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第280話 世界を分かつ刃

 連合国軍が勝機をたぐりよせつつあった、アリスラ平原の戦い。

 帝国首都エルパレスガーナの上空に浮かぶ『天翼(てんよく)浮遊城(ふゆうじょう)』からは、その戦いのありさまを一望することができた。


 帝国軍兵士たちを第二次大規模進行へと盛大に送りだすため、場内から人は()け、がらんどうとなっていた。

 しかし今、その頂上に立ち、はるか高みから戦場を見おろす者かいた。


『闇の龍神』にして帝国皇帝、デスアシュテルである。


 彼の後ろに付きしたがうようにして、闇の竜王オルタロヴォスも控えている。

 デスアシュテルは連合国軍の懸命な戦いぶりを目のあたりにして、声に怒りをにじませた。


『我が帝国に(あだ)なす愚かな人と龍どもよ。

 それほどまでに神の怒りに触れたいというのか……!』


 そう言って、デスアシュテルは闇の両刃剣『レヴァスキリュリテ』を振りかぶった。


 彼は『共鳴』する。

 その『共鳴音』は、あたりからすべての音を奪いさる『無音』。

 連合国軍へと制裁(せいさい)をくだすべく、レヴァスキリュリテの刀身に『破滅の闇』のちからが注ぎこまれていく!




 アリスラ平原では、連合国軍の兵士たちが士気も高く奮闘していた。


「よぉーし!

 この戦い、必ずや勝利を我らのものにするぞッ!!」

「「おぉーっ!!」」


 しかし、兵士のひとりがただならぬ気配を察知し、『天翼の浮遊城』で起こっている異変に気づく。

 彼は、浮遊城の頂上のほうを指さした。


「おい、あれ……」

「えっ?」


 兵士たちが目を向けた先、浮遊城の頂上には深遠なる闇が集約されていた。

 彼らは、帝国皇帝が技を放とうとする瞬間を目撃していたのだ。


 そうして、黒き闇の刃は振りおろされた。

 その軌道上にあるすべてのものを無へと帰す、神の一撃――。


(シュヴィル) (ラム) 』!! 


 そのとき、世界は分断された。

『黒刃』の刃が、連合軍の大軍勢を真一文字に斬りふせたのである。


 刃に触れたものは人であろうと龍であろうと、(ちり)すら残すことなく消滅した。

 レヴァスキリュリテから撃ちはなたれた黒き刃はそのまま闇の波動となって、空間をどこまでも伝わっていく。


 何万騎という人と龍を消滅させても、その闇のちからが減衰(げんすい)することはない。

 のちに明らかとなったことだが、その一撃のはるか延長線上にあった国がひとつ、闇に飲みこまれて滅亡したという。



 

「なっ……あ……ッ!!」


 幸いにも難を逃れていたホセは、しかしそのあまりにも恐ろしい光景に驚愕していた。


 ――たった一撃。

 その一撃で、いったい何万騎の人と龍が失われた?

 犠牲者の数は数万……いや、十万騎はゆうに越えている!


 これが、帝国皇帝のちから。

 世界最強の龍騎士のちから……!




 戦場にいたシュバイツァーもまた、黒き刃が世界を分断するさまを見届けていた。

 彼はひとり言のように、沈みゆく連合国軍へと語りかけた。


「てめぇらがいくつの国をひき連れてこようが関係ねぇんだよ。

 皇帝陛下が本気で動きだしさえすりゃあ、な」




 機運に乗りつつあった連合国軍はこの一撃によって、完全に勢いを()がれてしまった。

 帝国皇帝が放った一撃は、見た人間すべてを絶望におとしいれるのにじゅうぶんな破壊力をもっていたのだ。


 なんとか勢いを取りもどそうと、ホセは必死に思考をめぐらせた。


 ――ダメだ。

 一瞬でこれだけの数の兵を失ってしまっては、どんなにがんばっても体勢を立てなおすことはできない。

 それに、今の一撃を見て、みんな心が折れてしまっている……!


 連合国軍は、総崩れしはじめた。

 対して、帝国軍の兵士たちは皇帝の絶対的なちからを目の当たりにしていよいよその忠誠を強め、士気は最高潮へと達している。


 ……誰がどう見ても、決着はついていた。

 壊滅的な打撃を受け、連合国軍にはもはや立てなおすすべはない。

 生きのこった兵士たちも、皆が敗北を覚悟した。


 闇の龍神が統べる帝国による世界の支配。

 完全なる、闇の到来。


 ――しかしそのとき、空にひと筋の光明(こうみょう)が差しこんだ。




 次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします!

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