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第328話 無限の空へ

 ――ファルウルの北の山脈で、ひとつの命が生まれようとしていた。


 雪の結晶に魂が宿り、幼い少女のかたちをなす。氷の瞳に、氷細工のような髪。耳は狐なのに垂れ耳だ。


 少女のまわりに、氷銀(ひょうぎん)の狐たちが集まってきた。

 氷銀の狐は、賢王クルクロイの施策によって厚く扱われ、またその数を増やしていた。

 今ではファルウル国民の守り神として、人間と仲良く共存しているという。


 少女は自分が置かれた状況がわからずに、あたりをキョロキョロと見まわしている。


「……あり? あちきはだれ?

 ここはどこでありんちゅ?」


 ――氷銀の狐は氷の粒があればそこに魂が宿り、自然に生まれるもの。

 でもときに、愛した人間への情念が漂い、人のかたちをなすことがある――。



 結局、当面のあいだはカレドラルの統治(とうち)はそのままホセに任せることにした。


 学者として世界じゅうをめぐる旅は、もう少しだけ辛抱(しんぼう)してもらうこととなってしまった。

 だが、政治に(たずさ)わることは学ぶことが多いとのことで、さすがの勤勉(きんべん)ぶりである。 


 俺とレゼルは、各国の小さな争いを治め、相互の理解を深めるべく、あちこちの国を毎日飛び回っている。

 レゼルの『夢の国』へと、少しずつではあるが、一歩ずつ進んでいく。


 ――結局、また空を旅する日々に戻ってきてしまった。

 だが今は、この(レヴェリア)の守り神とともに。


 いつも大聖堂の屋上から、俺とレゼルは出発していた。

 今日は名もなき辺境の小島に行く予定だ。

 俺はいつものごとくヒュードの背にまたがった。


「さあ、行こうぜレゼル……って、あれ?」


 飛びたつ直前、エウロのほうを振りむいたが、その背中にレゼルがいない。

 と、振りむいたのと同時に、背中に柔らかな重みを感じた。


 レゼルは横向きにヒュードの背中に座り、俺にもたれかかっていた。

 そんな俺たちのことを見て、エウロとヒュードが不思議そうな顔をしている。


「たまには私もヒュードに乗ってみたいから、今日はこういう配置でどうかなー、と思いまして。……ダメですか?」


 ……彼女の提案に、俺は思わず笑ってしまった。


「もちろんダメじゃないさ。

 ……振りおとされるなよ?」


 ……レゼルがその気になれば、『光の翼』と『闇の翼』で空を自由に飛びまわれることを、俺は知っている。

 だが彼女はなにも言いかえすことなく、俺の身体に手をまわし、ぎゅっと抱きついた。


 そうして彼女は顔をほころばせて、笑った。


「はいっ」


 俺はヒュードとエウロに合図をだし、なにもない宙へと飛びこんだ。

 目の前に広がるのは、どこまでも続く青い空。今日も俺たちは、『夢の国』を求めて飛んでいく。


 物語は、無限の空へ――。



 ( お し ま い ! )

※最終話を投稿した今この瞬間、涙があふれて、とまりません……!


『レヴェリア、龍の舞う島々 ―無限の空をめぐる戦い。夢の国を造る少女と、それを支える男の物語―』完結です!


 ご愛読、ありがとうございました!!


 (次回のおまけページをもってして、完結表示とさせていただきます)

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