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第279話 つかみ取る機運


 前回の場面の続きです。


 そして、さらに――。


「僕らの手札は、これで終わりじゃありませんよ」


 ホセは片手を高くあげたのち、手を振りおろして合図した。


 その合図とともに、空の(かすみ)から新たな軍勢が現れた。

 その大軍を目にした帝国兵たちは、口々に驚愕(きょうがく)の声をあげていた。


「バカな。あれはアイゼンマキナの……!」

「ゲラルド殿が亡くなり、生産はとまったと聞いていたぞ!」


 彼らが目にしたのは鋼鉄で覆われた体表に、赤く光る目。

 龍を(かたど)った完全自律型の機械、『機龍兵(きりゅうへい)』であった!


 ……『覇鉄城(はてつじょう)』の崩落とともにゲラルドの研究室も潰れ、彼が残した研究手記の多くは失われてしまっていた。

 しかし、ホセは城の周辺に残った機械工場から部品ごとの設計図を集め、見事『機龍兵』の再開発に成功していたのである!


 ヴュスターデとの国交が回復したことにより、新たな『燃料油』も確保することができた。

 ホセが復活させていたのは、翼竜騎士団だけではなかったのだ。


 機龍兵たちは戦場にたどり着くと、おおいに暴れまわった。

 肩に仕込まれた火炎放射機から火を噴きながら、機龍は敵陣のなかを飛んでまわっている。


 生きた龍より機動力に劣る分、空中での姿勢が安定している。

 龍の騎乗に習熟していない者でも乗りこなせることが、兵の数を増やすことに貢献してくれていた。


 ……そして驚くべきことに、ホセはさらなる新戦力を投入していたのである!


 とりわけ巨大な機体の龍が綱でつながれ、数匹の機龍兵によって運ばれてきた。

 通常の機龍の、五倍以上もある大きさの機体である。


 巨大機龍は空中で綱を切りはなされると、地響きをあげて着地した。

 舞いあがる土煙のなか、その眼に赤い光が灯り、鋭い金属音のような雄叫(おたけ)びをあげた!


「キシャアアアアアアアッ!!!」


「なんだあの巨大な機龍は……!」

「動きだす前に破壊するんだ!!」


 巨大機龍へと向けて、いっせいに矢が射ちはなたれる。

 それらの矢が当たる直前に、巨大機龍のからだはバラバラに解体され、数百個の(ふし)なしダンゴムシへと分かれてしまった!


 ――『特戦機龍(とくせんきりゅう) 第参式(だいさんしき)』。


 かつて、テーベでシュフェルを苦しめた機械兵器。

 ゲラルドの生前はまだ試作機の段階であったため、帝国本国にその特性は知られていなかった。


 節なしダンゴムシは氷銀の狐たちとともに地面を駆けまわり、次々と帝国兵を粉砕していった!


「くそっ!

 数が多いし、どれも動きがバラバラだ……!」

「地面から離れて、上から矢を掃射(そうしゃ)するんだ!」


 しかし、帝国兵たちが上空に飛んだと見るやダンゴムシたちはすばやく一箇所に集まり、再び巨大機龍となって宙へ舞いあがった。

 まさしく、やりたい放題である。


『特戦機龍』は第参式だけではない。


 人型に近いかたちをした機龍。

 両翼を広げて高速で空を飛び、鉤爪(かぎづめ)で敵を斬りさく。

 腕からは竜巻のような猛風を噴出することも可能であり、魔神のごとき戦闘力である。


 車輪の上に大きな顔だけが乗っている機龍。

 口から途絶えることなく誘導弾(ミサイル)を撃ちながら戦場を駆けまわる。

 誘導弾は不規則な軌道を描きながら敵を爆破していく。

 定期的に工作兵が駆けよって弾を補充しなければならないものの、その破壊力は絶大である。


 翼が無数の刃で構築されている機龍。

 翼を広げて飛ぶだけであらゆる物が斬りきざまれていく。

 その形状は、翼を広げた孔雀(くじゃく)のように美しくもあった。


 そしてなかでも圧巻だったのは、ひと際巨大な蛇型の機龍であった!

 巨大な蛇の機龍は戦場を這いずりまわり、敵兵たちを見境なく飲みこんでいく。

 その姿は見た者に、世界を丸ごと飲みこむという空想上の蛇を思い起こさせた。


 これらの『特戦機龍』は、かつて『覇鉄城』の前の大広場で翼竜騎士団が見かけた機体と酷似(こくじ)している。

 いずれも、ホセがその優れた頭脳をひねって再現した機械兵器である。

 グレイスの作戦で爆破されていなければ、かなりの苦戦を強いられる強敵であったことは間違いないだろう。


 ……ありとあらゆる戦力と、戦略。

 これだけの工夫をほどこして、戦局はようやく五分。


 だが、まるで歯が立たないと目されていた帝国を相手にしての五分である。

 三十万の兵力差を埋められているというのは非常に大きい。

 それに連合国軍の兵士たちは、あの絶対的な存在であった帝国と渡りあえていること自体を誇りに思い、意気揚々としていた。


 まさしく士気は最高潮。

 挑戦する側ならではの勢いのよさが、連合国軍にはあったのである。

 戦局が五分なら、最後に勝つのは勢いがあるほうだ。


 ホセは拳を固くにぎりしめ、自身の胸にあてた。


 ――行ける。

 この連合国軍の勢いと、士気の高さなら。

 あの帝国軍を、倒せる……!


 ホセだけではない。

 アリスラ平原で戦う連合国軍の誰しもが、機運(きうん)を感じとっていた。


 しかし、そのとき。

天翼(てんよく)の浮遊城』から戦いを俯瞰(ふかん)していた者が、動きだすのであった――。




※『特戦機龍』のオリジナルたちは、第一部の第26話『舞い踊る真紅の炎』で姿をチラ見せしております。


※生物の構造や機能から着想を得て開発される科学技術のことを『バイオミメテォクス』と言います。

 戦う龍の姿を模して開発された機龍兵や特戦機龍もまた、ある種のバイオミメテォクスと言えるでしょう! 


 次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします。

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