第282話 世界の命運を決める者たち
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ここは戦場の左翼。
レゼルの登場により、静かに戦局を見守っていたあの男もついに動きだした。
『地讃礼拝』!!
「!? うわああああぁっ!!」
大地が光りかがやくのと同時に、その直上にいた連合国軍の兵士たちが地面に叩きつけられた!
兵士たちとその龍は地面にめりこみ、自身の肉体の重みでひしゃげていく。
――『地讃礼拝』。
大地の自然素を操り、極端な重力場を形成する。
シュバイツァーが本気をだせば、じつに広範囲に重力場を形成することができる。
その効果範囲は連合国軍の一個師団を容易に潰すことができるほどであり、たった一度の龍の御技の発動で、連合国軍は壊滅的な打撃を受けていた。
……大地を思わせる深い土色の髪。
自然素の濃度が高すぎて、透きとおる結晶体となっている『晶龍』に乗る。
帝国五帝将最強の男、シュバイツァーの出陣である!
彼と晶龍は、強力な重力場のなかを平然と歩いていく。
「てめぇら、黙って見てりゃあずいぶんと調子に乗りやがって。
ぶっ潰される覚悟はできてんだろぉな、あぁん!?」
「ううぅ……!」
シュバイツァーの圧倒的な闘気に気圧され、兵士たちは皆、震えあがる。
彼に真正面から攻められて、立ちむかえる一般龍兵などいるはずがない。
シュバイツァーと晶龍はその一騎のみで、数十万騎の軍勢にも勝る戦力なのである。
一方的な殺戮が始まろうとしていた、そのとき。
上空から空をつんざく雷鳴とともに、ひとりの龍騎士が現れた!
「シュバイツぁあ あ あ あ あ あ あ゛ ッ ! ! ! 」
少女はあらん限りの声で叫び、戦いの場へと舞いおりた。
大切な人の仇を、自分自身の手で討つために!
「きたな、クソガキが……!」
シュバイツァーは、自身の前に現れた雷の龍騎士をにらみつけた。
彼もまた、彼女こそが自身が討つべき最大の敵であるのだということを認識していたのだ。
シュフェルとクラムは着地するとともに、雷の自然素をみなぎらせた。
ありあまった雷電が、大地を伝って駆けぬけていく!
「テメェはアタシが、絶対にぶったぎる!!」
シュバイツァーもまた、自身の周囲の砂と岩を巻きおこし、全力で彼女へと応えた!
「上等だ、格の違いを見せつけてやらぁ!!」
戦場の左翼でシュバイツァーとシュフェルが激突していたころのこと。
反対側の右翼でも、動きだした者がひとり。
白に近い銀の髪。
禍々しく骨格をゆがませた『屍龍』に乗る。
五帝将がひとり、『冥門』ヴィレオラ!
ヴィレオラは冥界のちからの弱体化により『死霊兵』の召喚を控えることを余儀なくされ、後方で待機していた。
しかし今、戦いが正念場を迎えたことを悟り、彼女も前線へとでてきていたのだ。
『亡者の嘆き』!!
彼女は『冥門』をひらき、数多の呪霊を呼びだした!
「あっ……かはっ……!!」
呪霊にとり憑かれた兵士は首を押さえ、苦しそうにもだえ死んだ。
一般龍兵に呪霊の攻撃を防ぐ手立てはなく、なすすべなく呪い殺されていく!
冥界のちからが弱まったとは言えど、依然としてヴィレオラが連合国軍にとって脅威であることに間違いはなかった。
シュフェルがシュバイツァーのもとに行ってしまった今、連合国軍は右翼側から壊滅においやられる可能性があった。
ヴィレオラ、彼女ただひとりの手によって。
しかし、そんなヴィレオラを食いとめようと、戦場を駆けぬけてくる者たちがいた!
ある者は、分厚い敵陣の壁をものともせずに突きやぶり、大地を駆けぬけた。
ある者は、次々と立ちふさがる標的を射抜き、自由に空をはばたいた。
そしてまたある者は、無限とも思える敵の群れをかいくぐり、決戦の場へとたどり着いた。
そうして彼らはヴィレオラの前に立ちはだかる。その身に宿すは『命の結晶』の赤き光。
絶望的とも思える実力差を厭うことなく、彼らは戦場に己の命を煌めかせた!
「五帝将ヴィレオラよ、お相手は我らがいたす」
「このあいだはよくもやってくれたわね。
シュフェル様を痛めつけた代償は高くつくわ」
「たとえボクたちの命に代えても、あなたはここでとめてみせる……!」
ヴィレオラに最後の戦いを挑むのは、アレス、サキナ、ティランの三人!
そしてその挑戦をヴィレオラは、真正面から受けてたったのであった!
「フッ。
わたしもずいぶんとナメられたものだな。
いいだろう。貴様ら全員、冥界送りだ!!」
レゼルとエウロは『流星群』を放って戦場に着地したのち、再び天空へと舞いあがっていた。
今や、彼女たちの行く手をさえぎろうとする者などいなかった。
彼女はただ真っすぐ、真っすぐに自身の戦うべき相手のもとへと向かっていった。
そうして彼女は、自身を待つ者のもとへとたどり着く。
『天翼の浮遊城』、その頂上で待つ者。
その髪は闇夜を思わせる滅紫。
またがるは現生の龍のなかで最強の存在、『闇の龍王』オルタロヴォス。
帝国皇帝および、闇の龍神デスアシュテルである!!
宙を舞って現れたレゼルと、毅然として待ちかまえていたデスアシュテル。
ふたりは、互いに互いを見合わせた。
今、神のちからをもつふたりの龍騎士が相見えたのだ!
『あまねく光の導き手として……。
あなたに引導を渡します、闇の龍神デスアシュテル!!』
『ぬかすがいい。
貴様を光の龍神もろとも永遠の闇へと葬りさってやる、カレドラル国女王レゼル!!』
世界の命運を決める者たちの真の戦いが今、始まろうとしていた――。
次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします!




