表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
328/330

第327話 心の剣

 ある日、シュフェルはとある場所を訪れていた。


 ジェドの城壁をでて山間(やまあい)を抜けるとたどり着く、切りたった(がけ)

 その崖の上からは見晴らしがよく、ジェドがある島の風景を一望することができた。


 島の風景の向こう側には青い空が広がっている。

 空に浮かんだ白い雲が、高くのぼった陽の光を照りかえしていてまぶしい。


 切りたった崖の先端には土が盛りあげられており、一本の剣が突きたてられていた。

 ……ここは、ガレルの墓。


 戦場から持ち帰られた彼の遺体は、このカレドラルの地へと埋葬(まいそう)されたのだ。

 突き立てられた剣は、彼が所持していた剣である。


 シュフェルはクラムと、ガレルの相棒の龍を連れて墓参りにきていたのだ。


「クウウゥ…………」


 ガレルの相棒の龍は彼の墓の前にたどり着くと、悲しげな鳴き声をあげた。


 この龍の名前は、ルージェス。

 ガレルの髪と瞳と同じ、燃えるような紅蓮の(うろこ)をもつ龍である。


「……ただいま。ぜんぶ終わったよ、ガレル」


 シュフェルは墓の前にひざまずき、死者を(とむら)う儀礼を行った。

 目をつむり、両手を組む。

 龍御加護(たつみかご)の民に古くから伝わる、死者に捧げる祈り。


 ……シュフェルは祈りを終えると、目をひらいた。

 ガレルの剣の刀身が、自身の青いサファイアのような瞳を、映しだしていた。


 シュフェルは、ガレルが死の間際に彼女に残した言葉を思いかえしていた。

 彼がシュフェルの耳元でささやいた、彼女だけが知る言葉。


『ただの恰好つけだって、最期まで貫きとおせたら恰好いいんだよ』


 その言葉を思いだし、シュフェルはおかしそうに吹きだした。 


「ったく、あのバカ。最期の最期まで恰好つけてさ。

 死ぬ間際くらい、ほかに言うことはないのかよ」


 ――アタシのことをどう想ってたか、とかさ。


「…………」


 シュフェルは剣を見つめたまま、黙りこんでしまった。


 シュフェルがしばらく黙りこんでいると、ルージェスが彼女の肩を鼻先でつついた。


「クゥ、クゥ」

「え? この剣がどうかしたって……?」


 シュフェルがはっと我に返ると、ルージェスは今度はガレルの剣のほうを鼻先で示していた。


 ……ふと、彼女はガレルの形見の剣の取っ手にさらしが巻いてあることに気づく。

 そしてなんの気なしに、そのさらしをはずしてみた。


 さらしをはずした剣の取っ手には、文字が刻みこまれていた。

 刻まれてから何年も経ったであろう、古い彫りあと。

 取っ手には、こう書かれてあった。


(シュフェル)のために 強くなる』


 この剣は、ガレルが死ぬ間際までにぎっていた剣……!

 彼は死を迎える最後の瞬間まで、この剣を手に、心ににぎっていたというのか……!!


「~~……っ!!」


 その文字を見た瞬間、今まで抑えていた想いがこみあげてきた。

 もう我慢できずに、シュフェルの瞳から大粒の涙がポロポロと流れおちた。


「うぁ……ああぁ……うあああぁぁぁ……!!」


 ぬぐってもぬぐっても、涙がとまらない。

 切なくて、寂しくて、胸の震えがとまらなかった。


 クラムとルージェスが頭を寄せ、悲しみを分かちあってくれる。

 シュフェルは龍たちの頭を抱えながら、いつまでも、いつまでも、泣きつづけていた。




 ――いったいどれほどのあいだ、泣いていただろうか。

 いつの間にか高くのぼっていた太陽は夕日となり、空を朱く染めていた。

 彼女の腫らしたまぶたが、夕日の光でよりいっそう赤く見えていた。 


「……ガレル、じゃあね。また会いにくるよ」


 ジェドへと帰る、山間の道。

 シュフェルはうつむきながら、とぼとぼと歩いて帰る。


 すぐ後ろにはクラムとルージェスが付いてきているから、自分はひとりじゃない。

 でも、それでも……。

 寂しくないと言ったら、嘘になる。


 彼女は歩みをとめない。

 強く生きていかなければならない。

 どんな寂しさも、へっちゃらになるくらいに。


 シュフェルたちが山間の道を抜け、視界がひらけた、そのときだった。

 彼女は、歩みをとめた。


「あ……」


 シュフェルの歩む先には、彼女の帰りを待つ者たちがいた。

 レゼルがいる。グレイスかいる。

 ホセも、ブラウジも、アレスにサキナも、ティランにセシリアもいる。


「シュフェル、おかえり」


 誰もが笑顔で、彼女の帰りを待ってくれていた。


「みんな……!」


 シュフェルは駆けだし、みんなの胸のなかへと飛びこんだ。


 ――そうだ。アタシにはともに歩んでくれる仲間がいる。

 だから、寂しくなんてない。

 でも、ガレルのことはぜったいに忘れないからね。


 大丈夫。

 今のアタシには、『心の剣』があるから。




※第一部を小説賞に投稿して一次選考落ちしたとき、第二部を書きはじめていたところで、本作を書きつづけるかどうか非常に悩みました。


 しかしちょうどそのとき、ガレルという登場人物が生まれ、今回のエピソードを書こうと思いたったときに、本作を最後まで書きつづけることを決心しました。

 ガレルがいなければ、この作品が最後まで描かれることはなかったでしょう。


 君のおかげです。ほんとうにありがとう、ガレル。



 次回、いよいよ最終話です!


 次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ