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第325話 戦いを終えて

 すべての戦いを終えたあと。

 光と闇を統合し、創世の神のちからを得たレゼル。


 彼女は、永遠の命を得ることを望まなかった。

 ただひとつ、彼女は神のちからを、エウロの片翼を再生することにだけ使った。


 ――人種も国境の垣根も超えて、誰もが幸せに暮らせる『夢の国』を造ること。


 レゼルが、ずっと見続けてきた夢。

 今の彼女ならば、すべての人間の意思を強制的に改変して、争いのない『夢の国』をつくることすら容易(たやす)いだろう。

 だが、それでは(うそ)いつわりの世界をつくりだしているにすぎない。


 彼女は望んだのだ、ひとりの人間として。

 人と龍が、自らの望みで心を変えていくことを。

 この世界が、自分たちのちからで成長していくことを。


 この空に、もう神はいない。

 でも、どうか。

 どうかせめて、彼女の祈りがこの空のすみずみにまで届きますように――。




 戦いを終えて数カ月。


 石造りの静謐(せいひつ)な街並み。

 行きかう人々の幸せそうな顔。


 ここは神聖国家カレドラルの首都、ジェド。

 俺たち翼竜騎士団は、本拠地であるジェドへと帰ってきていた。


 戦後のあとかたづけも一段落つき、落ちつきを取りもどしつつあったころのこと。

 俺とヒュードは街の市場へと、買いだしにきていた。


「みんな、幸せそうだなぁ。

 なぁ、ヒュード?」

「ガルっ♪」


 街を歩いているのは、カレドラル国民や残留帝国移民。

 それに今は世界じゅうから来訪者が訪れ、さまざまな身なりや顔ぶれで街を彩っていた。


 にぎやかな市場の、いたるところで笑顔があふれている。

 子供も、お年寄りも。

 男性も、女性も、生まれ育った国を問わず。

 脅威が取りのぞかれた世のなかで、皆が幸せな暮らしを謳歌(おうか)していたのだ。


 帰還した騎士団員たちも、みんな変わらずに元気だ。


 アレスとサキナは戦いから戻ってきて、すぐに結婚したそうだ(!)。

 サキナのお腹にはすでに、新たな命が宿っているらしい。


 俺のところにも報告にきたふたり。

 サキナの隣に立つアレスが、彼女の膨れたお腹を(いと)おしげにさすっているのが印象的だった。


 さぞかし、武芸の才に恵まれた子どもが生まれてくることだろう。

 ふたりの子どもがどんな顔になるのか、今からとても楽しみである。


 ……そう言えばこのあいだ、セシリアとティランが、『プリン』を買って街なかを並んで歩いてるところを見かけた。

 セシリアはデレデレに顔をほころばせて、とても幸せそうにしていたものだ。

 ティランはまだ恋愛には疎そうな年頃だが、いずれこのふたりは結ばれるかもしれないな。


 ……今回の戦いで、騎士団からは多くの人がいなくなってしまった。

 空の向こう側へと旅だってしまった人々の分も、残された人々は幸せにならなければならないのだ。



 

 諸外国の情勢に関しても、情報がちょくちょく入ってきている。


 はるか遠く、神聖軍事帝国ヴァレンチグライヒの国民たちが受けた衝撃は大きかった。

 なにせ絶対なる国家の元首であり、神にも等しき存在であった皇帝が、討たれてしまったのだから。

 (実際に神なのであったわけだが)


 突如として国家の象徴が失われ、帝国は混乱の渦におちいるかと思われた。

 しかし、レゼルが身にまとう神性(しんせい)は皇帝の代理を務めるのにじゅうぶんなものであった。

 ひとまず帝国はカレドラルの統治下に置かれることとなり、今後は国家としての威厳を尊重しつつ、国としての在りかたを模索(もさく)していくことになりそうだ。

 

 アリスラ平原の戦いで見られたように、ファルウルでの人間と氷銀(ひょうぎん)の狐の関係性、ヴュスターデでのエミントスとシャレイドラの関係性は良好な状態を維持しているようだ。

 ファルウルには『賢王(けんおう)』クルクロイが、ヴュスターデには『理知の女王』マチルダたちがいるのだ。

 これらの国々に関しては、なんの心配もいらない。


 ちなみにルナクスとミカエリスの夫婦仲も非常に良好だが、此度(こたび)の命がけの戦いを乗りこえたことで、ふたりの絆はますます強くなっているとのこと。

 現状、世界一有名なおしどり夫婦である。




 俺はすべての戦いを終えたあと、ポルタリアにいるロブナウトと、ジェドにいるアイラさんのところにも挨拶に行った。


「坊主、よく生きて帰ってきたな。

 大変な戦いだったと聞いたぞ」


「お帰りなさい。

 もう会えないかもと、思ってた……」


 ロブナウトとアイラさんは俺のことを抱きしめ、それぞれにそう言った。

 ふたりとも、亡くしてしまった実の家族と再会したかのように、俺との再会を喜び、涙を流してくれていた。


 ロブナウトの話によると、ファルウルでは賢王クルクロイの手腕(しゅわん)はますます冴えわたり、より豊かで平和な国になっているという。

 国が豊かになることで、ロブナウトが長を務めているポルタリア商会も、ますます繁盛(はんじょう)しているとのことだった。


 アイラさんが切り盛りしている酒場も、外国からの客が増えて、経営は順調とのこと。

 (うわさ)ではもち前の美貌と料理の腕前で、彼女のお店は知る人ぞ知る名店として、外国客から人気になっているのだとか。




 すべてがうまく行き、幸せに事が進んでいるように思えた。

 世界は確実に、平和へと向かっている。

 そんな風な実感を、皆が感じられるようになっていたんだ。


 そしてこの度、レゼルは大聖堂前の広場で演説をすることとなった。

 世界じゅうの人々を呼びあつめ、新たなる時代の幕開けを宣言するのだ――。




 今回の場面は次回に続きます。完結まで、あと3話です。


 次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします!

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