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第267話 覚醒の兆し


 前回の場面の続きです。


 シュフェルとガレルの、魂の声が重なりあう。


 ――アタシ()ちから()は、大切な誰かを『護る』ためのちから()だ――


「アリガト、ガレル……」


 そうして、シュフェルとクラムは『共鳴』した。


 しかし、彼女たちが奏でたのはいつもの激しくうち鳴らすような鋭い音ではなく、静かで優しげな音。

 まるで過去の弱き自分を包みこんで、許してあげているかのように。


 シュフェルとクラムのからだを雷電が包みこみ、彼女らのからだは宙に浮かびあがった。


 ――『雷剣(エクレスペル) 』――


 シュフェルが『雷剣』を撃ちはなったことを、シュバイツァーも遠方から感知していた。

 シュフェルとシュバイツァーのあいだに、砂と金剛石(ダイヤモンド)を混じた防御壁が自動生成されていく。


「あんだぁ?

 てめぇは馬鹿のひとつ覚えみてぇにまたソレ……か……!?」


 瞬間、シュバイツァーは背筋が凍りつく感覚を覚え、戦慄(せんりつ)した!


 ――なんだ?

 この『自然素』の量と濃度は……!!


 とっさに、シュバイツァーはエツァイトバウデンをにぎりしめ、構えをとる!

 シュフェルは砂の防御壁を突きぬけ、シュバイツァーへと襲いかかってきた!


「ぐっ!!」

「シュバイツァー様っ!?」


 想定を超える突破力と速度に、シュバイツァーの反応が遅れた。

 かろうじて『雷剣』を受け流したものの、肩に深手の傷を負ってしまう!

 シュバイツァーの側近たちが彼の身を案じ、悲鳴をあげていた。


 迅雷(じんらい)となって駆けぬけていくシュフェルとクラムの背中を、シュバイツァーは見届けていた。


 ……砂と金剛石の防御壁。

 難攻不落、まさしく鉄壁の防御を突きやぶられたのだ。


 シュバイツァーは彼女のなかで、今までにはなかった変化が起こっていることを感じとっていた。

 そのとき、シュバイツァーの脳裏に『焔ノ神(フオ・エリュシテ)』を発現したガレルの姿がよぎる。


 ――まさかこいつも、()()()()()に目覚めようとしてんのか……!

 あのガレルとかいう野郎みてぇに……!!


 シュバイツァーは傷ついた肩を押さえる手を離した。

 代わりに、エツァイトバウデンの()を強くにぎりしめる。


 ――駄目だ。

 こいつはこの場でとどめを刺しとかなきゃならねぇ……!

 じゃねぇと必ずヤバいことになる!


 シュバイツァーはシュフェルに攻撃を加えようと、『晶龍』との『共鳴』を深めた。

 しかし、そこで彼はとある()()()に気がつく。


「!?」


 ……いないのである。

 シュバイツァーが戦線に現れて、姿を見せぬはずがない龍騎士の姿が。


「おい、待て……!

 てめぇらの親玉は……。

 カレドラル国女王レゼルは、どこに行きやがった……!?」


 シュフェルが神剣を使いこなせぬうちは、いくらレゼルがいようが負けるとは思わなかった。

 だが、まさかそのレゼルがいなくなっていたとは、想定すらしていなかったのである。


 ……そのとき、彼の背後で戦っていた黒騎士のひとりが、槍で貫かれた!


「がっ!!」

「!」


 アレスが黒騎士のひとりを討ちとり、その身に槍を突き立てていたのだ。

 彼は槍の柄をにぎりながら、シュバイツァーへと語りかけた。


「ふっ、さすがに勘がよいな……。

 察しのとおり、我らが(しゅ)レゼル様は今、とある場所に向かわれておる。

 貴様ら帝国を滅ぼすための、手筈(てはず)を整えるためにな!」


 シュバイツァーは振りかえり、アレスをにらみつける。


「言え。レゼルはどこに向かった?」

「ふっ、答えるわけがなかろう?

 もちろん、我らはいかなる拷問(ごうもん)を受けても口をひらくことはない!

 だが、次にレゼル様が戻られたとき。

 それが、帝国滅亡のときだ……!

 たとえここで我らを滅ぼそうとも、な」

「……てめぇ……!」


 シュバイツァーは闘気を放ってアレスを威圧してみた。

 常人であれば、向けられただけで気絶してしまうほどの圧力。


 しかし、アレスに揺らぐ気配はない。

 いかなる拷問を受けても口をひらかぬという意志の表れ。

 あるいはそれだけの重要な秘密、行き先はレゼル当人以外の者には知らされていない可能性もある。


 ――こいつら、本気で(くつがえ)そうとしてやがんのか。この状況から、絶対なる帝国を……!


 シュバイツァーの側近が、彼へと進言した。


「シュバイツァー様!

四夜(よつや)』は討たれ、シュバイツァー様も手傷を負われております。

 敵になにか企みがあるというのであれば、ここは一度退(しりぞ)き、皇帝陛下にご報告いたしましょう!」

「ちっ……!」


 ――その場の怒りに身を任せちゃならねぇ。

 優先すべきは、帝国の絶対なる勝利……!


 シュバイツァーは身を(ひるがえ)すと、『黒夢の騎士団』に撤退を命じた。


「てめぇら、いったんここは退()くぞ!

 退却だ!」



 

 アレスは退却していくシュバイツァーと『黒夢の騎士団』の背を見送っていた。

 敵が撤退したことを確認すると、彼はようやく安堵(あんど)のため息をついた。


「……ふぅっ。

 なんとかハッタリが効いたようだな。

 私も知らぬ間に、グレイス殿に似てきているようだ」


 次に、彼はシュフェルとクラムのほうを見やった。


 彼女たちはまだ帯電したまま、その場に留まっていた。

 シュフェルはたった一撃を放っただけで疲弊(ひへい)しきっているようであった。


「ハァッ、ハァッ、ハァッ……よかった……」


 彼女はシュバイツァーがいなくなったことを悟ると『共鳴』を解除し、クラムとともに気を失って倒れてしまった。

 そんな彼女の様子を、アレスは遠くから見届けていた。


 ――たった一撃にすべてのちからを注ぎこみ、倒れてしまわれた。

 だが結果として、あのシュバイツァーに深手を負わせ、撤退の判断にまで至らしめている。

 シュフェル様の一撃がなければ、今回のような結果にはならなかったはずだ。


「お見事です、シュフェル様……!」


 シュフェルへと、心からの感謝と畏敬(いけい)の念を抱くアレス。

 だが、敵の襲撃をしのぎきったと喜んでばかりもいられない。


 ――『四夜』を討ちとれたことはかなり大きかったが、それ以上に多くの一般龍兵を失ってしまった。

『黒夢の騎士団』の暴虐(ぼうぎゃく)によって、こちらの陣営には甚大な被害がでていたのだ。


 そしてなにより、レゼル様がいなくなっていることが敵の知るところとなってしまった。

 光の龍神が生存していることは皇帝も知らないことのはずなので、レゼル様が目標を達成することの妨害はできないと踏んだのだが……。

 なんらかの対策は講じてくるかもしれない。


「レゼル様、どうか早くお戻りくださいませ……!」


 アレスは倒れているブラウジに代わり、生きのこった騎士団員たちに指示をだした。


「敵からの第二陣が送られてくるかもしれぬ。

 ただちに生存者を確認して、宿営地を移すのだ!

 みんな疲れているだろうが、がんばれ!」


 そうこうしているうちに朝陽がのぼり、生きのこった騎士団員たちの姿を照らしだす。


 彼らは再び、絶望の夜を乗りこえた。

 命を()して戦いぬいた者たちに、また『明日』がやってくる。 




 次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします!

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