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第67話 天井から射す光


◇グレイスの視点です

◆神の視点です


 ――ルトレストの王城。

 王の間の窓から、ミネスポネは雪原の戦況を俯瞰(ふかん)していた。


 そして、彼女は気づく。

 氷の壁外から自身の居城(きょじょう)を崩そうと、巨大な存在感を誇る物体が飛来してきていることに。

 野性としか言いようのない、人間をはるかに超越した身体感覚によって。


「! ……きましたわね」


 ミネスポネは氷狐(ひょうこ)に乗って凍った城の外壁を駆けのぼり、最高層である尖塔(せんとう)の物見台にまでたどり着いた。


 彼女は自身のちからが生みだしている暗雲の向こう側、氷の壁の外側へと視線を向けた。

 優美な氷の瞳の中央で、肉食獣のように縦長の瞳孔が絞りこまれる。


「……ふふふっ。

 面白い方々でありますわね。

 飛空船は世界に十数台しかない貴重なもののはず。

 わらわの居城を崩すのに、ここまで形振(なりふ)り構わぬ方々は初めてですわ」


 氷の壁に向かって、アイゼンマキナ製の飛空船が飛んで向かってきていた。

 しかもご丁寧に、別々の四方向から。


 氷の壁を目前にして、飛空船に減速する気配はない。

 恐らく操縦者はすでに龍に乗って脱出しており、船ごと氷の壁に激突させるつもりだろう。


 ミネスポネは、自身が造りだした氷の壁の強度をじゅうぶんに把握していた。

 その強度は、たとえ飛空船が全速力で激突したところで、壁が崩壊することはない。


 ……だが、アイゼンマキナに残っていたであろう爆薬と火薬を積みこまれていれば話は別だ。

 飛空船の積載量(せきさいりょう)いっぱいに積みこまれた爆薬が衝突と同時に爆発すれば、さしもの壁も崩されてしまうことだろう。


 しかし、この大胆な作戦をもってしても、ミネスポネの(みやび)な様相を揺るがすことはできなかった。


「強引なのは嫌いじゃないわ。

 ――でも、いささか手口が野暮(やぼ)ではなくて?」


 ミネスポネが舞い踊るようにエインスレーゲンを振りかざすと、再び莫大な量の水氷(すいひょう)の自然素が操られようとしていた。


 空を覆っていた暗雲が四方向に集まって氷にかたちを変えると、飛空船が衝突するであろう付近の氷の壁から、巨大な氷の腕が伸びだしてきた!

 氷の腕は飛空船をもつかみとれるほどの大きさで、飛空船の勢いを殺すように包みこむと、そのまま爆発させることなく凍結させてしまった。



 ――おいおい、飛んできた飛行船さえも簡単に受けとめちまうのかよ。

 しかも、四つ同時に……!


 グレイスもまた、氷の壁の外側へと視線を向けていた。

 規格外のちからで飛空船が受けとめられたのを目のあたりにして、嘆きにも似たため息しかでない。


 以前ポルタリアで感じていた嫌な予感が的中してしまったのだ。

 飛空船は、今では氷のオブジェの一部になってしまった。


 まさしく、ミネスポネは地にいながらにして、このファルウルの空の支配者であった。

 ……そう、()()()においては。



 ミネスポネが氷の腕で四艇の飛空船を受けとめたのと同時に、大地を揺るがすほどの爆音が氷の壁内に響きわたった!

 彼女が見おろす広大な空間のなかで、あちこちで火煙が立ちあがり、大量の雪が舞いあがっている。


「なんですって……?」


 ミネスポネは一瞬、何が起こったのかわからなかった。


 ――油断というわけではない。

 だが、彼女は飛行船をとめた時点でほんのわずかな一瞬だけ、思考を停止してしまっていたのだ。


 そして、彼女はすぐに起こった事態を理解した。翼竜騎士団の、真の意図とともに。



「のああああぁっ!!」


 地下水脈の大きく暗い空間で悲鳴を響かせているのはセシリア。

 ほかの偵察兵たちもいっしょだ。


 彼女たちは自分たちが仕掛けた爆発の風に煽られていた。


「ビ、ビックリした……!

 火薬()りすぎた。

 でも、うまく行ったかな?」


 地下洞の天井に大穴があき、そこから光が射しこんでいる。

 光が射しこんだことで、自分たちの足元で豊富な地下水が滔々(とうとう)と流れていたことがよくわかる。


 しかし、安心したのもつかの間。

 天井の大穴から、極寒(ごっかん)の冷気とともに水氷の自然素が流れこんできた!


「つべたぁっ!!」


 セシリアが自分の身を抱えてガタガタと震えている。

 自分が乗ってる龍も震えてるし、ほかの偵察兵たちも「寒い!」「凍るぅ~」と悲鳴をあげている。


 ……だがこれは、うまくいったという何よりの証拠だ。

 異次元なほどに蓄えられた水氷の自然素は、地下水の流れにのって広がり、氷の壁外へと運ばれていく。


 セシリアは震えながらも、光の射すほうへと視線を向けた。


「私たちはやったよ、レゼル。

 ぜったいに勝ってね……!」



 俺たち翼竜騎士団の真の意図は、氷の壁の破壊ではなく、地盤(じばん)の破壊。

 しかも一箇所ではない。

 十数箇所もの地点を同時に爆破した。


 地面にぽっかりあいた大穴の底は、広大な地下水脈の空間へとつながっている。

 氷の壁内に蓄えられていた水氷の自然素が、冷たく重たくなった空気とともにどんどん地下の空間へと逃げていく。

 地下水脈の流れにのって、氷の壁外へと運ばれていく。


 ミネスポネは空中をただよう自然素の流れを察知し、眼に見える範囲数カ所の穴をただちに氷を発生させて塞いだ。


 しかし穴の数が多く、死角になっている箇所の穴をすべて塞ぎきることができない。

 自然素の流出が、とまらない。



 飛空船を当初の予定どおり突撃させたのはミネスポネの注意を空へと向け、派手にかますことで混乱を助長(じょちょう)させることが目的だった。


 こちらの意図を先読みし、ちからずくで全艇阻止されたのにはただただ驚嘆(きょうたん)するばかりだったが、結果としてかなりの自然素を消費させることができたのではないだろうか。

 貴重な飛空船を四艇もぶっ壊すのには、かなりの抵抗があったが。

 (ホセには手紙でお小言を言われた)


 ちなみに爆薬はすべて地下洞の天井の破壊にまわしていたため、飛空船に積みこむだけの余裕はなかった。

 ……だからあれは、空っぽの()なのさ。



 ――俺たちが再出撃の準備に時間がかかったのは、地下洞の調査に時間がかかったためだった。


 雨に降られてポルタリア商会の本部に戻ったとき、俺はロブナウトから地図を借りていた。

 氷の壁内の地形がわかるファルウル全土の地図と、地下に広がる広大な地下洞の地図。

 いずれもポルタリアに古くから伝わる貴重な歴史資料だ。


 壁外に豊富に湧きでる水を見て、地下までは凍らされていないと予想できていた。

 地下まで冷やしたほうが冷却効率はよいのだろうが、水の循環を停滞させればファルウルの水資源が枯渇(こかつ)し、帝国が占領する価値が失われる恐れがあったからだ。


 地表と地下洞の地図を照らしあわせて実際に下見し、地盤がうすい箇所や氷で塞がれているだけの場所を入念に確認した。

 場所が定まったら、爆薬と火薬を設置していった。


 実際の爆破にはアレスやティランの部隊が行く案もあったが(サキナは地図が読めないので辞退(じたい)した)、地下には敵の手がまわっていないことがわかったので、最終的には偵察兵の部隊に行ってもらった。

 どうやら氷狐たちは雪氷(せつひょう)の表層付近を移動しているらしく、深くまでは潜ってこないようだった。


 水氷の自然を多く含んだ空気は冷たく、ずっしりと重い。

 本来あるはずのない冷気はどんどん地下へと流出し、かわりに吸いこまれるように、壁外からファルウル本来の暖かな空気が流れこんできていた――。




 また爆破ネタかよ! と自分の引き出しの少なさが悲しいのですが、シリーズ通して爆破ネタは今回で最後になる予定ですのでお許しください。


 戦いは、まだまだ続きます!


 次回投稿は2022/8/29の20時以降にアップロード予定です。何とぞよろしくお願いいたします。

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