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第54話 双子の襲来

 翼竜騎士団が氷狐たちを押しかえしつつあったころ、戦場に異変が起こる。

 地響きのような重低音が、雪原の雪を震わせた。


「!?」


 騎士団の右方に小高い丘があったことは認識していた。

 だが、今は丘を覆っていたすべての雪が舞いあがり、津波のよう――つまり、雪崩(なだれ)のように押しよせてきていた。


 今すぐなにか手を打たなければ騎士団員すべてが丸飲みにされてしまうであろうほどの規模。

 押しよせる雪崩に、右方の端にいた兵士と龍たちが数騎飲みこまれてしまった!

 何匹か氷狐も巻きこまれているが、雪に飲みこまれても平気なのか、奴らが逃げようとする気配がない。


「また奇襲……!」


 レゼルが再度共鳴を深め、自身の周囲に風を立ちあげる。

 彼女とエウロのまわりで風が勢いを強め、雪を舞いあげていく。


暴風(ミネストール)』!!


 レゼルは強烈かつ広範囲の風を巻きおこし、雪崩と相殺(そうさい)させた。

 だが、勢いをなくして壁のように崩れおちる雪の合間から、高速でなにかが飛びだしてきた。


 ――氷棘(つらら)だ! 


 先ほど上空で飛来してきたもののように、先端は剣のように鋭く尖り、人間の大人ほどの大きさもある。

 氷棘はアイゼンマキナの固定砲台で撃ちだされた弾丸のような、凄まじい勢いで飛んできていた。


 だが、なにより驚異的なのはその連射速度だ。

 氷柱は雪の壁の向こうから絶え間なく撃ちだされており、しかも一本一本わずかに射出角度をずらしてある。


 氷棘が、龍の御技(みわざ)を発動した直後の無防備なレゼルとエウロに襲いかかる!

 奇襲されたことにより、完全に不意を突かれたかたちだ。


「姉サマ、あぶないっ!」


 今度はシュフェルとクラムが共鳴し、とっさにレゼルたちの前に滑りこんだ。

 身に雷のちからをまとって強化させ、迫りくる氷棘をすべて剣で叩きわっていく。


 だが、外に逸れていった何本かの氷棘が、ほかの騎士団員たちのほうへと飛んでいった。

 兵士たちは危機を察知し、かろうじて氷棘をかわす。


「姫様とシュフェルが戦闘を開始するゾ!

 皆の者、巻きぞえを食わぬようにさがるのじゃ!」


 ブラウジが、さらなる指示を飛ばした。


 ――明らかに氷狐(ひょうこ)とは異なる敵。

 レゼルとシュフェルが本気で龍の御技による戦闘を開始すれば、一般龍兵たちが付けいる隙はない。

 ブラウジの指示に従い、兵士たちは戦線をさげた。


 雪崩と暴風が衝突して舞いあがった雪が収まるのにつれて、氷棘の攻撃がやみ、視界がひらけてくる。

 恐らく、先ほどの雪崩もレゼルたちの龍の御技に(るい)する自然素の操作。

 そして、これだけの規模の攻撃を起こせる者ということは……!


「『氷華(ひょうか)』ミネスポネか……!?」


 俺は舞いおちる雪の向こう側を見ようと目をこらした。

 ……だが、そこに見えたのはひとりではなく、()()()の人影だった。


 ――双子のようだった。


 ふたりとも氷のように髪は青く、雪のように肌は白い。

 年齢はレゼルと同じくらいに見え、雪の結晶を(かたど)った髪飾りをそれぞれ右と左につけていた。

 そして、一枚の布地でできた服でからだを緩く包み、腰に巻いた布で結んである。


 彼女たちは、それぞれ大きな氷狐に横座りして乗っていた。


 氷棘による攻撃が収まったところで、レゼルとシュフェルは互いに言葉を交わす。

 彼女たちも雪崩の向こう側にいた敵の存在を視認していた。


「危なかったね、姉サマ」

「シュフェル、ありがとう。

 あの方たちは……?」

「んだぁ、アイツら……」


 シュフェルは敵意剥きだしで双子をにらみつけている。

 今にも「ガルル……」と(うな)りだしそうな様子だ。


 ちなみにシュフェルがまたがっているクラムは、隠す素振(そぶ)りもなくめちゃくちゃに唸っている。

 (龍は長く付きあっていると、(あるじ)に似てくる)


「あいつら、人間のくせにあたしたちのことにらみつけてない?」

「にらみつけてるわ、姉上」


 双子のうちの片方は可憐な顔をゆがませて、こちらに対する憎悪(ぞうお)(あら)わにしていた。

 その目つきは、本物の狐のように鋭い。


 双子のもう片方も顔はうりふたつだが、表情は無だ。

 相手を「姉上」と呼んでいることからも、双子の関係であることに間違いはなさそうだが……。


「不愉快極まりない。

 あいつらを刺し殺すわよ、ネイジュ」

「……はい、姉上」


 今にも攻撃を再開しそうな様子の双子に、レゼルが待ったをかける。


「お待ちなさい!

 私はカレドラル国女王のレゼル!

 あなたたちは何者ですか?

 名を名乗りなさい!」

「お前らはすぐにあたしたちに殺されるんだから、名乗ろうが名乗るまいが関係ない」

「関係ない」

「はっはっは、上等ォ!

 それはアタシたちのセリフだ、オマエらに名乗る名前などない!

 わが剣の血錆(ちさび)にしてくれる、華々しく戦場で散るがいい!」


 戦場での礼儀として名乗りを要求するレゼル。

 そして礼儀などお構いなしにいがみあう双子とシュフェル。

 これではどちらが悪者かわからない。


 ふと、双子とシュフェルとが対峙(たいじ)するさまを見ていた俺は『狐 対 虎』という構図を思い浮かべてしまった。

 そんなこと考えてる場合じゃないんだけどな。


 戦闘は不可避であることを悟り、レゼルとシュフェルは再度共鳴し、それぞれ風のちからと雷のちからを身にまとう。

 対して、双子のほうも攻撃態勢にはいった。


「ネイジュ、行くわよ。

 お前はあたしのために働くためだけに生まれてきたの」

「はい、姉上」

「……!?」


 レゼルたちは双子の動向に注目していた。


 ネイジュとよばれる妹のほうが両手をかざすと、手と手のあいだに凄まじいほどの勢いで冷気が集まり、氷の塊が練りあげられていく。

水氷(すいひょう)の自然素』が、ネイジュの手もとに集められているようだ。


 そして双子の姉のほうもその氷の塊に手をかざすと、塊から次々と氷棘が撃ちだされていく!

 数多(あまた)の氷棘が空を切り、レゼルとシュフェルたちを貫こうと飛んでいった――。




 次回投稿は2022/7/21の19時以降にアップ予定です。何とぞよろしくお願いいたします。

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