第296話 大地の咆哮
◆
自身の最強たる能力、『輝石』を発動したシュバイツァー。
……『輝石』は彼自身の闘気に、大地の自然素を織りまぜて錬成されたもの。
さらにそこにほかの自然素を取りこむことにより、各自然素の特性をも意のままに再現することができる!
彼がそのような破格の能力を使用することができるのは、大地の自然素の強みが『受けいれる』ことだからである。
シュバイツァーの周囲を舞う色とりどりの『輝石』から繰りだされる一撃の威力はまさしく絶大、それまでの彼の攻撃とは比較にならないほどの破壊力を誇っていた。
シュバイツァーは自身の周囲を舞う輝石のひとつを手に取る。
赤き炎の輝き、『烈火のルビー』!!
彼がその輝石を手に取った瞬間、エツァイトバウデンの刀身を灼熱の火炎が包みこむ。
シュバイツァーは熱き炎地の一撃を、シュフェルへと振りおろした!
「おらぁっ!!」
「ぐっ……!!」
シュフェルはかろうじてその一撃を受けとめる。
炎の自然素の加護を得て、シュバイツァーの剣撃ははるかに威力を増していた。
さらに、シュフェルの周囲を飛び交っている砂が炎の熱気を帯び、彼女の身を焦がしていく。
シュフェルは反撃を試みたが、すかさずシュバイツァーは『烈火のルビー』を手放し、次の輝石を手に取った。
青き水氷の輝き、『流麗のアクアマリン』!!
ガレルの『焔ノ神』をも破った水と大地の饗宴。
輝石からあふれだす水の自然素がたちまち激流と化した。
今のシュバイツァーの剣は流れる水のように滑らかな太刀筋にして、激流の水圧のような重みを兼ねそなえていた!
「くそッ……!」
必死にシュバイツァーの剣についていくシュフェル。
先ほどまでとはまったく異なる、流麗にして変幻自在の剣。
緩急に揺さぶられ、すべての攻撃を捌ききることができずにいる。
――コイツ、持つ石が変わるたびに太刀筋まで変わんのかよッ……!
めまぐるしく変わるシュバイツァーの攻撃手段に、シュフェルは順応する時間すら与えてもらえない。
彼女がほとばしる水地の自然素に苦しめられているあいだにも、シュバイツァーは次の輝石へと持ちかえていた。
不動なる大地の輝き、『堅牢のトパーズ』!!
彼がもつ大地の自然素をより高純度に凝集させた輝石。
この輝石によって彼の龍の御技はよりいっそう威力を増し、守りはますます堅牢となっていた。
そしてその剣から繰りだされる一撃はまさしく森羅万象、泰然たる大地の重み。
今までにシュフェルが受けた、どんな一撃よりも重たいものであった!
「うああああぁッ!!」
シュバイツァーの剣を受け、たまらず吹っとばされるシュフェルとクラム。
しかし、シュバイツァーは容赦することなくシュフェルたちを追いかけていく。
……彼のほうとて、背中の傷は砂で止血はしているものの、傷が癒えたわけではない。
彼に残された時間は少なく、幾ばくたりとも余裕はないのだ。
「まだまだ仕舞いじゃねぇぞ、こらあぁっ!!」
『生命力』のパール、『運命』の月長石、『闇』の黒金剛石……。
シュバイツァーはいっさいの出し惜しみをすることなく、あらん限りのちからをもってシュフェルを追い詰めた。
だが……。
だが、それでも!
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……!
負けてたまるもんか……!!」
シュフェルは耐えしのいでいた。
全身ボロボロになり、精神力も自然素も底を突いていながらも。
それでも、彼女はシュバイツァーの猛攻を耐えしのいでいたのである。
シュバイツァーは間違いなく、自身の全身全霊をもって攻めていた。
しかし、いっこうに倒れる気配のない彼女を見て、シュバイツァーは驚愕していた。
――なぜだ。なぜこいつは倒れねぇ。
体力も精神力も自然素も、すべて使いはたしているはずなのに。
どうしてこいつは倒れねぇんだ……!
……シュバイツァーの攻撃が効いていないはずがない。
むしろ着実に彼女を追い詰めており、とっくに倒れていても不思議ではないはずなのである。
しかし、シュフェルの目に宿る闘志はますます燃えあがり、消えることはない。
このままでは、シュバイツァーのほうが先にちから尽きることすらありうる。
――ならば、切るしかねぇ。俺の切り札を!
シュバイツァーは自身の周囲を舞う『輝石』のうち、最後のひとつを手に取った。
吹きぬける風の輝き、『疾風のエメラルド』!!
彼は風の自然素の加護を受け、すばやさを増した。
疾風のように軽やかにして、嵐のような激しさをあわせもつ連撃。
ただでさえいっぱいいっぱいのシュフェルは、速度を増したシュバイツァーの剣に必死に付いていこうとする。
「くッ……!」
――姉サマ並みの速さなのに、一撃一撃の重たさはぜんぜん変わらねぇ。
真剣でどうなってやがんだ、コイツ……!
風は砂を巻きこみながら渦をつくり、鋭い刃となって、シュフェルへと襲いかかる!
そして、シュフェルとクラムが砂混じりの風に吹きとばされ、シュバイツァーとの距離を空けさせられた、そのときだった。
シュバイツァーからの攻撃はぴたりと止み、代わりにただならぬ気配があたりを支配する。
シュフェルは瞬時に危険を察知し、背筋が凍りつく感覚を覚えていた。
――なんだ、この静けさは……!?
……そう、それはまさしく嵐の前の静けさ。
シュバイツァーは攻撃をやめ、ちからを蓄えることに専念していたのだ。
彼はあふれんばかりの大地の自然素と風の自然素を身にまとわせた。
そしてそれらをすべて己の右腕へと注ぎこみ、エツァイトバウデンとともに突きだした!
……刃が向く先の空間を伝わっていくのは、空気の『振動』。
かつてもっともからだが重厚で、大きかったとされる大地の龍神。
その、神の咆哮のごとく。
激しく揺さぶられた空気が幾重にも重なりあい、この世の理を超える破壊現象を生みだした!
「大地の怒りを、その身に受けてみやがれ!!」
『 大 地 の 咆 哮 』 ォ ッ !!!
「!! ……! ……ッ!!!」
シュバイツァーが生みだす空気のうねりに、シュフェルとクラムは巻きこまれた。
幾重にも重なりあった空気の壁が、振動するたびに彼女たちのからだを強烈に打ちつけていく!
……それは、シュバイツァーがもつ最強の技のひとつ。
本来、大地を揺りうごかすために生じたちからを風に乗せ、空間へと伝わらせる技。
そこに注ぎこまれる運動力はこの世界には存在しない概念であるが、あえて数値化するならば、マグニチュード二十。
星を跡形もなく粉砕するちからである。
万物をうち砕く破壊力を前にして、かたちを保っていられるものなどあろうはずもない。
シュバイツァーの目の前から、空の果てまで。
すべてが砕けちり、空気のうねりの通り道にはなにも残らなかった。
あとにはただ、虚空が広がるばかり。
『人類最強』の座を決める戦いに、決着がついた瞬間であった。
※『生命力』のパール……エルマさんの属性と同様です。
ただし、『癒し』のちからとして使用可能なのは世界でエルマさんだけ。
シュバイツァーはもっぱら身体能力を高める方向に使用しており、自身の傷を癒すことはできません。
『運命』の月長石……『数奇』コトハリが持っていた神具、『運命の秤』に近い特性をもちます。
純粋な自然素との融合ではなく、かなり特殊な輝石となります。
『闇』の黒金剛石……帝国皇帝デスアシュテルの属性です。
非常に強力な属性であり、間近で皇帝の戦いかたを見ているのである程度は扱うことができますが、やはり完全に使いこなすのは難しいようです。
次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします!




