第328話 無限の空へ
◆
――ファルウルの北の山脈で、ひとつの命が生まれようとしていた。
雪の結晶に魂が宿り、幼い少女のかたちをなす。氷の瞳に、氷細工のような髪。耳は狐なのに垂れ耳だ。
少女のまわりに、氷銀の狐たちが集まってきた。
氷銀の狐は、賢王クルクロイの施策によって厚く扱われ、またその数を増やしていた。
今ではファルウル国民の守り神として、人間と仲良く共存しているという。
少女は自分が置かれた状況がわからずに、あたりをキョロキョロと見まわしている。
「……あり? あちきはだれ?
ここはどこでありんちゅ?」
――氷銀の狐は氷の粒があればそこに魂が宿り、自然に生まれるもの。
でもときに、愛した人間への情念が漂い、人のかたちをなすことがある――。
◇
結局、当面のあいだはカレドラルの統治はそのままホセに任せることにした。
学者として世界じゅうをめぐる旅は、もう少しだけ辛抱してもらうこととなってしまった。
だが、政治に携わることは学ぶことが多いとのことで、さすがの勤勉ぶりである。
俺とレゼルは、各国の小さな争いを治め、相互の理解を深めるべく、あちこちの国を毎日飛び回っている。
レゼルの『夢の国』へと、少しずつではあるが、一歩ずつ進んでいく。
――結局、また空を旅する日々に戻ってきてしまった。
だが今は、この空の守り神とともに。
いつも大聖堂の屋上から、俺とレゼルは出発していた。
今日は名もなき辺境の小島に行く予定だ。
俺はいつものごとくヒュードの背にまたがった。
「さあ、行こうぜレゼル……って、あれ?」
飛びたつ直前、エウロのほうを振りむいたが、その背中にレゼルがいない。
と、振りむいたのと同時に、背中に柔らかな重みを感じた。
レゼルは横向きにヒュードの背中に座り、俺にもたれかかっていた。
そんな俺たちのことを見て、エウロとヒュードが不思議そうな顔をしている。
「たまには私もヒュードに乗ってみたいから、今日はこういう配置でどうかなー、と思いまして。……ダメですか?」
……彼女の提案に、俺は思わず笑ってしまった。
「もちろんダメじゃないさ。
……振りおとされるなよ?」
……レゼルがその気になれば、『光の翼』と『闇の翼』で空を自由に飛びまわれることを、俺は知っている。
だが彼女はなにも言いかえすことなく、俺の身体に手をまわし、ぎゅっと抱きついた。
そうして彼女は顔をほころばせて、笑った。
「はいっ」
俺はヒュードとエウロに合図をだし、なにもない宙へと飛びこんだ。
目の前に広がるのは、どこまでも続く青い空。今日も俺たちは、『夢の国』を求めて飛んでいく。
物語は、無限の空へ――。
( お し ま い ! )
※最終話を投稿した今この瞬間、涙があふれて、とまりません……!
『レヴェリア、龍の舞う島々 ―無限の空をめぐる戦い。夢の国を造る少女と、それを支える男の物語―』完結です!
ご愛読、ありがとうございました!!
(次回のおまけページをもってして、完結表示とさせていただきます)




