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第298話 永遠の宵闇

『闇の翼』を発現し、真の姿を現した闇の龍神デスアシュテル。


 彼は自身の『闇の翼』をはためかせ、宙に浮いている。

 そして両手でレヴァスキュリテをにぎりしめ、高く(かか)げた。


『今の余をこれまでの余と、等しき者だとは思うなよ……!』


 デスアシュテルは再び、レヴァスキュリテと『共鳴』した。

和奏(わそう)』の響きをもったその『共鳴音』は、今までの彼の『無音』ではなかった。


 ……無限とも思える青き空。

 その先には、はるかに広大な夜空が広がっている。


 夜空では、常にさまざまな事象(じしょう)が起こっていた。

 星の誕生、衝突、爆発……。


 夜空の事象が起こす物音がすべて吸いこまれ、デスアシュテルのもとへと集まっていく。

 集められた物音はひとつの楽曲を構成する楽音(がくおん)となり、旋律(せんりつ)を奏でた。


 そうして奏でられた夜空の調べこそ、闇夜を()べる神のちからを呼びおこす音。

 彼とレヴァスキュリテの、真の『共鳴音』なのであった。


 デスアシュテルは『闇の翼』を羽ばたかせると、レゼルへと向かって飛んでいった。

 今のレゼルは光の龍神の加護により、光速で動く物体も目で捉えることができる。


 しかし気がつけば、デスアシュテルはすぐ目の前におり、今にも剣を振りおろそうとしているところだった。

 彼が近づくまでの動きが、まったく見えなかったのである。


『なっ……!?』


 デスアシュテルの御技(みわざ)のひとつである、『距離の消失』ではない。

『共鳴』はしているが、御技を発動した形跡(けいせき)はなかったからである。


 ()()()飛んできたのだ、『闇の翼』を使って。

 それ自体が、次元を斬りさくほどのちからを秘めた『闇の翼』。

 その翼が生みだす推進力は、この世の(ことわり)をゆうに逸脱(いつだつ)していたのである!


 レゼルは、心の動揺(どうよう)を抑えることができなかった。


 ――この速さ……光の速度を超えている!?


 デスアシュテルは、レゼルにレヴァスキュリテの刀身を振りおろした!


『ぐっ!!』


 レゼルはとっさに双剣を構え、かろうじてその攻撃を受けとめた。


 剣が交わった瞬間、レゼルは心身が揺らぎ、ぐらつくのを感じた。

 デスアシュテルが『闇の翼』を発現したことにより、レヴァスキュリテもまた、その真のちからを発揮していた。


 レヴァスキュリテがもつ破滅(はめつ)の特性、すなわち『無への衝動』、『安らぎの夜』、『沈黙の羊』、『黒毒(こくどく)』はひとつの特性へと統合されたのだ。


 ――『神黒(しんこく)(ゼロ)』!!


 斬ったものの存在概念自体を(ゼロ)にする。

 つまりこの世に存在しなかったものとする、究極の『無』の特性。


『うううぅっ……!!』


 レゼルは自身の存在消失の危機と(あらが)い、おおいに神のちからを消耗することとなる。


 剣圧も、今までの攻撃の比ではない。

 光の龍神のちからを得た今のレゼルですら、まともに受けとめることができない!


『あぁっ!!』


 レゼルとエウロはなすすべなく吹きとばされてしまった!

 レゼルたちは闇のなかでたたずむ『天翼(てんよく)の浮遊城』へと突っこんでいく。


 世界最大の建造物である、『天翼の浮遊城』。

 だが、あまりの勢いにレゼルたちは無数の壁と床を突きぬけ、城の向こう側まで飛ばされていく。


 彼女らが城の向こう側にでたところで、デスアシュテルが先まわりして待ちかまえていた。

 デスアシュテルは次の一撃を叩きこもうと、すでに剣を振りかぶっている。


 レゼルの『銀翼のめぐり星(アルレ・サテリ)』もかわされて(ふところ)に入られており、機能していない。

 レゼルはすでに意識が飛びそうになっていたが、迎え撃たなければやられてしまう!


星雲花(ネビュフェーレ)』!!


 レゼルは渾身(こんしん)の龍の御技で、デスアシュテルを迎え撃った。

 だが、彼の攻撃を相殺(そうさい)するのでやっと。


 デスアシュテルからすれば、単純に剣を振り、それが受けとめられただけにすぎない。

 レゼルは交える剣を介して、茫漠(ぼうばく)たる夜空の深遠(しんえん)さを垣間見た気がした。


 ――これが、闇の龍神のほんとうの実力……!?


『天翼の浮遊城』にはレゼルたちがぶつかった衝撃が伝わり、建物全体に亀裂(きれつ)が走っていた。

 彼女の背後で城が瓦礫(がれき)となって、崩れおちていく。


 交える剣の向こうがわで、真なる神が宣託(せんたく)を告げた。


(まが)いの神よ、覚悟するがいい。

 これからが永遠の宵闇(よいやみ)の始まりだ!!』


 世界が、闇へと染まっていく――。




 次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします!

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