第314話 幸福の終わり
◆
祝勝記念の式典から、数日が過ぎたころ。
ヨシュアとレヴィは幸福な日々が続いていた。
打倒帝国のために長期遠征にでていたふたりをねぎらうという名目で、ヨシュアとレヴィは王家の私有地へと遊訪しにきていた。
それは懇ろになったふたりへの、王のはからいでもあった。
お付きの臣下や、兵士たちはいない。
レヴィに護衛は不要であった。
王家の私有地だから野党はいないし、なにせ万の敵兵を相手にしてもものともしない、史上最強の騎士がついているのだから!
身のまわりの世話をしてくれる者もいなかったが、ふたりの時間を邪魔する者もいない。
ヨシュアとレヴィは誰に気兼ねすることもなく、ふたりきりの時間を楽しむことができたのである。
あたりの山々や森、一帯が王家の私有地である。
森の木々のあいだを流れる川のそばに、王家の別荘が建てられていた。
別荘は各地にいくつか点在しており、宮殿のように豪華なものもあれば、小屋のように小粒のものもある。
ヨシュアたちは大きな屋敷よりも、ふたりで過ごすのにぴったりな小屋を好んで選んだ。
はじめてふたりが出会った場所を思わせる、木造りの小屋。
日中は鳥のさえずりを聞きながら川の流れを眺めたり、森のなかで果実を取ったり、動物たちと戯れたりして過ごした。
夜はふたりで寄りそい、互いの愛情を確かめあった。
戦争の合間の、ほんの束の間の休息。
穏やかで幸せな時間が、ふたりのあいだを流れていく。
滞在の期間も終わりが近づいたころ、レヴィはひとり出かける支度をしていた。
そんなレヴィに、ヨシュアが声をかけた。
「ム……どこへ行くんだ? レヴィ。
……もしかして、ほかの男のところへか?」
「? いえ、公務の都合で、ちょっとだけ父のところに行ってきます。
すぐ戻ってきますから、安心して待っててくださいね?」
「そうか。
だが、もしほんとうはほかの男に会いにいくのだったなら……。
そいつがどうなったとしても、知らないからな」
「はぁ……」
――あれ? この人ちょっと病んでらっしゃる?
普段なかなか見せない、ヨシュアの人間らしい素振り。
レヴィは吹きだしそうになりながら彼のもとに駆けより、口づけをした。
馬に乗り、手を振るレヴィをヨシュアは見送る。
王家の私有地はそのまま王城までつながっている。
たとえ道中彼女になにか危機が迫ったとしても、彼ならば瞬時に察し、駆けつけることができるだろう。
彼女が出かけることには、なんの憂いもなかった。
……かつては闇の龍神として世界を憎み、この世の破滅を目論んでいたヨシュア。
しかし今は、違う。
このまま人間として生き、レヴィとともに生きていく。
ふたりで国を導き、いつかファルンは新たな国家へと生まれかわることだろう。
そのときこの国は、彼とレヴィの子となるのだ。
描かれる幸福な未来絵図。
このまま人間として生きていきたいと、心の底から思えるようになっていたのだ。
……しかしそんな彼のもとに、天上界から訪れる者たちがいた。
『見つけたぞ! 闇の龍神、デスアシュテル!!』
※本作の真のタイトルは『レヴェリア、龍の舞う島々 ―ラスボス悪役皇帝がじつは闇属性でヤンデレだった件ww―』です。
次回、いよいよレゼルとの戦いに戻ります!
次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします!!




