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第277話 若き司令官


 前回の場面の続きです。


 無論、帝国軍も数に任せて無策で戦っていたわけではない。

 短時間のうちに連合国軍の弱点を見抜き、対応策をうちだしてくる。


 帝国軍の司令官のひとりが両手の指先を合わせ、管轄(かんかつ)する部隊に指令をだした。

 両手の指先を合わせるのは、錘陣(すいじん)を示す構えである。


「所詮はにわかづくりの有象無象(うぞうむぞう)の集まりだ。

 各国の隙間を狙い、割って入れ!!」

「「はっ!!」」


 指示を受けた帝国軍の部隊は空中で隊列を組みなおし、錘型(すいがた)の陣形をつくりだした。

 先尖りの陣形なので、連合国軍の弱い箇所を点で狙うことができる。

 帝国軍はいくつかの錘陣を完成させると、連合国軍の国と国の隙間を狙って突撃していった!


 三国や四国が接する『点』では防衛の責任があいまいとなり、守りがうすくなりやすい。

 帝国軍はその『点』を狙って、『穴』を穿(うが)ったのである。


 取っかかりさえできてしまえば、しめたもの。

 後続の軍が螺旋(らせん)の陣形をつくって後に続き、『穴』をどんどん広げていく!

 じゅうぶんに『穴』を広げ、各国の連携を分断したところで、弱い国から各個撃破していく算段(さんだん)なのだ。


 通常であれば、螺旋に続く隊列を真横からへし折るように反撃を食らっても不思議ではない。

 しかし、全面的に戦いが展開されているので、連合国軍側には反撃をする余裕がないのだ。

 圧倒的な兵力の差を、存分に活かした戦略である。


 布陣のあちこちに『穴』を開けられ、連合国軍は窮地(きゅうち)におちいる。

 この状況を打破するには、一度布陣を解除し、組織的に各国の軍を動かさなければならない。

 しかし、まるで出自(しゅつじ)の異なる連合国軍を、統括して動かす指揮系統などあるはずがなかったのである。


 賢王(けんおう)クルクロイはいち早く危機を察知し、連合国軍が崩壊しつつあることを予見していた。


「まずいな……。

 このまま各国の連携が分断されていけば、連合国軍はたちまち崩壊するぞ!」


 そして連合国軍の崩壊の危機をいち早く察知した者が、ここにもひとり。

 カレドラル国軍の司令官である、ホセである。


 彼は目をつむり、レゼルたちが出立する前、グレイスに言われた言葉を思いだしていた。


『俺がもし今後、死んじまったり、指示をだすことができない状況になっていたとしたら……。

 ホセ、そのときはお前が戦略を考えて、指示をだしてくれ』


 ――自分に世界の命運をかけた戦いの指揮が務まるなんて、とても思えなかった。

 だが今は、自身を信じてくれた人の期待に応えて身を尽くすことしか、自分にできることはない!


 ホセは()()()()()を手に取った。


 手のひらほどに収まる機器。

 さらに、彼が乗っている龍には宙籠がつながれており、そちらには大きな箱型の機械が搭載(とうさい)されている。


 ホセが手元の機器に声を吹きこむと、その声は拡大されて箱型の機械から鳴らされる。

 彼の声は空に響きわたり、戦場の隅々(すみずみ)にまで届いた!


『僕が指示をだします!!

 各国の司令官は僕の指示に従って軍を動かしてください!!』


 ホセが使用したのは、『拡声機(かくせいき)』。

 彼はゲラルドが遺した機械工学を応用し、『拡声機』の開発に成功していたのだ。


 その声を聞き、最初に反応を示したのはやはり、賢王クルクロイであった。


「声を拡大する機械。

 ほんとうに使う機会が訪れるとは……」


 クルクロイは、ホセの顔を思いうかべていた。


 各国の代表と指揮官は何度も会談を重ね、入念に打ち合わせを行ってきた。

 そのなかでホセはひと際若い指揮官であったが、常に的確かつ鋭い意見を述べていた。

 ほかの国々からも、彼は厚い信頼を得ているようだった。


 戦いを進めていくなかで、『拡声機』を使う必要性がでてくるかもしれないことについても、ホセは言及(げんきゅう)していた。


 ……世界の命運を決める戦いに、年齢など関係ない。

 そして今のこの困難を打破できるのは、彼をおいてよりほか誰もいないように思われたのだ。


「よかろう、カレドラルの若き司令官よ!

 そなたに我われの命運を(ゆだ)ねたぞ!!」


 賢王クルクロイは兵士に発煙筒(はつえんとう)をあげさせ、ホセの声に応じる意を示した。

 それを見て、ヴュスターデ女王のマチルダも決意を固めた。


「私たちも賭けに乗りましょう。

 我が国を救ってくれたカレドラルを、信じない理由はありません」


 ヴュスターデ軍も発煙筒をあげ、ホセの声に応じる意を示した。


 ファルウル、ヴュスターデが賛同の意を示したことで、ほかの国々も迷いが消えたようであった。

 各国の軍から次々と発煙筒があがり、最終的にはすべての参加国からの同意を確認することができた。


「皆さん、ありがとうございます……!」


 ホセは再び、自身の手ににぎる『拡声器』に声を吹きこみ、次々と指示をだした。


『エスタニア王国軍、全軍前進してください!』


『ファルウル王国軍、第三部隊は地上で待機を!』


 拡声器を通して、戦場にホセの指示が響きわたった――。




 今回の場面は次回に続きます。


 次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします!

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