第266話 大切な誰かを護るためのちから
◆
部隊長とブラウジたちの奮闘により、『黒夢の騎士団』筆頭の騎士である『四夜』は倒れた。
これによって、翼龍騎士団も勢いづく。
騎士団員たちの息のあった連携により、ちらほらとうち倒される黒騎士も現れはじめている。
しかしこの戦況に、ついにあの男が動きだそうとしていた。
帝国軍、真の最強の男が……!
「おいおい、なんつー体たらくだ。
てめぇらに帝国随一の精鋭部隊だって意地はねぇのか……!?」
額に青筋を浮かべて、戦場をにらみつけるシュバイツァー。
地鳴りとともに、彼と『晶龍』の周囲を大地の自然素がめぐりはじめた。
アレスは目の前の黒騎士と交戦しながら、シュバイツァーの動向をうかがっていた。
――まずい! シュバイツァーが動きはじめた!
だが、唯一対抗しうるシュフェル様はまだ調子を取りもどせぬまま。
そのことを奴に悟られたら即座に終了だ。
どうする……!?
……シュバイツァーが臨戦体勢に入ったことにいち早く気がついたのは、シュフェルであった。
しかし今の彼女は、どうがんばっても『共鳴』をすることができずにいたのだ。
怖いもの知らずだったはずの彼女の心に、焦りと不安がどんどん募っていく。
――どうしようどうしよう。
アタシのせいでみんなが死んじゃう。
姉サマにみんなを護るって約束したのに。
こんなとき、いったいどうすれば……!
とうとうシュフェルは堪えきれずに、泣きはじめてしまった。
今のシュフェルに、救いの手を差しのべられる者は誰もいない。
彼女はただただ、途方に暮れるしかなかったのである。
だが、しかし。
「あっ……」
それは彼女の心が映しだした幻か、それともこの世に還ってきた魂か。
彼女とクラムの目の前に立つ者がいた。
『らしくねぇツラさげてんじゃねぇのか?
シュフェル』
「ガレル!?」
燃えるような紅蓮の髪と瞳。
彼は、静かにシュフェルへとほほえみかけていた。
『シュフェル。
みんな、騎士団のために、世界のために懸命に戦ってるぜ。
こんなところでくすぶってる場合じゃないんじゃねぇか?』
「でもでも!
アタシなにがなんだかわからなくなっちゃって、『共鳴』もできなくなっちゃって、それで……!」
シュフェルの目から、涙があふれだした。
「ねぇ、ガレル!
『共鳴』ってどうやってするんだっけ!?
アタシに教えてよォッ!」
むせび泣くシュフェルに、ガレルは優しく語りかけた。
『大丈夫だ、シュフェル。
お前はちゃんと『共鳴』のやりかたを覚えてる。今は心が慌てちゃって、できなくなってるだけさ』
「うっ、うぅっ……!」
『お前は、誰にだって負けない才能をもってる。そして才能を与えられたのには、必ず理由がある』
「……才能に、理由……?」
『ああ。あとはその与えられたものを、どう使うかだけさ。
お前はどう使う? なんのために使う?』
シュフェルは、これまでの自分を振りかえっていた。
――才能をもらったのに理由があるなんて、考えたこともなかった。
自分に才能があるのは当たり前。
なにも考えずに、ただただ剣を振りまわしてた。
『自分の使命さえわかれば、あとはやるだけさ。ずっと応援してるからな、がんばってくれよ』
「ガレル、待って……!」
シュフェルは手を差しのばしたが、ガレルの姿は光の粒となって消えてしまった。
「そんな……。
アタシ、自分の使命なんてわからないよ……」
シュフェルは目をつむった。
才能を与えられた理由……?
自分の使命……?
そんなこと急に言われたって、わからない。
そんな大層なこと考えてやってきたわけじゃない。
なぜ自分は生きのこり、困難と向きあっているのか。
……ふと、生前のガレルの、最後の戦いに望む姿が浮かびあがってきた。
彼は自分を護るために、限界を越えて戦いぬいてみせた。自身の肉体と魂を、闘志の炎で燃やしながら。
……彼のようになりたい。
自身に突きつけられた限界に、立ちむかっていけるだけの強さがほしい。
おそらくシュバイツァーは自分よりはるか格上だろう。
それでも、すべてを投げうって、自身の限界を越えて挑むことができたなら。
「……あぁ、そうか……」
そのとき、彼女とガレルの魂の声が重なりあった。
――アタシのちからは、大切な誰かを『護る』ためのちからだ――
「アリガト、ガレル……」
そうして、シュフェルとクラムは『共鳴』した。
しかし、彼女たちが奏でたのはいつもの激しくうち鳴らすような鋭い音ではなく、静かで優しげな音。
まるで過去の弱き自分を包みこんで、許してあげているかのように。
シュフェルとクラムのからだを雷電が包みこみ、彼女らのからだは宙に浮かびあがった。
――『雷剣 』――
今回の場面は次回に続きます。
次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします。




