第276話 龍の舞う島々
前回の場面の続きです。
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ファルウルに、ヴュスターデ。
世界を代表する大国が大活躍していたことは当然だが、連合国軍に参加していた国々のどれもが強国であったわけではない。
むしろ、単体では『弱小国』とも言うべき国々が数多く含まれていた。
しかし、弱小国には弱小国なりの戦いかたがある。
彼らは自分たちの強みを活かすことに専念したのだ。
動きは鈍重だが、重装兵が多く守りが得意な国。
逆に守りは苦手だが、軽装兵が多く速攻が得意な国……。
彼らはもっている弱点も多かったが、自国の強みを活かし、互いの弱点を補いあっていたのである。
個性的な国としては、『獣人の国』バズゼドア。
獣の血が混じるという彼らは、大鷲に乗って戦場へと駆けつけた。
人語を解さず、作戦行動は苦手。
だが、個々が野獣のような怪力をもち、高い戦闘力を誇る。
もうひとつ、『鋳造の国』アロガンゼス。
巨大な火山の麓、地下に民が居住している国。
モグラのような覆面をかぶる彼らは視力が弱く、戦闘は苦手。
だが、優れた鋳造技術をもち、非常に性能のよい武器を他国に提供してくれている。
ほかにも、こんな国が――。
戦いで傷つき、地に降りたつ龍兵が一騎。
岩陰に身を潜め、龍とともにうずくまっている。
そこに駆けつける、他国出身の女子龍兵がいた。
「うぐぐぐ……!」
「大丈夫ですか!?」
「手の指を数本折られたのと、龍の翼を傷つけられてしまった。
くそっ、私はまだ戦えるというのに……!」
「ちょっと見せてください!」
「う、うむ……んんっ!?」
兵士は自分の手を取る女子龍兵の顔を見て、目をひんむいた。
なんとも美しく、可愛らしい顔つき。
懸命に自分の手の傷を見るまなざしは健気で愛おしい。
まさしく、戦場に咲く一輪の花である。
――『医療の国』、パルメティア。
争いごとは苦手だが、医療・看護技術に秀でていることで有名な国である。
(美人が多いことでも有名)
パルメティアの女子龍兵は、手際よく傷ついた兵士と龍の手当てを済ませた。
顔をあげ、兵士に声をかける。
「手当てしてみました! どうですか!?」
「…………(ポ~……)」
「あれっ、意識もやられてる!?」
「ハッ!! ゴホンゴホン!」
女子龍兵に見惚れていた兵士は我に返り、取りつくろうように咳払いをした。
「かたじけない!
おかげで助かった、これでまた戦える!」
「よかった!
なにか不具合があったら、無理せず戻ってきてくださいね?(ニコッ)」
「よぉし、がんばるぞォーッ!!」
「がんばってください!」
女子龍兵は、笑顔で兵士を送りだした。
(ぜったい生きて帰って、パルメティアに遊びに行くぞ……!)
兵士は意気も揚々、戦線へと復帰していったのである!
……連合国軍は、どの国も強大であったわけではない。
しかしこの各国の『多様性』こそが、連合国軍の大きな武器となっていたのである。
そしてその『多様性』を象徴する最たる国が、こちら。
「はわわわわ……!」
「こっ、殺されるー!!」
帝国軍に追いかけられ、必死に逃げまわっている一軍があった。
――『小人の国』、ピンズ。
ピンズ国民は世界一からだが小さく、通常の人間の半分ほどの大きさしかない。
頭に乗せた色とりどりの三角帽子が似合っていてとても可愛らしい。
彼らは周囲の強い反対を押しきり、世界の命運を決める戦いへと参加を表明したのであった。
しかし駆けつけたのはよいものの、からだが小さくて龍にしがみついているのがやっと。
龍の背上でナイフを振りまわしても、とうてい敵には届かない。
敵を目の前にして彼らはなにもすることができず、ただただ逃げまどうしかなかったのである。
「わー!!」
「ぎゃー!!」
「助けてええぇ」
「ウハハ、なんだコイツら。
逃げても無駄だ、おとなしくやられろ!!」
泣きわめきながら逃げまどう彼らの姿は妙に人間の嗜虐心をくすぐり、帝国兵たちは夢中で彼らを追いかけまわしていた。
……まさしく囮役として、彼ら以上に適した者はいなかったのである!
ピンズ国軍を追いかけて、帝国兵たちが厚い雲の傍らを通ったときのことである。
突如として、龍に乗った別の部隊が現れた!
「なっ……! 雲のなかから!?」
「翠の服飾に、龍の翼の紋章……こいつら、カレドラル国軍だ!!」
厚い雲のなかに潜み、敵の不意を突いての奇襲。
現れたのは龍に乗って空を自在に駆る者たち、『翼竜騎士団』である!
翼竜騎士団からの奇襲を受け、帝国兵たちはたちどころに一網打尽にされてしまった。
「はぁ、はぁ……。
言われたとおりに逃げたら助かった……!」
「ボクらもちょっとは役に立ってるのかな?」
危機を脱したピンズ国軍は後ろを振りかえり、自分たちを救った者たちの勇姿を見届けていた。
――『神聖国家』カレドラル。
翼竜騎士団の本拠地にして、『龍神信仰』の総本山。
龍を愛し、龍とともに暮らし、『龍の鼓動』を感じとる民。
相棒となる龍のことを知りつくしているのはもちろんのこと、『龍の鼓動』を感じることによって龍の動きをいち早く察知し、卓越した騎乗技術を実現しているのである。
かつては世界最強の軍とまで評されていた翼竜騎士団の復活。
鉄炎宰相ゲラルドの圧政によって著しく国力を減じたものの、龍に乗った空中での戦いにおいては無類の強さを誇る。
その自在に空を舞う姿こそ、世界に点在する『龍の舞う島々』の、象徴たる存在だったのである!
今回の場面は次回に続きます。
次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします!




