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第291話 母が遺したもの

 闇の龍神デスアシュテルへと、果敢(かかん)に攻めゆくレゼル。

 今の彼女は、彼女の夢のためにいなくなっていった者たちの想いを背負っていた。


『あまり図に乗るなよ、人間風情(ふぜい)が……!』


 人間の想いなど、いくら積みかさなろうと関係ない。

 デスアシュテルはレゼルを人間たちの想いごとまとめて刈りとろうと、両手でレヴァスキュリテを振りあげた。


 だが、そのとき。

 彼の左腕に、激烈な痛みが走りぬけた!


『なにっ……!?』


 ――左腕が、言うことを聞かぬ……!


 デスアシュテルが自身の左腕を見ると、肘のあたりで不自然に隆起(りゅうき)し、ほこほこと()きたつように(うごめ)いていた!


 ……デスアシュテルの左腕は、レゼルの母、エルマの『桜煌撃(セキルテアンティア)』を受けていた。

 エルマは十年間蓄えつづけた『生命力』のすべてを、デスアシュテルの腕へと注ぎこんでいたのだ。

 そしてそれこそが、()()()()()()()


 あたかも細胞が、自身に課せられた制約を超えて無限に増殖することで、癌と化しているかのように。

 過剰な『生命力』を注ぎこまれることによって、彼の左腕は機能の異常をきたしていた。

 そして今このときになって、その異常に注ぎこまれた『生命力』が暴走を始めたのだ!


 デスアシュテルの脳裏(のうり)に、メイスを彼に振りおろさんとする瞬間の、エルマの姿が浮かぶ。


 そのときに彼女が胸に抱いていたであろう、心の叫びが生々しく聞こえてきたのであった。

 その声は彼女が浮かべる、妖艶(ようえん)な笑みとともに。


 ――あなたがいくら神格(しんかく)に属する者で、超自然の化身であろうと!

『生命体』である以上、私のちからから逃れることはできないわ!!

 

『ぐぬうううぅ……!』


 ――体内で『虚無(ニヒツ・)の波動(ユヴァセルンク)』を起こし、『生命力』をうち消さねば……!


 左腕で暴走している『生命力』を早く(しず)めなければ、たちまち全身へと広がり、命を奪われることだろう。

 デスアシュテルはやむを得ず、自身の体内で『虚無の波動』を発動させた!

『静けさの闇』と『破滅の闇』を同時に発動することはできない――。


 刹那(せつな)にも満たぬ瞬間、デスアシュテルは完全にその動きをとめることとなる。

 その瞬間を、レゼルは見逃さなかった。

 そしてそのときなにが起こっていたのかを、彼女は瞬時に悟っていたのであった。


 ――お母さま……!


 ルゼルは両手のルクテミシリオンをただ強く、強くにぎりしめた。


 ――今この瞬間に、私の、お母さまの、みんなのすべての想いを注ぎこむ!


『デスアシュテル、覚悟っ!!』


 レゼルが、そのちからのすべてを解きはなった!


円天の(セレスエル・)聖十字(サンクロア)』!!


 それは星を運ぶ風が夜空に描く、壮大な天体現象。

 交差する双剣ルクテミシリオンの刀身が、闇の龍神の胴体に十字の聖痕(せいこん)を刻みこむ!


『かはっ……!』


 デスアシュテルの身体から、闇の自然素が漏れでる。

 あの絶対無敵とも思われた闇の龍神に、レゼルはついに有効な損傷(ダメージ)を与えることができたのである!


 だが、レゼルは剣を振ることをやめようとはしない!


『まだまだぁっ!!』


 レゼルの周囲をとり囲むように、十二の星々が現れた。


 火・水・土・風の四元素に区分される星々。

 火の聖三角、水の聖三角、土の聖三角、風の聖三角……。

 それらの星々は三角形を形成したまま星を運ぶ風に運ばれ、デスアシュテルへとぶつけられていった!


星風の(エトワレオ・)聖三角(サントリア)』!! 


『ごふっ!!』


 各自然素を()りまぜた、光と風の攻撃。

 その破壊力は絶大であった。

 (たた)みかけるように強烈な攻撃をねじこまれ、さしものデスアシュテルのからだもぐらつく。


『はぁっ、はぁっ、はぁっ……!』


 レゼルもありったけのちからを使いきり、疲弊(ひへい)していた。

 だが、最初で最後かもしれない勝機を、みすみす手放すわけにはいかない。

 彼女はふらつく上体を必死に支え、再び光と風のちからを練りあげていく。


『あなたの暴政(ぼうせい)によって私たちが受けてきた痛みと苦しみは、まだまだこんなものじゃありませんっ!!』


 ……ここで動きを見せたのは、デスアシュテルが乗る『闇の龍王』オルタロヴォスだった。

 (あるじ)ともども命の危機が迫っていることを察知したオルタロヴォスは、急ぎレゼルから距離を取ろうとしたのだ。

 翼をはためかせると、光の去りゆく速さで離れていくデスアシュテルとオルタロヴォス。


 だが、レゼルには標的を逃す気などさらさらない!

 彼女は即座に、新たな龍の御技(みわざ)を放った!


『逃しはしませんっ!!』


煌星の聖炎風(ソレユ・サンフォエア)』!!


 それは太陽の表面から吹きだされるという、炎をまとった風のように。

 レゼルの光の風は聖なる炎となって、デスアシュテルたちへと襲いかかっていった!


「ガァウッ!!」


 オルタロヴォスは両翼(りょうよく)でデスアシュテルを包みこみ、聖なる炎から主を護りぬいた。

 だが、その翼を焼ききられ、空中での自由を奪われる。


 いっぽう、弾かれた聖炎は星屑(ほしくず)の光に満ちた風へと戻る。

 光の風はデスアシュテルが生みだした闇夜のなかで散乱し、光のカーテンを形成していた。


 レゼルはその光のカーテンの下をかいくぐり、デスアシュテルたちに斬りかかっていった!


『はあああっ!!』

「グアアアウッ!!」


 光の瞬きとともに、交差する双剣。

 そしてついに、レゼルはオルタロヴォスの首を斬りおとしたのである!


 飛翔する翼が失われ、闇の龍王の命は絶えた。 

 デスアシュテルはオルタロヴォスの遺骸(いがい)とともに、地へと向かって落ちていった――。




※『星風の聖三角 (ほしかぜ の せいさんかく)』……大三角(グランドトライン)とは占星術学的には四区分(火・地・風・水)が同じである三つの天体がそれぞれ120(トライン)を形成して、正三角形になっている複合アスペクトですが


 黄道十二宮星座も、四元素に区分することが可能です。


 火の元素……牡羊座・獅子座・射手座


 地の元素……牡羊座・乙女座・山羊座


 風の元素……双子座・天秤座・水瓶座


 水の元素……蟹座・蠍座・魚座



 次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします!

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