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第294話 呼応する魂


 前回の場面の続きです。


 ヴィレオラの脳裏(のうり)に、初めて出会ったときの皇帝の姿が浮かぶ。


 崖の上から手を差しのべてくれた姿を見た瞬間、自分の新たな人生が始まったのだということを確信していた。

 自分を新たな高みへと導いてくれる、神。


 それはただ単に、神の姿を偽った、より深い闇からの(いざな)いに過ぎなかったのかもしれない。

 だがそれでも、構いやしなかった。


 ――たとえあなたが邪神だったとしても。

 たとえわたしが死の世界に片足を踏みいれた人間であったとしても。

 わたしにとってはあなただけが、わたしを照らしてくれる光なのです……!


 シュバイツァーとヴィレオラ。

 ふたりの龍騎士が、再び戦場でその闘志をたぎらせた。


「俺は」

「わたしは」


 遠く離れた地にいながらにして、互いの魂を呼応(こおう)させているかのように!


「「こんなところで負けるわけにはいかねぇん(ないの)だよ!!」」


 シュバイツァーは剣を持たぬ左手を空高く振りあげると、自身の闘気を練りあげていく!

 彼の闘気が雄大なる『大地の自然素』と混ざりあい、結晶を凝集(ぎょうしゅう)させる。

 その結晶が形成されていくさまを目の当たりにし、シュフェルはいよいよ命を()す覚悟が必要であることを悟った。


「きたな、()()()()()が……!」


 色とりどりの結晶が、シュバイツァーの周囲をめぐるように飛びかっている。

 その奇跡の石を操る彼のことを、人々はこう呼んだ。


 ――『煌輝(こうき)』シュバイツァー。


 彼が最強たる由縁(ゆえん)、『輝石(ライシュタル)』の発動である!!


「さぁ、決着をつけようぜ!

 クソガキ……いや、『雷焔(らいえん)』シュフェル!!」



 

 ヴィレオラは両腕を広げ、天を仰いだ。

 左手に持つのは冥府の神剣。

 フェルノネイフから(あふ)れだす瘴気を、自身の体内へと注ぎこんでいく。


 ――わたしとて冥府の瘴気を体内に注ぎこめば、無事ではいられない。

 たとえ戦いに勝ったとしても精神が狂い、わたしは廃人になることだろう。

 ……いや、生きていることさえ望めないかもしれない。


 だが、しかし!

 デスアシュテル様のお役に立つためならば、この身がどうなろうと構いはしない!!


「オ゛ア゛ア゛アアアあ゛ぁッ!!!」


 ヴィレオラの体内に瘴気が宿るのにともない、散らばっていた屍龍(しりゅう)の骨片が彼女のもとへと集まっていく!


「! みんな待てっ! ヴィレオラの様子が変だ!!」


 危険を察知したアレスが、総攻撃を仕掛けようとしていたサキナとティランを踏みとどまらせる。


「ルナクス! 私の龍に乗って!!」

「! ミカエリス!!」


 龍を失って地へと落ちていたルナクスのもとに、ミカエリスが駆けつける。

 ミカエリスに呼ばれて、ルナクスは彼女の龍に飛びのった。


 そうこうしているあいだにも屍龍の骨片は組み合わさって、骨の(よろい)を形成していく。

 そして最後に、屍龍の頭蓋がヴィレオラの顔ごと覆う(かぶと)となった!


 あふれだす瘴気が波動となって、彼女の体内から放出される。

 あまりの瘴気の濃さによって自然発火し、『地獄の業火』をともなって! 


『呪ねン波しょォ゛ッ』!!!


「! みんな、よけるんだっ!!」


 瘴気の波動が波紋となって草原に広がっていく!

 アレスたちは上空へと飛翔(ひしょう)し、かろうじて波動が直撃するのを回避した。


「!!?」

「うわあああぁっ!!」


 その範囲は広く、遠巻きに見ていた双方の軍の兵士たちをも巻きこみ、有無を言わさず消滅させていく。

 波紋が通りすぎた跡には冥府の灰が振りまかれ、草原の草花を枯らしていった。


 上空へと飛翔して難を逃れたアレスたち。

 上からその波動の広がりを見おろして、彼は愕然(がくぜん)としていた。


「なんとおぞましく、そして凄まじい破壊力。

 まだこれほどまでのちからを残していたとは……!」


 あたりには先ほどまでとは比較にならないほどの瘴気が立ちこめており、息をするだけでも苦しい。


 アレスはヴィレオラが秘めていた底力に驚愕するのと同時に、戦慄(せんりつ)してもいた。

 ここにきてヴィレオラがこれほどの出力を発揮するというのは、正直想定外であったのだ。


 ――我われはほんとうに、今のヴィレオラに対抗することができるのか!?


 もはや正気を失い、狂戦士と化していたヴィレオラ。


 彼女の増幅する瘴気を吸いこみ、フェルノネイフの優美な刀身も、禍々(まがまが)しい大剣へと姿を変えていく!

 その刀身はあたかも、かつて『冥府の神王(しんおう)』サヘルナミトスが手にしていた『冥王(ヘレクニヒ・)の剣(ヴァキアット)』を思わせるものであった。


 姿を変えたフェルノネイフを振りあげ、ヴィレオラは雄叫(おたけ)びをあげた!


「貴サマら゛ゼン員ぶチ殺スッ゛!!!」




 次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします!

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