表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/330

第66話 うねり、もたげる

 再出撃の日の朝。


 徐々に陽は高くなっていき、大気は暖かみを帯びていく。

 その日の最高気温を迎える頃合いにルトレストで激突できるように逆算して、翼竜騎士団は出撃した。


 この日はブラウジに依頼するのではなく、レゼル自らが兵士たちに激励の声をかけた。


「皆さん、この日まで防衛任務をありがとうございました。

 ……今日こそ、私たちが敵の将(ミネスポネ)を討ちたおすから。

 ぜったいに負けないから。

 だから、もうひとがんばりです。

 もう少しだけちからを貸してください。

 皆さんに、龍神の加護(かご)があらんことを!」


 レゼルの祈るように(つむ)がれる、飾りなき言葉。

 ブラウジのちから強い激励とはぜんぜん違う。


 しかし、聞く者に癒しを与える彼女の声は、兵士たちの心に染みいるようであった。

 一般龍兵たちは疲れた顔を見せながらも、その瞳には決意と闘志をみなぎらせている。


 そうして、俺たちはポルタリアの宿営地から飛びたった。

 ――作戦目標、『ルトレストの民の救出』。




 騎士団は氷の壁を越え、厚い雲を抜け、極寒(ごっかん)の銀世界を飛行して進む。

 そして、ルトレストの手前に広がる雪原にまでやってきた。


 ……前回は、ここで追いかえされた。


 王城が近づくにつれ、空気がさらに冷たく、宙をただよう氷の結晶の粒が大きくなってきている。

 このまま上空を飛行しているとまたミネスポネの攻撃の(まと)になるので、俺たちは徐々に高度をさげていった。


 天空高くそびえ立っていた巨大な針の山は嘘のように消えてなくなり、雪原は真っ(たいら)になっている。

 今回は、王城の手前で氷銀(ひょうぎん)の狐たちが姿を見せて俺たちを待ちかまえていた。


 ……だが、以前に見せた氷狐(ひょうこ)の総数より、明らかに数が少ない。


 氷狐が雪や氷のなかに(もぐ)れることはこちらもわかっているのだ。

 伏兵がいることをあえて匂わせて、俺たちの恐怖心を(あお)るのが目的だろう。

 今までのやり口から見ても、ミネスポネはじわじわと敵を追いつめ、苦しむのを見て楽しむのがお好みのようだ。


 ブラウジが騎士団の全軍に指令をだす。いよいよ、戦いの始まりだ。


「敵は氷雪(ひょうせつ)のなかに潜むことができるのじゃ。

『角』と『牙』は突撃せよ!

 包囲されたら、残りの全軍でかかるのじゃ!」


 ブラウジの号令で、アレス率いる『角』とガレル率いる『牙』が先陣をきって進軍を始めた!


 ミネスポネの攻撃の的とならぬよう、低空を飛行して氷狐たちの群れに襲いかかる。

 軍の先頭には、レゼルとエウロが同行していた。


 氷狐たちも迎えうつかたちで雪原の地を駆けだす。


 さらに、ひと組の氷狐が群れの先頭に踊りでた。氷狐の背中に乗っているのは、例の双子だ。


「きたな人間ども!

 ひとり残らず射殺(いころ)してやるわ!」


 氷狐に乗って現れたクラハが叫ぶ。

 すぐ後ろに寄りそうように付いてきていたネイジュが、水氷(すいひょう)の自然素の塊を練りあげている。


 彼女たちは騎士団の兵士たちに向けて洗礼を浴びせかけるかのように、大量の氷棘(つらら)掃射(そうしゃ)した!


「あなたがたの思うどおりにはさせません!」


 対して、レゼルはエウロと共鳴し、旋風を巻きおこした。

 氷棘を破壊して、一般龍兵たちを護る。砕けた氷片がレゼルが起こした風に乗って、巻きあげられていった。


 そうして、とうとう騎士団と氷狐の群れが激突した。

 双方の軍が接触した箇所から、戦乱の輪が広がっていく!


 本格的な戦力のぶつかり合いとなったところで、やはり伏兵の氷狐たちが雪原の雪から姿を現した。

 先行していた『角』と『牙』の部隊を包囲するかたちだ。


 後方で待機していた全軍に、ブラウジがさらなる指令をだす。


「『本隊』と『翼』も進軍せよ!

『爪』は味方が劣勢の箇所に加勢しつつ、さらなる伏兵に備えて外側から遊撃(ゆうげき)するのじゃ!」


 ブラウジ率いる『本隊』とサキナ率いる『翼』も突撃を開始する。

 ここにはシュフェルとクラムも同行する。シュフェルは「待ってました!」と言わんばかりに張りきっていた。


 ティラン率いる『爪』は特定の攻撃対象をさだめずに、遊撃しながら戦地の外側をめぐっていくこととなった。

 俺も全体の状況を把握しやすい『爪』に同行することとした。


 戦場の中心部は人と龍と氷狐がいり乱れ、乱戦の様相を呈している。


 氷狐は雪原という戦場において一個体一個体が強いちからと機動力を誇る。

 しかし、騎士団員たちも低空飛行ながら氷狐と戦ううえでの適切な距離を感覚としてつかみ始めていた。


 離れすぎてもこちらからは攻撃ができないうえに、氷狐は極低温の冷気の息を吐いてくる。

 近づきすぎず、離れすぎずに距離を保った。


 騎士団の兵士たちはもともと疲弊(ひへい)していながらも、気迫で氷狐たちと互角の戦いを繰りひろげていたのだ。


 ――だが、戦いの趨勢(すうせい)が均衡に達したときに異変が起こった。

 それも、地殻(ちかく)変動とも呼べるほどの激変。


「!?」


 突如として、雪原に積もっている雪が波立つようにうねり始めた。

 そして、雪のなかから巨人が頭をもたげるかのように地面の雪が盛りあがり、いくつかの連なる巨大な丘を形成してしまった。


「……なんだぁ、こりゃあ……!!」


 俺は思わず(うめ)いてしまった。

 またたく間に地形が変わり、光景が一変してしまったのだ。


 騎士団員たちが雪のなかに飲みこまれることはなかったが、突如変わった地形によって部隊が分断される。

 軍の配列が乱れ、連携が崩れる……!


 騎士団員たちが地形の変化に驚いていると、丘の上のほうから狐たちが顔をだし、飛びかかってきた。


「……!? うわぁ!」


 不意打ちを食らい、何人かの兵士や龍が犠牲となってしまった。


「こいつら、雪のなかを潜りながら丘を登ってこれるぞ! 上方も警戒するんだ!」


 騎士団員たちがお互いに警戒を呼びかけている。


 低所からの攻撃だけ警戒していればよかったはずが、地形に高低差が生まれ、上空からも氷狐たちが降ってくるようになった。

 平面的だった攻撃に高さの変化が加わり、騎士団員たちは苦戦を強いられる。


 ――ヒュードの高い回避能力のおかげでなんとか事なきを得ているが、狐たちは氷の息を吐きながら俺のところにまでビュンビュン飛んできやがる……!


 この地形変化は、恐らくミネスポネの仕業(しわざ)だろう。

 奴はルトレストの王城から、こちらの戦況をうかがっている。

 遠くにいながらにしてこれだけ戦場に影響を与えるのだから、やはり奴の恐ろしさは計りしれない。


 ……だが、約束の時刻はもうすぐだ。


 やられっぱなしじゃ済まさない。

 俺たちの作戦は今これから、始まろうとしていたのであった。




 ここから先、最後まで戦場を駆けぬけていくこととなります。

 どうぞお付き合いくださいませ!


 次回投稿は2022/8/25の20時以降にアップロード予定です。何とぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ