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第297話 狂戦士の剣

 落ちていた屍龍(しりゅう)の骨片を(よろい)として身にまとい、狂戦士と化したヴィレオラ。

 彼女は地に降りたち、苦悶(くもん)ともつかぬ雄叫びをあげていた。


「おああ゛ああアァ゛あ……ッ!!」


 ……ヴィレオラ自身、己の肉体に宿る瘴気(しょうき)で苦しんでいるのは間違いない。

 だが、その身から放たれる瘴気は色濃く、あまりにも禍々(まがまが)しいものであった。


「みんな、ヴィレオラから距離をとるんだ!」


 アレスの指示により、ヴィレオラから距離を取る部隊長とルナクスたち。

 しかしすかさずヴィレオラは、自身がまとう屍龍の骨片と『共鳴』した!


「逃ガさンんッ!!」


 冥界の住人である屍龍はからだがバラバラになってもなお、魂の存在が保たれていた。

 今の彼女らの『共鳴音』はまさしく、亡者たちが生者を死の世界へ引きこもうとあげる、雄叫びのようであった!


『邪ゴつ』ッ゛!!


「うわっ!!」

「きゃあっ!!」

「あぐっ……!」


 今のヴィレオラは八つの冥門の(しば)りを破り、無数の冥門を同時にひらき、図太い骨の剣を突きだしてみせていた。

 それらの骨はあたかも冥界に生えいでるという地獄の(いばら)のようであり、一瞬であたりが冥界と化してしまったかのような様相を呈していた。


 アレスたちも必死に骨の剣をかわしたが、すべての攻撃をかわしきれず、瘴気の宿った傷を負ってしまう。

 ……ヴィレオラは狂ってしまっているが、かろうじて理性をつなぎとめており、龍の御技(みわざ)を放つことは可能。

 しかもその威力は変貌(へんぼう)する前の何倍も強く、効果の範囲も広がっていたのだ!


「オオ゛おおオ゛オぉッ!!」


 さらにヴィレオラは背中の骨片を組みなおし、新たな骨の翼をつくりあげた!

 濃厚な瘴気をまとった翼は空力学的には説明がつかぬほどの推進力をもち、大きくひとつはためかせただけで一気に加速してみせる!


「はっ!」


 ヴィレオラが向かった先には、ティランがいた。

 彼には、今のヴィレオラの攻撃を防ぐだけの防御手段がない!


 しかしヴィレオラとティランとのあいだに、割って入る者がいた!


「ティラン君っ!」

「ルナクスさん! ミカエリスさん!」


 ティランの前に現れたのは、『満月の盾』を構えたルナクスだった。

 彼はミカエリスを後ろに乗せ、彼女の龍に乗っている。


 ルナクスはすでにヴィレオラの『礫肉(フルシュ・ル)呪骸(クライヒナム)』を受けて、全身ぼろぼろになっていた。

 それでも、今のヴィレオラの攻撃をまともに受けられるのは彼の『満月の盾』しかない。

 彼はきしむ肉体に(むち)を打ち、味方を護るための盾となることを選んだのだ。

 だが、しかし――。


「ツヴぁイッっ゛!!」

「「うわあああぁっ!!」」


 ヴィレオラは邪悪な大剣と化したフェルノネイフを振りまわし、『満月の盾』へと叩きつけた!


 瘴気がはじけ、爆風のように吹きすさぶ。

 ルナクスとティランたちはたまらず、『満月の盾』もろとも吹きとばされてしまった!


 ……ルナクスは龍の背上で大きく身をのけぞらせながら、信じられぬ光景を目の当たりにしていた。

『満月の盾』があまりの衝撃に宙で震え、たわんでいたのだ!


 ――まともにぶつかりあって、僕の盾が押し負けるなんて……!


 ルナクスは『満月の盾』がそのように動揺(どうよう)するさまを、いまだかつて見たことがない。

 今まで、あらゆる敵の攻撃を完璧に防いできた『満月の盾』。

 広範囲に及ぶ攻撃を吸収しきれぬことはあっても、盾そのものが揺らぐことは一度たりともなかったのだ。


「シゃア゛ッ!!」

「!!」


 吹きとばされていったルナクスとティランたちに再び突撃しようと、ヴィレオラが剣を振りあげた、そのときだった。

 彼女は振りあげた剣をとめ、自身のからだを見おろす。


「ア゛ァ……?」


 ヴィレオラの脇腹に、一本の弓矢が突き刺さっていた。


 彼女が矢の飛んできた方向を振りかえると、その先にはサキナがいた。

 サキナははるか遠方から弓を構えており、すでに次の矢を放たんとつがえていた。


「殺スっ゛!!」


 ヴィレオラはサキナのほうへと向きなおり、突撃していった!


 凄まじい速度でヴィレオラが迫ってくるなか、サキナは(おく)することなくその場に留まり、矢を射った。


 一本、二本、三本……!


 サキナは神業的な速度で次々と矢を放ち、ヴィレオラの急所を的確に射抜いていく。

 骨の鎧のわずかな隙間を狙っているのだ。


 しかし、ヴィレオラは傷つくことをまったく気にすることなく飛びつづけ、突っこんでくる!

 留まることなく死を運んでくるヴィレオラの姿に、サキナは戦慄(せんりつ)した。


 ――矢を防ぐ素振(そぶ)りすらない。

 私には、あいつの突撃をとめられない……!


 だがそのとき、サキナの背後から現れ、ヴィレオラの前に(おど)りでる者がいた!


「サキナ殿っ!!」

「アレス!」


 ヴィレオラの前に立ちはただかったアレスはその上体を大きく()りかえらせ、全身の筋繊維に弾性力を蓄えていく。


 ――たとえこの命に替えても、サキナ殿は護りぬく……!!


 槍先に宿るのは『命の結晶』の赤き光。

 ヴィレオラの一撃に対抗するには、この技しかない!


破突槍(バルトレコ)(ゼノア)』!!


 アレスの渾身(こんしん)の必殺技が炸裂(さくれつ)した!


 連戦に次ぐ連戦で、肉体はすでに疲労で限界に近づいていたが、ここにきて最高の動き。

 彼自身にとっても得心(とくしん)が行く、まさしく会心の一撃であった。


 アレスの『破突槍』は、かつて神具『万射(ばんしゃ)の鏡』を貫いたほどの貫通力を誇る。

 さらに今は技の進化により、当時をはるかに上回る威力があるのだ。

 だが、それでも――。


「ウ゛ガアぁウッ゛!!」

「ぐああぁっ!!」


 ヴィレオラの大剣による、大振りの一撃!

 真正面からぶつかりあって、アレスの槍は弾きかえされる。


 今度は、アレスとサキナたちが吹きとばされてしまった!

 アレスとその龍ははるか遠くにまで吹きとばされ、どこまでも地を転がっていく。


 追撃をまぬがれようとアレスたちはすかさず起きあがったが、彼の槍を持つ手に激痛が走る。

 アレスはその凛々(りり)しく整った顔を、苦痛でゆがめさせた。


「くっ……! 利き腕をやられた……!!」


 アレスは渾身の一撃を真正面からねじふせられたことによって、腕の骨にひびが入り、(すじ)を痛めてしまっていた。

『破突槍』を放つことができるのは、もってあと一回のみ。


 彼は、自分自身の肉体にも限界が近づいてきていることを感じとっていた。

 そしてそれは、ともに戦うほかのみんなにも言えること。

 今や、ヴィレオラの強大な死のちからに対抗できる者など、誰も残っていなかったのだ。


 ――いかん、今のヴィレオラは我われが手に負える相手ではない!

 このままではまたたく間に全滅してしまう。

 もはや一刻たりとも猶予(ゆうよ)はない。

 即座に、この戦いに決着をつけなければ!!




 次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします!

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