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第287話 時が味方するもの


 前回の場面の続きです。


 ヴィレオラの猛攻に、ルナクスと部隊長たちは苦しめられていた。


亡者の(ディメント・)嘆き(ラートゥン)』!!


 ひらかれた『冥門』から、数百にもおよぶ呪霊が飛びだした!


「オ゛オ゛オ゛オ゛ォ……」

「ア゛ア゛ア゛ア゛ァ……」


 生者を呪い殺し、その肉体を乗っとろうと(たくら)む亡者の魂。

 呪霊たちはみんな思い思いに動き、不規則かつあらゆる方向から(せま)りよってくる。


 しかも、不意を突いては『冥門』がひらかれ、呪霊が飛びだしたり、骨の剣が突きだされたりする。

 それらの多彩な攻撃をすべてかわしきることは、極めて困難である。

 さらには前回の戦いの反省を踏まえ、足元の影に潜む『地縛霊(ビデラートゥン)』の存在まで警戒しなければならないのだ。


「うわっ!」

「くっ……!!」


 ティランやアレス、サキナたちは『命の結晶』の赤い光を帯びた攻撃で呪霊を消滅させながら、かろうじて身を守りつづけている。

 ルナクスの神具による支援もあって、彼らはヴィレオラの攻撃をかわしつづけることができた。


 ……わずかたりとも気の緩みが許されない戦いであったことは間違いない。

 しかし、彼らはなんとか持ちこたえることができていたのである。




 ヴィレオラは苛烈(かれつ)な攻撃を加えつづけており、そのなかで多数の『冥門』が同時にひらかれる瞬間もあった。


 ティランは俊敏(しゅんびん)に動きまわりながらも、類稀(たぐいまれ)なる動態視力と視野の広さで、戦況を正確に把握していた。

 その正確な状況判断能力こそが、彼の自由自在な動きを支えているのだ。


 そしてティランのその眼は、『冥門』のひとつが閉じられた瞬間を捉えていた。


 ――()()()を閉じた。次の攻撃が来る!


 ティランは周囲への警戒を強めた。

 すると、自分の頭上に『冥門(めいもん)』がひらかれようとしていることに気づく。


『冥門』がひらききって骨の剣が飛びだすまでにほんのわずかな時間差があり、ティランは剣に背をわずかに(かす)められながらも、かろうじて攻撃をかわすことができた!


「! 今だ! 行くぞ!!」


 アレスの掛け声とともに、ルナクスと部隊長たちは一斉に攻撃へと転じた!


天鎖(セレシェン)乱舞(・ソバージ)』!!


『三日月の刃』!!


破突槍・解(バルトレコ・ゼノア)』!!


六重奏(セクステリオ)』!!


 怒涛(どとう)の勢いで迫るルナクスと部隊長たち。

 しかし、ヴィレオラは『冥門』のなかへと入り、彼らの攻撃をなんなくかわしてしまった。


「……ぷはっ」


 ヴィレオラはこらえていた息を解放し、再び息を吸いこんだ。


 彼女は冥門をくぐり抜けながら、思考をめぐらせていた。


 ――妙な動きをする。


 わたしから距離をとって、ひたすら回避や防御に徹する。

 その間、こちらに攻撃を仕掛ける素振(そぶ)りはなく、戦うつもりがないのではないかと思ってしまうほどだ。


 そうかと思えば、好機と見るや猛然と総攻撃を仕掛けてくる。

 まるで、わたしを『冥門』へと追いやろうとしているかのように。


 そこまで考えたところで、ヴィレオラはアレスたちの狙いに気づく。


 ――奴ら、まさか……!




 アレスはヴィレオラが冥門から姿を現したのを見て、速やかに距離をとった。

 彼は龍とともに野を駆けぬけながら、自分たちが準備してきた作戦が正しく機能しているかどうか、検証(けんしょう)しつづけていたのだ。


 ――規格外ともいえるヴィレオラの能力だが、今までに得た情報から推測するに、その能力にも制約がある!


 アレスは、自分たちの考えを整理した。


 一.ヴィレオラは同時に八つの冥門しかひらくことができない。


 最多で八つの『冥門』をひらいているところしか目撃されていない。

 ただし、ほんとうはもっとたくさんひらけるのに、能力の限界を隠している可能性がある点には注意が必要である。


 ニ.『冥門』はどこでも好きな大きさにひらくことができるが、離れたところほどひらくのに時間がかかり、大きくひらいている状態を維持するのにより多くの体力と瘴気を消耗する。


 ヴィレオラから離れるほど『冥門』のひらく速度が遅いので、注意して見ていれば明らか。

 逆に、フェルノネイフで空間を直接突いて『冥門』を出現させるときは脱帽(だつぼう)するほどに速い。光速並みといってもよい。


 また、レゼル様たちの『龍の御技(みわざ)』は体力と自然素を消費するのが大原則であることを(かんが)みると、『冥門』をひらくのにも使い手に負担がかかり、なんらかの代償(だいしょう)を払っている可能性が高い。

 シャティユモン上空で最初の襲撃を受けたときも、制限なしに『冥門』を使用されていれば、もっともっと騎士団は苦しめられていたはずである。


 三.そして、ヴィレオラの最大の弱点。

 それは、奴は『冥門』のなかに長く留まっていることができないこと!


 ひらいた『冥門』の奥から(のぞ)く世界にただよう瘴気の濃さは尋常ではなく、まさしく異世界。

 普通の人間が冥界に放りこまれれば、なかでひと呼吸しただけで死に至ってしまう。


 ヴィレオラも瘴気を操り、それを武器にして戦っているが、からだは生身の人間である。

 普通の人間より耐性はあれど、長く冥界に留まれば命に関わる。


 彼女も、瘴気を無毒化できるわけではないのだ。

 事実、シュフェル様とガレルの戦いの最終盤には彼女は瘴気に冒され、吐血している。


 ただし、『冥府の神王(しんおう)』サヘルナミトスの消滅により冥界の瘴気は格段にうすまっている。

 以前よりも冥界への滞在可能な時間は長くなっている可能性には注意したい。


 ……いずれにせよ、猛攻を続けることは決して無意味などではない。

 ヴィレオラを冥界に長く留まらせれば留まらせるほど、奴の生命力は削られていくのだから!


 長期戦は我われに有利。

 時間は我われの味方なのだ!




 ヴィレオラはアレスたちの狙いを見抜きながらも、冷静に戦いを続けていた。


 ――なるほどな。

 考えなしに戦っているのではないというわけだ。

 だが、その程度の小細工でわたしに勝てると思ったら大間違いだぞ……!


 敵へと向ける殺気がにじみでているかのように。彼女を包む瘴気が、よりいっそう色濃くなっていった――。




 次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします!

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