第285話 地を伝う雷
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広大なアリスラ平原での戦い、その戦場の左翼。
そこでは、シュフェルとシュバイツァーが人と龍の極限とも言える戦いを繰りひろげていた!
「おらあああァッ!!!」
『虎雷爪』!!
『放雷』!!
災害とすら呼べる規模でほとばしる雷の奔流!
シュフェルは出し惜しみすることなく龍の御技を撃ちはなっている。
……だが、まだ完全ではない。
シュフェルが持つ神剣、『雷の長剣』ヴァリクラッド。
先の戦いで会心の『雷剣』を放って以来、ヴァリクラッドはいくらか手になじみ、シュフェルに従う素振りを見せるようになっていた。
しかし、どうしてもその『雷剣』を再現する域に到達しない。
以前ほど無駄にちからを消耗させられることはなくなったが、完全な調和にまでは至っていないのである。
ヴァリクラッドからすれば、自身の所有者として見込みはあるが、完全には心を許していないといったところか。
いっぽう、シュバイツァーの守りは以前にも増して完璧なものとなっている。
砂と金剛石を混ぜた自動防御の壁は、シュフェルが放つ雷電をすべて完全に遮断してみせていた。
シュバイツァーと晶龍は、いまだに地上に降りたったままだ。
「てめぇをガキだと思って、ナメてかかることはもうしねぇよ。全力で叩きつぶす!」
シュバイツァーがまとう『大地の自然素』が凝集され、金剛石の礫が形成されていく。
礫の先端は鋭く、剣のように尖っている。
『金剛の飛礫』!!
無数の礫が高速で撃ちだされ、シュフェルめがけて迫っていく!
「ちっ、おとなしく宝石でも売りとばしてろってんだ……!」
シュフェルとクラムは宙でからだを翻らせ、紙一重で飛礫をかわしていく。
そのとき、シュフェルたちの真下の地面が光りかがやいた。
『地讃礼拝』!!
「うぁっ!!」
シュフェルとクラムに強烈な重力がかかる!
シュフェルたちは危うくそのまま地面に叩きつけられそうになるが、かろうじて横に逃げて『重力場』から逃れる。
……しかし、その瞬間を狙われた。
「トロくなってんぞ、オラぁっ!!」
「ぐっ!!」
シュバイツァーのあまりに重たすぎる一撃が、シュフェルへと撃ちこまれる!
足場から射出台のように岩がせりだし、一気に加速。
『大地の新月刀』エツァイトバウデンの刀身は、表面を被覆している砂の粒子が微細振動することにより、その攻撃力を飛躍的に高めているのだ。
そしてそもそもにして、人類最強級の膂力と剣技をもつシュバイツァーの一撃。
シュフェルはかろうじてヴァリクラッドの刀身で受けとめたが、なすすべなく吹っとばされてしまった!
「うあああああァッ!!」
両腕を通して、全身を巨岩で撃ちつけられたかのような衝撃が走る。
シュフェルたちは凄まじい勢いでとばされ、そのまま蛇型の特戦機龍と激突してしまった!
「ギャオオオオスッ!!」
シュフェルたちの身にはせめぎあう雷と大地の自然素がまとわりついている。
激突した勢いも手伝って、特戦機龍の長く巨大な機体は跡形もなく撃ちくだかれてしまった!
世界を飲みこまんとするほどに巨大な蛇が、跡形もなく、である。
蛇の機体の破片が、広大な草原のはるか遠くまで飛びちらかっていく。
遠巻きにシュフェルとシュバイツァーの戦いを見守っていた敵味方の兵士たちは、その壮絶な戦いぶりに驚愕していた。
「なんと熾烈な……!
まるで世界が終焉していくさまを見ているかのようだ。
これがほんとうに、人と龍の織りなす戦いなのか……!?」
「我われが手出しできることなど、なにもない。
もっともっと距離をとれ! 巻きこまれるぞ!」
一般龍兵たちは戦いに加わることをあきらめ、シュフェルたちから離れていった。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……。
くそッ、負けてたまるか!」
シュフェルとクラムは特戦機龍の機体の残骸に埋もれ、もがいていた。
たった一撃を受けただけでからだはボロボロになっていたが、残骸を押しのけて宙へと飛びたつ。
それを見て、再びシュバイツァーは地へと降りたった。
「今の一撃でへこたれねぇとは、見あげた根性だ。
だが、まだまだ休ませてやるつもりはないぜ!!」
今度は、大地から砂と岩の柱を練りあげ、あらゆる方向から撃ちだしてシュフェルたちを追いつめる!
『氷華』ミネスポネの自然素の操作を思わせる、怒涛の波状攻撃。
「ッんの野郎があああぁ……!」
シュフェルとクラムはからだのあちこちを掠められながらも、かろうじて砂と岩の柱をかわしつづける。
そしてなんとか砂と岩の柱の攻撃をかわしきり、なにもない宙へと抜けたところで……。
再び直下の地面が、光りかがやいた!
『地讃礼拝』!!
シュフェルのからだに重みがのしかかり、彼女は空中で大きく体勢を崩す。
「んぁッ……!」
体勢を崩し、地に向かって落下しながらも、シュフェルは光りかがやく地面をにらみつけていた。
――初めて見たときから「もしかして」と思っていたが、もう間違いねぇッ……!
……『地讃礼拝』を発動するときのシュバイツァーの自然素の流れから、うすうす感づいていた。
『重力』の操作をするためには、大地に直接働きかけなければならない。
『重力』の操作をしているあいだ、彼か『晶龍』のどちらかは大地に触れていなければならないのだ。
つまり『地讃礼拝』を発動しているあいだ、シュバイツァーは地から離れることはできない!
「おらぁッ!!」
シュフェルは、自身の真下へと剣を放りなげた。
ヴァリクラッドの刀身が、光る地面のど真んなかへと突き刺さる。
そして彼女は地面に刺さったヴァリクラッドめがけて、右手を振りかざした!
『電弧 地雷原』!!
シュフェルの右手からヴァリクラッドへ、図太い雷が撃ちおとされた。
突き刺さったヴァリクラッドを通して、雷電が直接大地へと注ぎこまれていく。
そして雷電は地中を伝わって、シュバイツァーと晶龍の足元から撃ちはなたれた!
「……ちっ!」
とっさにシュバイツァーと晶龍は地面から離れ、雷をかわした。
雷電はかすかにシュバイツァーの身を掠めたが、直撃することなく放散していく。
……だが、シュフェルが対抗する手段を見いだしたことにより、不用意に『重力』の操作は行うことができなくなった。
重力の支配から逃れたシュフェルとクラムはそのまま地面すれすれまで急降下していき、地面に刺さっていたヴァリクラッドを抜きとった。
そして、シュバイツァーへと剣を振りかざす。ヴァリクラッドの刀身を行き交う紫電が、よりいっそう激しくほとばしった!
「ハァッ、ハァッ……!
いつまでもテメェの思いどおりにゃさせねェよ!」
シュバイツァーと晶龍は翼をはためかせ、宙を舞ったままシュフェルを見返している。
だが、彼らは雄大な大地のようにどっしりと構え、動じる気配はない。
「ふん。
野獣みてぇなガキだが、思ってたより頭を働かせるようだな。
だが、その程度で調子こいてんじゃねぇよ、クソガキが……!」
……『重力』の操作はたしかにかなり厄介な能力であったが、それは彼の多彩な戦法のごくごく一部にすぎない。
あくまでも『重力』の操作は彼の能力の補助であり、そのちからの真髄はやはり、『大地』の操作なのである。
そして、シュフェルはまだシュバイツァーから引きだすことができていなかった。
彼を人類『最強』たらしめている、あの能力を……!
※足下に広がる大地すべてが、シュバイツァーの統制下にあるわけではありません。
広い土中を迂回されると、さすがのシュバイツァーでも雷の道筋を予測することは難しくなります。
次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします!




