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第92話 こみあげる殺意

 前回の場面の続きです。


◇グレイスの視点です

◆神の視点です


「ふむ。ふむ。なるほど……まだ早いな」

「「……え?」」


 オラウゼクスは剣を降ろし、龍との共鳴を解除した。

 雷龍(らいりゅう)に地面に降りるように指示をだす。


「どれ、小娘ども。剣を降ろせ。

 今の貴様らでは私の相手は務まらん。

 まずは黙って話を聞け」

「「……は?」」


 オラウゼクスは龍鐙(りゅうあぶみ)の固定をもはずし、砂漠の地面に降りたつ。

 そして剣を自分のそばに突きたてると、その場にどっかりあぐらで座りこんでしまった。


「……アンタ、なにしてんの?」


 呆れたように問いかけたのは、シュフェル。


「だから、黙って私の話を聞け。

 同じことを言わせるな。

 貴様らの『共鳴』はなっておらん。

 今のままでは相手にならんから、教えてやると言っているんだ」


 オラウゼクスは片方の膝に頬杖(ほおづえ)をつき、この場で話しこむ気満々な様子だ。


「「…………」」


 姉妹は無言で顔を見合わせた。

 二人は視線だけで会話する。


(どうする姉サマ?

 なんかコイツ面倒くさそうだよ。

 剣も手放してるし。

 ()っちゃう?)


 シュフェルはどっかりと座りこんでいるオラウゼクスのほうを(あご)でクイッ、クイッと指ししめす。

 それに対しレゼルは、小さく首を横に振った。


(いいえ、たしかにあの方は変な人ですが、真面目に言っているようです。

 話だけでも聞いてみましょう)


 最終的にシュフェルが譲歩(じょうほ)するかたちで、ふたりはうんうん! とうなずいた。


「わかりました、あなたの話を聞きましょう!

 私たちの『共鳴』がなっていないとはどういうことですか?

 私たちはしっかり龍の御技(みわざ)を使いこなしていると思いますが」


 話を切りだしたのはレゼル。


「使いこなしているだと? 笑わせるな。

 貴様らの龍の御技では私に太刀打ちできないことは先ほど剣を交えただけでもわかっただろう。

 貴様らはまったく技を使いこなせてなどおらん。――『共鳴』には、その先がある」

「!?」


 レゼルとシュフェルが再び目を見合わせた。

 ふたりは、思わずオラウゼクスに食いついた。


「私たちの『共鳴』は、まだ未完成だということなのですか!?」

「その先って……!

 んじゃあ、いったいどうやって!?」


 うってかわって食いついてきたレゼルたちとは対照的に、オラウゼクスはまったく自分の調子を崩そうとはしない。


「皆まで私に教えさせる気か?

 さっき貴様らの前で実際にやってみせていただろう。

 真似してやってみろ。

 待っててやるから、できたらまた戦いの続きをしてやる」

「…………」


 上から目線の物言いにレゼルたちは多少なりともイラッとしながらも、先ほどまでのオラウゼクスの様子を思いだしながら、彼の前で共鳴してみせることにした。



「ん? いったい、なにが始まるんだ……!?」


 俺たち、ほかの翼竜騎士団員たちは岩盤(がんばん)でできた高台へと避難していた。


 俺は愛用の望遠鏡で遠くから戦いの様子を覗く。

 激しい戦闘を急にやめたと思ったらオラウゼクスは座りこんでしまい、レゼルたちも戦いを再開する気配がない。

 なにやら話しこんでいるようだが……。


 今まで戦ってきたなかでも最強の敵を相手にして、まったく予想だにしていなかった展開だ。

 これは、地獄を見ることになるかもしれないぜ……!


 俺は固唾(かたず)を飲みこんだ。

 手のひらに汗がにじむのを感じながら、望遠鏡を強くにぎりしめた。



「こう?」

「違う」


 シュフェルが共鳴してみせたが、むべもなく否定される。

 激しい雷電が砂漠の地表を伝って消えていく。


「こうですか?」

「違う」


 今度はレゼルが共鳴してみせたが、やはり否定される。

 激しい烈風が砂漠の砂を舞いあげて消えていく。


「これでどうだ!」

「違う」


「これで決まりです!」

「全然違う」


「「…………!」」


 突如として始まった謎の指導。

 レゼルたちがオラウゼクスを見る目には殺気が帯びはじめていた。

 姉妹の怒りが、徐々に我慢の限界へと近づいていく。



「……あいつら、なにしてんだぁ……?」


 俺はひきつづき望遠鏡でレゼルたちの様子をうかがっていた。

 先ほどから何回も共鳴音が鳴りひびいているようだが、レゼルたちは一向に戦いを再開する気配がない。


「ブラウジ様、ちょっと水を飲んできてもいいですかぁ?」

「馬鹿モン! ダメに決まっとるじゃろ!」


 望遠鏡の視野の外で、騎士団員の誰かが頭をポカリと殴られた気配を感じた。



「ハァ……ハァ……ハァ……」


 龍と共鳴するだけでも、かなりの集中力と体力が消耗される。

 レゼルとシュフェルは何度も共鳴を繰りかえしたため、龍の背中に手をついて息を切らしていた。

 もちろんそんな彼女たちの様子など、オラウゼクスはお構いなしだ。


「どうした? もう終わりか?」

「「いいから、(アタシ)たちと戦えー!!」」


 姉妹が怒りの声をハモらせる。


「そう、その要領だ」

「「え?」」


 再び姉妹がハモる。


 オラウゼクスは立ちあがり、そばに突きたてていたヴァリクラッドを回収した。

 雷竜が翼を羽ばたかせはじめると、風で周囲の砂が舞いあがる。


「一から教えて覚えるものでもない。

 だが、次会うときは殺すつもりで戦う。

 死にたくなければ、必死に修練を積むことだな……」


 オラウゼクスは雷竜にまたがる。

 そして、思いだしたかのように付けくわえた。


「『共鳴』のその先の技術……。

 それは、『和奏(わそう)』という」


 それだけ最後に言い残すと、オラウゼクスと雷竜は名残(なごり)を惜しむ様子もなく、悠々と飛びさっていってしまった。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


 残されたレゼルたちは、去りゆくオラウゼクスの後ろ姿を呆然と眺めていた。

 彼の姿は徐々に小さくなり、晴れわたる空のなかへと消えていく。


 やがて、レゼルがぼそりとつぶやいた。


「なんだったの、あの人……」




 またやってしまった……。


 空前絶後の死闘を期待してくださっていた方はごめんなさい。

 第三部は全体的にこんな感じでゆる~く進んでいきます。

 今までもそうだったとは思いますが、第三部はとくに。笑


 次回投稿は2022/11/24の19時に予約投稿の予定です。何とぞよろしくお願いいたします。

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