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第307話 白銀の鷹

 ヨシュアはファルンに留まり、レヴィと行動をともにするようになった。

 レヴィたち国家の防衛軍はまだ王国領土内に留まっていたムズゼグ帝国軍と連日戦いつづけ、奪われた領地を取りもどし、敵の戦線を押しもどしていたのであった。


 今日も陽が天空高くのぼり、レヴィたちファルン王国軍とムズゼグ帝国軍との戦いが始まろうとしていた。

 奪われた城を取りもどすための攻城戦。


 その日は朝から急速に気温があがっていき、うだるような暑さとなった。

 大気が熱をはらむなか、レヴィとその臣下たちはこれから攻めんとする城を見据えていた。


「ふぃ~、今日はとくに暑いですね、レヴィ様。これじゃ兵士たちも参っちまいますよ」

「そのとおりですね。

 ……ヨシュア様、あなたまで全覆(フルフェイス)の兜を被らなくてもよいのですよ……?」


 レヴィは身分を隠す必要性から、戦いのときは全覆の兜を被っていた。


 鷹を(かたど)った兜に、白銀(はくぎん)の鎧。

 華麗な装備だけでなく、高い戦闘力と優れた指揮力を兼ねそなえた将兵。

 その素性(すじょう)を知らない他国の兵士たちから、彼女は『白銀の鷹』と呼ばれて恐れられていた。


 対して、彼女の傍らに立つのは全身に漆黒の鎧をまとう騎士。

 彼もまた、いつも全覆の兜で顔を覆い隠しながら戦っていたのである。


 ヨシュアは脇に抱えていた兜を頭にはめながら、彼女の問いかけに答えた。


「よい。私にも顔を隠しておかねばならぬ理由がある。

 ……それよりも、さっさとあの城を落とすぞ、レヴィ」

「はい!」


 レヴィとヨシュアは馬を並べてともに駆けだし、兵をひき連れていった。




 レヴィたちの戦いは連戦連勝、帝国軍をどんどん国の外側へと押しやっていく。

 そのめざましい躍進(やくしん)ぶりから、やがて彼女は『救国の英雄』と呼ばれ、(たた)えられるようになった。


 正義と勝利の象徴として、彼女はファルン王国民から愛された。

 しかし、徹底した情報統制により、ヨシュアの存在はひた隠しにされた。

 レヴィの傍らには常にヨシュアの影があったことを知る者は、少なかったのである。




 戦いの合間のひと時。

 ファルンとムズゼグ帝国の国境付近まで戦線を押しもどし、王国軍の兵士たちにも気持ちの余裕が見られるようになってきていた。

 そんな王国軍宿営地での、ひと幕である。


「きゃっ!」


 レヴィが小さく悲鳴をあげ、尻餅(しりもち)をついている。

 普段は凛々(りり)しい彼女がそんな声をあげたので、どうしたことかと側近たちが集まってきた。


「レヴィ様、どうしたんですか?」

「いえ、ちょっと……」


 レヴィは側近たちの顔を見上げながら、恥ずかしそうに頬を赤らめている。

 そんな彼女の目の前では、龍が不思議そうに彼女の顔を見つめていた。


 ……この時代の戦争は、馬に騎乗(きじょう)しての戦争が基本であった。

 しかしはるか遠方の国、カレドラルでは『龍御加護(たつみかご)の民』が龍に乗って戦う技術を確立させ、その名声を高めつつあった。

 また、鋳造(ちゅうぞう)技術の発達による『龍鞍(りゅうくら)』の性能の向上もあり、各国でも徐々に龍に騎乗しての戦いを導入しようという向きがあったのである。


 このファルン王国軍でも、試験的に幾匹(いくひき)かの龍を連れていくようになっていた。

 しかしそれまで、龍はもっぱら移送や運搬のために用いられていたのであり、庶民があつかう生きものだった。


 身分の高い者は龍にくくりつけられた宙籠(そらかご)に乗ることはあっても、龍には触れないように教育されて育つ。

 大切な御身(おんみ)を噛まれて傷つけてしまっては大変だからだ。


 生まれついての王侯貴族であるレヴィが、生きた龍を触ったことがあるはずなどなかったのである。

 彼女はためしに龍に乗ってみようとしたのだが、龍が顔を寄せてきて驚き、思わず尻餅をついてしまったというわけだ。


「この龍は、こちらから刺激しなければ噛みついてきたりしませんからね」

「まったく。一国の王女なんだから、しっかりしてくださいよ。

 すぐに龍に乗って戦う時代がやってくるかもしれませんよ?」

「はぁい、がんばります」


 昔からなじみの側近たちはレヴィに軽口をたたき、互いに笑いあう。

 ……やがてひとり、ふたりと側近たちはどこかへと行ってしまい、最終的には龍とレヴィ、そしてヨシュアだけが残っていた。


「んと……こう? いや違う、そうじゃなくて……」


 ヨシュアは、龍の頭をなでようと悪戦苦闘しているレヴィの背中を黙って見ていた。


 しかしふと、彼はレヴィに話しかけた。

 戦いの時以外に、彼のほうから話しかけるのはめずらしいことだった。


「レヴィは、龍が嫌いか?」

「……ええ、嫌いというほどではないですけど、ちょっと苦手です。

 馬とちがって顔つきが怖いし、なにを考えてるのかよくわからないし……」

「ム……」


 どちらかというと龍寄りの存在である彼は、なんとも言えない表情を浮かべた。

 べつに彼女が龍を嫌いだからといって、どうということもないのだが。


 レヴィは龍のほうを向いたまま、話を続けた。


「……あなたもちょっと、龍みたいなところがあります。

 戦っているときの姿はとても人間とは思えない強さだし、なにを考えてるのかわからないことのほうが多いし……」

「…………」


 人が龍のことを理解できないのは当たり前のことだろう。

 ましてやそれが人に(ふん)した龍の神ともあれば、尚更である。


 当然のこととして、ヨシュアは聞き流そうとした。

 彼女が自分のことをどう思おうが関係ない。

 これまでどおり人間に扮して過ごし、時が満ちたら人間界を去るだけだ。


 ……だが、レヴィの話はまだ終わりではなかった。

 彼女は龍のほうを振りむいたまま、ボソリとつぶやく。


「……でも、私はあなたのことは好き……」


 そのとき、ふたりのあいだを一陣の風が吹きぬけた。

 頬を真っ赤に染めてうつむく彼女の顔を、龍は不思議そうに見つめていた。




※白銀=銀のこと。(120円/gくらい)


 ちなみにブラウジがまとうのは白金=プラチナの鎧です。(5300円/g)

『白金の鷹』より『白銀の鷹』のほうが語呂がよいので仕方ないですが、ブラウジはやたらと良いもの着てますね!


 次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします!

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