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第310話 四つ腕の暴獣

 ヨシュアがトゥラハマを討伐し、(やぐら)を制圧しようとしていたころ、地表では大きく戦況が動いていた。

 王国軍の本陣へと、猛烈な勢いで突き進む帝国軍の部隊があったのだ!


「! レヴィ様、本陣へと向かう敵の部隊があります!」

「なんだ、あの強軍(きょうぐん)は……!」


 王国軍の兵士たちが集まって敵の部隊を押しとどめようとするが、まるで歯がたたない!


 敵の部隊は留まることなく、本陣へと到達する勢いである。

 本陣を落とされてしまえば、その時点で王国軍の敗北は確定してしまう!


「やむを得ません!

 私たちも本陣を守りに行きましょう!!」

「「はっ!」」


 レヴィたちも敵の部隊を食いとめるべく、その進行方向にまわりこむ。

 しかし、レヴィたちが駆けつけるまでのあいだにも、敵の部隊はどんどん本陣へと迫っていった!




 ……迫りくる敵の部隊を、誰もとめられないのは仕方がないことであった。


 王国軍の本陣へと突撃をかけているのは強大なムズゼグ帝国軍のなかでも最強最大の部隊。

 そしてその部隊を率いる将兵は帝国の切り札にして、最強の騎士。


「漆黒の騎士はトゥラハマのもとへと向かった! 今のうちに、即刻本陣を落とす!

 遊牧民どもに、格の違いを見せつけてやるのだ!!」


()(わん)暴獣(ぼうじゅう)』バルドゥーク!!


 突然変異で生まれた、四つ腕の人間。

 四本の腕にもつ長剣を自由自在に振りまわし、並みいる敵兵を立ちどころに血祭りにあげていく。


 今でこそ、帝国史上最強とまで(うた)われる騎士。

 しかしこの世に生を受けた当初、それらの腕には神経がうまく接続されておらず、不自由であった。

 最強の座にまでのぼりつめたその影に、血のにじむような努力があったことを知る者は誰ひとりとしていなかったのであった――。




 レヴィの部隊と、バルドゥークの部隊が激突した!


 レヴィの部隊も、一国の王女を守るため、ファルン王国のなかでも()りすぐりの騎士たちが集められている。

 だが、帝国最精鋭の部隊に、さしものレヴィの部隊員たちも苦戦を強いられていた。


「フハハハ!

 弱い! 弱いぞ、遊牧民どもっ!!」


 激しい戦闘が繰りひろげられるなか、バルドゥークは次々と王国軍兵士を斬りふせながら、突き進んでいく。


「お待ちなさいっ!!」

「!」


 しかし、そんなバルドゥークの前に、レヴィが立ちはだかった!

 全力で疾走していた両者の馬は歩をゆるめ、互いに間合いをとる。


「あなたは帝国軍最強の騎士、バルドゥークですね。

 これ以上先には進ませません。私が相手です……!」

「なるほど、お前は『白銀(はくぎん)(たか)』だな?

 素性(すじょう)は謎だが、なかなかに腕が立つと聞く。

 だが、はたして『漆黒の騎士』いなくしてこの俺に勝てるかな?」

「たとえこの命に替えても、あなたはここでとめてみせます!」


 ……そうして、レヴィとバルドゥークは斬り結びはじめた。


 レヴィは、決してか弱き王女などではない。

 優れた知略だけでなく、剣士としても一流の腕前をもち、並みの兵士では相手にもならない。


 だが、バルドゥークの四本の腕から繰りだされる剣をすべてうち(さば)くのは容易なことではない!


 単純に、手数の多さが違いすぎるのだ。

 しかもその一撃一撃はたゆまむ訓練と努力によって磨きあげられ、速く鋭い。

 まるで、剣の嵐に吹きさらされているかのよう!


「くっ……! うっ……!」


 レヴィも必死にバルドゥークの攻撃をしのいでいるが、徐々に余裕がなくなり、追い詰められていく。


他愛(たあい)もないな、『白銀の鷹』よ!

 その程度の腕前なら、早々にケリをつけてしまうぞ!」




 レヴィの側近たちも、彼女の危機に気がついていた。


「いかん! レヴィ王女をお助けに行かねば!!」

「くっ……! だが、この部隊の奴らの強さ……!

 自分の身を守るのでせいいっぱいだ!!」


 強者(つわもの)揃いのバルドゥークの部隊。

 レヴィの側近たちも、攻撃をしのいでその場に踏みとどまるのがやっと。

 レヴィを助けに行きたくとも、それだけの余裕がない!


 そうこうしているうちに、レヴィにバルドゥークの渾身(こんしん)の一撃が叩きこまれてしまう!


「あぁっ!」


 全覆(フルフェイス)の兜を叩きわられ、レヴィは落馬した。


「! 赤みを混じた黒髪に、虹色の瞳だと……!?」


 レヴィの顔を見たバルドゥークは、興奮したように四つの腕を振りあげた。


「なんと、『白銀の鷹』の正体が一国の王女であるとはな……!

 だが、『救国の英雄』たる貴様を殺せば、王国軍に与える影響は計り知れぬ!

 容赦(ようしゃ)はせぬぞ!!」


 そう叫び、バルドゥークも馬から跳びおりた。

 レヴィにとどめを刺そうと、剣を振りあげる!


 レヴィはすでに疲弊(ひへい)しきっており、剣を構えることすらままならない。

 腕をあげなければ死ぬことが頭ではわかっていても、からだが言うことをきかないのだ。


 そうして、無情な四本の剣が彼女へと振りおろされたのであった――。




 今回の場面は次回に続きます。


 次回は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします!

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