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第261話 暗器使いの駆け引き


 前回の場面の続きです。


 ティランは再び、ケツァルツァへと挑みかかっていた。

 龍に乗って、ケツァルツァへと迫る! 


「やぁっ!」


 ティランは龍の背を蹴って、ナイフでケツァルツァへと斬りかかる!

 そのまま戦いは、龍から降りての歩兵戦へとなだれ込んでいった。


「ひょほほほ。

 そんな単調な攻撃では、いくら攻めたてても無駄ですよォ。

 拙僧(せっそう)の僧衣と肉体には百を越える刃が仕込んであるのです。

 その一端をご覧にいれましょうォッ!」

「!!」 


 ケツァルツァはだぼだぼの僧衣をまさぐり、()()()()を取りだした。


 刃の部分が金属綱(ワイヤー)でつながれた、『蛇腹剣(じゃばらけん)』。

 バルバネラの『(むち)』ほどの射程距離はないが、近距離では剣、遠距離では鞭となって変幻自在な攻撃を仕掛けてくる!


「くっ……!」


 ティランは軽業師(かるわざし)のよう身軽な動きで『蛇腹剣』の刃をかわしていく。

 しかし、すべての攻撃をかわしきれず、少しずつその身を傷つけられていく……!


「ひょほほほ。なかなかに身軽な動き。

 ならば、こちらの戦法はいかがですかなぁ?」


 ケツァルツァは『蛇腹剣』を(そで)のなかへとしまい込む。

 代わりに両腕を振りひろげると、手の甲に『鉤爪(かぎつめ)』が装着された!


 ケツァルツァは両手の『鉤爪』を振りまわし、ティランへと迫る!


「! 負けるもんか!!」


 ティランも、両手にもったナイフで必死に応戦した。


 激しく展開される『鉤爪』とナイフの応酬(おうしゅう)

 金属の打ちあう鋭い音が、あたりに絶え間なく鳴りひびく!


 一連の流れのなかで、ケツァルツァが真正面から『鉤爪』を振りおろした。

 ティランは顔面を斬りさかれそうになるが、なんとかナイフで『鉤爪』を受けとめる。


 ……だが、彼はある違和感に気付く。


「……!?」


 ティランは目を凝らした。


 五本(つら)なる『鉤爪』のうちの、一本。

 その一本の根元に、小さな筒状の装置が取りつけられている。


 そして彼の目の前で、筒状の装置から矢が撃ちだされた!


「うわっ!」


 ティランはとっさに上体をそらし、矢をかわす。


 ……『鉤爪』の刃に取りつけられていたのはアイゼンマキナ製の超小型クロスボウ。

 矢は飛んでいき、奥の茂みへと刺さった。


「ぐぁっ!!」


 茂みのなかから悲鳴が聞こえてきた。

 ティランと戦っているケツァルツァの隙を狙おうと、騎士団員がひとり、茂みに潜んでいたのだ。


 ケツァルツァはその気配に気づき、あわよくばティランの命をも狙いつつ、矢を撃ちはなっていたのだ!


「ぐっ……ぅっ……ぐああぁっ!!」


 騎士団は腕を撃ちぬかれただけなのにも関わらず、血を吐き、胸をかきむしって絶命してしまった!


 ティランは騎士団員の様子を見て、彼の体内でなにが起こったのかを瞬時に悟っていた。


 ――猛毒を塗った矢。

 ボクの吹き矢と同じ……!


「ひょほほほ。まだまだですよォッ!」


 続いてケツァルツァは、僧衣のなかから『数珠(じゅず)』と『鉄扇(てっせん)』を取りだした。


 彼が『鉄扇』で『数珠』を叩くと、(たま)を繋いでいた紐が切れ、珠が飛礫(つぶて)となってティランへと降りそそがれた。

 珠はすべて爆竹(ばくちく)となっており、ティランのまわりで()ぜる!


「えっ!?」


 閃光と煙と、けたたましい破裂音。

 ティランが意表を突かれて動きがとまったところで、ケツァルツァは大きく口をひらいた。


「ケァッ!!」


 なんと彼の舌になっている蛇の頭が、炎を吹きだしたのだ!


「うわあぁっ!!」


 ティランはかろうじて炎をかわしたが、片腕にひどい火傷を負ってしまった。

 彼は苦痛に顔をゆがめさせながら、必死にケツァルツァから距離をとった。


「くそっ、なんなんだコイツ……。

 メチャクチャすぎる!!」


 曲芸(きょくげい)とまで思えるほどに多彩な戦法に翻弄(ほんろう)されるティラン。

 そしてなにかにつけて厄介なのが、ケツァルツァの肉体のあらゆる箇所から飛びだしてくる仕込み刀である。


 ……土地神信仰の秘法によって、ケツァルツァのからだは軟体生物のように柔らかいうえ、筋肉の隙間に刃を埋めこみ、自由に出し入れすることができる。

 しかもそれらの刃は紙のようにうすく柔軟で、彼の動きを妨げないのである。

 ケツァルツァの肉体はだぼついた僧衣に覆われているので、刃の出どころが見えないのも、回避を困難にさせる要因となっていた。


 ―― 一本一本、刃の長さや形状が違うからぜんぜん慣れない、見切れない。

 とにかくやりづらい……!


 気がつけば、ティランのからだは傷だらけになっていた。

 このままでは、なにも反撃できずに勝負が決してしまう。


 ……だが、彼も無策のまま戦いつづけているわけではない!


 今回の戦いで、ティランはまだケツァルツァに見せていない戦法があった。

 狙っていたわけではないのだが、図らずもその戦法を温存することになっていたのだ。


 ――『鎖機動(シェン・ムビリテ)』。


 彼の代名詞ともいえる得意戦法のひとつだが、密林での一対一において、使いどころがなかったのである。

 しかし今は、この形勢を逆転する奥の手となりうる……!


 ティランは逆手(さかて)に持ったナイフでケツァルツァに斬りかかった!


 その攻撃はケツァルツァの『鉄扇』によって受けとめられてしまう。

 しかしその瞬間、彼は袖口から『鎖機動』の鎖を撃ちだした!


 ホセの研究・開発によってアイゼンマキナの技術が取りこまれた『鎖機動』。

 現在は機械のちからで強力に鎖を撃ちだすことができるようになっていたのだ。


『鎖機動』の鎖が、ケツァルツァの喉仏(のどぼとけ)へと撃ちこまれる!!

 ……だが、しかし……!


「ッ!?」


『鎖機動』の鎖は、当たらなかった。


 彼の目の前で、ケツァルツァの首がぐにゃりとねじ曲がったからだった。

 ケツァルツァは首をねじ曲げたまま、不気味な笑みを浮かべていた。


「ひょっほほほ、甘いですねぇ。

 アナタの右腕の動きが()()()()()()ことは見抜いていましたよォ。

 相手の虚を衝きたいならこれくらいしないと……ホレっ」


 ケツァルツァが僧衣のなかをまさぐって、ティランの眼前に物を投げた。

 ケツァルツァの思惑どおり、投げられた物を見て、ティランの思考は完全に停止してしまうこととなる。


 投げられた物、それは……年端(としは)もいかない少年の、()()()()()


 ――え、本物? ていうか、誰……!?


「隙だらけですよォッ!」

「!!!」


 ティランは自身が撃ちだしていた鎖をつかみ取られ、思いきり振りまわされてしまった!

 姿勢を大きく崩され、反応が遅れる。


 そこにケツァルツァの必殺の連撃が撃ちこまれてしまう。

 本来は、土地神信仰の厳しい戒律を破った者を誅殺(ちゅうさつ)するために編みだされた技!


「お仕置きですよォ」


破戒殺(ブレゲボテート)』!!


「うああああぁっ!!」


 柔軟な関節の弾性力を存分に活かして繰りだされた、強力な連撃!

 ケツァルツァの必殺技をもろに受けて、ティランは倒れてしまう。


 空中でからだをねじり、なんとか致命傷は回避したが、ティランはもはや満身創痍の状態である。

 彼の身を案じて、龍が駆けよってきた。


 勝利を確信したケツァルツァは、高笑いをあげた。


「ひょほほほ。

 なかなかしつこかったですが、いよいよお(しま)いのようですねぇ。

 さぁて、これ以上戦っている場合じゃナイっ!

 お楽しみでも始めますかねぇ、ゲヒヒヒ」


 そう言ってケツァルツァは急に息を荒くしはじめ、下卑(げひ)た笑いを浮かべていた。


 ……しかし、ティランはふらつきながらも立ちあがる。

 そして、先ほど自身の眼前に投げられた物を指さした。

 見知らぬ少年の生首は、今は無惨に地に転がっていた。


「あの頭は、誰の物だ……!」

「ひょほ? ……ああ、それは……」


 ケツァルツァは、その生首の主について語りはじめた――。




※『破戒殺』……『はがいさつ』。


 本来は、土地神信仰の厳しい戒律を破った者を誅殺(ちゅうさつ)するために編みだされた技。


 柔軟な関節の弾性力を存分に活かして繰りだされた、強力な連撃です。


 今回の場面は次回に続きます。


 次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします!

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