魔術師(judgement)の練習でも使ったがそんなこと一度もなかった。カトレアですら、穴なんて片手で数えられる数しかない。
(それをこいつらアホ二人は……)
カトレアは完全に呆れかえっていた。
「で、まさかその剣で穴空けたんじゃないでしょうね?」
カトレアは尋ねる。どう考えたって、剣だけで空くはずがない。突き刺したにしろもっと平べったい傷跡が付くはずだし、そもそも剣で突き刺しただけで空くような穴ではない……はず。
「いや、四分の一くらいだ。後は散弾銃を絞って破壊力のみを追求した弾で撃った跡だ」
佐々神はサラッと言うが、四分の一は剣ということだ。
「どうやったら剣で穴が空くのよ」
カトレアは呆れた口調で言う。それもそのはず。梓だけでなく佐々神までが天才的な才能を持っていた事実に、さすがに呆れてくる。
「まあ、それは組み手の時までのお楽しみということで」
カトレアは次の組み手のときは死ぬんじゃないかと本気で思う。
梓はしばらく休憩ということになっていた。
先ほどまた大量な魔力を消費してしまったので、回復する必要があった。
(はあ、またやっちゃった。どうして制御出来ないんだろう?)
梓はこのことでずっと悩んでいた。魔力が少なく、ろうそくに火を灯すのがやっとの魔術師からしたら、なんて贅沢な悩みなんだ、と怒られてしまう。
それでも悩んだ。
(制御できないということは仲間まで巻き込んじゃうってことだよね? それじゃあ、使えないのと同じだ……)
部屋は静かだった。気持ちの沈んだ梓にとっては心地よく感じた。
が、それを乱す足音がバタバタといくつものセキュリティのかかった扉の向こうから聞こえてきた。その足音が扉の前で止まる。
「カトレアさん、大変です! 不審人物が数名侵入しました。直ちに迎撃体制に入ってください」
扉を開けられないのか、男は扉の前にあるマイクに向かって喋り、声が訓練所のスピーカから聞こえてきた。
梓は隣の部屋まで届いているかは分からなかったが、咄嗟に扉を開け外に飛び出していった。
(不審人物? とりあえずカトレアさんが来るまであたしだけ頑張らないと)
途中、マイクに向かって喋っていた男とすれ違ったが、それを気にもせずエレベータに駆け込み、一階のボタンを押した。




