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第286話 かけがえのない戦友

 シュフェルとシュバイツァーが激戦を繰りひろげていたのと反対側、戦場の右翼(うよく)


 アレス、サキナ、ティランら部隊長三人は五帝将がひとり、『冥門(めいもん)』ヴィレオラと対峙(たいじ)していた。

 だが、しかし……。


「ククク、なにやら()()()()は持っているようだが……。

 本気でお前ら三人で、わたしに勝てるとでも思っているのか?」

「く……!」


 アレスは答えに(きゅう)した。


 ……ヴィレオラの指摘どおり、アレスたちはグレイスが入手した『命の結晶』により、赤い光をその身に宿している。

 赤い光は生命の波動であり、その身に宿していればヴィレオラが操る死霊や呪霊にも物理攻撃を与えることができる。


 アレスはヴィレオラと相対(あいたい)しながら、レゼルに言われたことを思い起こしていた。

 レゼルは出立(しゅったつ)する前に、彼にある助言を言い残していたのだ。


 ――レゼル様が言うには、『冥府の神王(しんおう)』サへルナミトスが滅びたことにより、冥界のちからはおおいに弱まったことが予想されるとのこと。

 それはすなわち、ヴィレオラが大幅に弱体化した可能性があることを意味している!


 ……だが、それでも。

 帝国五帝将の第三位にまでのぼりつめた彼女の実力はまったく(あなど)ることができない。


 そしてなにより、こちらもガレルを失っていることがとてつもなく大きい。

 単純に戦力の面でガレルの穴を埋めることができる者はいないし、彼を欠いて使えなくなった連携(れんけい)も多い。

 常に戦闘の中心であった彼がいなくなったことで、我われは戦力的にも精神的にも支柱を失ってしまったのだ。


 かけがえのない戦友を失ってしまったことを、惜しむアレス。

 サキナも、ティランも、その想いは同じ。

 今この負けられない戦いの場において、ガレルがいなくなってしまったことの大きさを、あらためて実感することとなったのである。


 ……しかしそのとき、彼らの救い手となるべく、上空から戦場に舞いおりてきた者がいた!


「アレス、みんな!」

「! ルナクス殿!!」


 月夜のように深く蒼い髪と瞳。

 ヴュスターデの正統王位継承者、『月明かりの王子』ルナクスである!


 アレスたち部隊長にひけをとらぬ戦闘力をもつうえ、『満月の盾』と『三日月の刃』のふたつの神具を所有する。

 コトハリとの戦いで左腕は失っているものの、その戦闘力の高さは疑うべくもない。


 強敵と対峙するのにあたって、これ以上望めないほどに心強い味方。

 彼のそばでは『陽光の歌姫』ミカエリスも、龍に乗って待機している。

 彼らが駆けつけてくれたことを、アレスたちが心より喜んだことは言うまでもない!


 ルナクスはミカエリスに先んじて降りたち、アレスと並び立った。


「部隊の指揮を副官に申し送る分だけ遅くなってしまったけれど、間に合ってよかった。

 ところで、ガレルは?」


 ルナクスのこの問いかけに、アレスは静かに首を横に振った。


「ガレルはシャティユモンでの戦いで、我われやシュフェル様を護るために……」

「! そうだったのか……」


 ルナクスはうつむき、右手の指先で自身の左肩から右肩、額へとなぞってみせた。

 ヴュスターデ固有の、死者の冥福(めいふく)を祈る仕草だ。


 予期せぬ新手(あらて)の出現に対し、ヴィレオラが動揺を見せることはなかった。

 彼女はルナクスの身なりや顔つきの特徴から、即座に彼の素性(すじょう)も見抜いていた。


「ほう、ヴュスターデの『月明かりの王子』か。

 人が造りし神具を扱うという点は興味深いが、我ら神剣使いから見れば格落ちの感はいなめないな。恐るるに足らんよ」


 そう言って、ヴィレオラは屍龍(しりゅう)と共鳴した。

 (はえ)の羽音のように耳障りな共鳴音。


 彼女は『冥府の刺突剣(しとつけん)』フェルノネイフで空間を突くと、『冥門』をひらいた。

『冥門』から、おぞましい叫び声をあげた呪霊が大量に飛びだしてくる!


 対して、ルナクスの周囲には『満月の盾』がふよふよと浮いている。

 盾に重なっていた三日月状の刃が、静かな摩擦音(まさつおん)をあげながら高速で回転しはじめた。


「ガレルにはガレルにしか果たせない役目があった。

 彼の代わりを務められるとは言えないが、僕は僕にしかできない役目を果たそう」


 そうして彼は、『満月の盾』から高速で回転する三日月状の刃を撃ちだした!


『三日月の刃』!!


「「ヴオ゛オ゛オ゛オ゛ッ!!」」


 三日月の刃は迫りくる呪霊たちを次々と斬りきざみ、消滅させていく。

 ルナクスの『満月の盾』や『三日月の刃』は、呪霊が相手でも有効であったのだ!


 呪霊たちと対峙するルナクスの(かたわ)らで、アレスが彼に語りかける。


「ルナクス殿!

 我われはヴィレオラとの再戦に備え、対策を(こう)じてきた。

 その内容を、お伝えしたい」

「対策……?」


 ルナクスが、不思議そうに首をかしげた。

 アレスは迫る呪霊たちを撃退しながら、その『対策』の内容をルナクスへと伝えていった――。




 今回の場面は次回に続きます。


 次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします!

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