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第278話 『情報』と『戦略』


 前回の場面の続きです。


 ホセは再び、自身の手ににぎる『拡声器』に声を吹きこみ、次々と指示をだした。


『エスタニア王国軍、全軍前進してください!』


『ファルウル王国軍、第三部隊は地上で待機を!』


 拡声器を通して、戦場にホセの指示が響きわたる。



 

 ……通信技術が確立していないこの世界において、数十万もの軍勢を統括(とうかつ)して動かすことは容易なことではなかった。

 帝国軍も大きく五万ごとの師団に分けられており、指揮系統もそれぞれの師団長の采配(さいはい)に委ねられているのが現実である。


 その点、ひとりの優秀な指揮官が全体を統括して指示をだせるというのは、たしかに画期的なことではあったのだ。

 だが、しかし……。


 帝国軍の各部隊の司令官たちはその声を聞いて戦況を分析し、(さげす)むように笑った。


「馬鹿め!

 指示系統を統一するねらいだろうが、こちらにまで指示が筒抜けではないか!」

「考えていることをわざわざ教えてくれているようなものだ。

 我われにとって、これほど楽なことはないわ!」


 敵の将兵たちは皆、ホセを(あなど)り、あざ笑っていた。

 だが、その顔は、たちまち凍りつくこととなる。


 進軍しているはずの部隊は後退し、ほかの部隊の背後にまわって層を厚くする!

 待機しているはずの部隊が突如として進軍を始め、帝国軍の守りがうすくなった箇所へと突撃してくる!!


「なにっ!?」

「エスタニア王国軍が、なぜこんな場所にいる……!?」


 ホセの指示の裏をかいたはずが、気がつけば帝国軍は逆に包囲されてしまっており、各地点で手痛い反撃を受けていた。


「この声の指示は陽動(ようどう)か!」

「皆の者、この声に惑わされるな!

 指示とは逆の動きをするぞ!!」


 しかし、ホセの声を敵が陽動だと思えば、連合軍の部隊が指示どおりに行動に移す。

 敵が本物の指示だと思えば、部隊は真逆の行動を起こした。


「もうワケがわからん!!」

「いったいこの『指示』はウソかホントか、どっちなんだ!?」


 帝国軍はまたたく間に大混乱におちいったが、それもそのはず。

 ホセの『指示』には、(まこと)虚偽(きょぎ)も混じっていたのだ。




 彼の実際の命令は、翼竜騎士団の偵察兵たちが伝えていた。


 ホセの言伝(ことづて)をもった偵察兵が各部隊に近づいていき、真の指示なら白の旗を、虚偽の指示なら赤の旗を振りあげて合図する。

 各部隊の指揮官はその旗の色を見て、指示が真か虚偽かどうかを見分けているのだ。


 偵察兵たちはホセの真の指示を各部隊の指揮官に伝えると、各地で得た戦況の情報をホセのもとへと持ちかえっていく。


 ……連絡が途絶えぬよう、偵察兵たちには精鋭による護衛がつき、同じ言伝をもった予備の偵察兵もいる。

 しかし、情報の伝い手である彼らも、いつ戦いにまきこまれて命を落としても不思議ではなかった。

 偵察兵たちにとっても、危険な任務だったのである。




 セシリアもまた、偵察部隊の一員として、龍に乗って戦場の空を飛びまわっていた。

 戦場の空には、敵味方の弓矢や砲弾が飛びかい、直接襲いかかってくる敵兵たちもいる。


 攻撃の巻きぞえをくらってしまい、志半ばで倒れていく偵察兵の仲間もいた。

 それでも彼女は自分の使命を果たそうと、懸命に空を飛びつづけたのだ。


 ――レゼル、私たちも世界を守るためにがんばるからね。

 だからお願い、必ず戻ってきて……!




「もう指令の声は聞くな!

 各部隊ごと現場で判断し、敵の行動に対応しろ!!」

「戦力では圧倒的にこちらが上回っているのだ!

 まともにやりあえば我ら無敵の帝国軍が敗れるはずはない!!」


 帝国軍はホセの声を無視する方向に動きつつあった。

 だが、場当たり的に対応して勝たせるほど、ホセは甘い男ではない。


 偵察兵たちから得た情報をもとに即座に戦略を練りあげ、数百数千にも及ぶ連合国軍と帝国軍の部隊を、自身の思うがままに操っていたのだ。

 その頭脳を全速力で回転させながら、彼はかつて自身のもとへと届いた報告を思いかえしていた。


 ――連絡兵の報告によれば、グレイスさんはヴュスターデでの戦いでネイジュさんの感知と氷の文字による伝達で、自軍よりはるかに巨大な敵の軍を破ったと聞く。

 ……僕は知っている。

『情報』と『戦略』が、数をくつがえすのだということを!


 そして、さらに――。


「僕らの手札は、これで終わりじゃありませんよ」


 驚くべきことに、ホセは更なる秘策を用意してきていたのであった――。




※軍事工学(と薬学)が異様に発達したこの世界において、通信技術がまったく発達しなかった理由。


 それは技術開発の功労者であるゲラルドが、人との関り合いにまったく興味がなく、わずらわしいとさえ思っていたからだと言われています。


 無線や電話なんて開発したら、彼のもとにしょっちゅう連絡がきちゃうでしょうからね。


 もし今回の戦いに勝った暁には、ホセがこの世界の通信技術を大きく発達させてくれるかもしれません。



 今回の場面は次回に続きます。


 次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします!

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