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第258話 最高の民族


 前回の場面の続きです。


(おの)が正しさを示してみせよ、『翼竜騎士団』部隊長、アレスよ!」

「望むところだ!!」


 アレスは再び、ソリンゲンへと挑みかかった!


 しかしソリンゲンは先ほどまでとはうって変わって、ちからずくで弾きかえすのではなく、アレスの攻撃を軽やかにかわしはじめた。

 まるでソリンゲンの肉体から重量がなくなったかのような、不思議な体術。

 彼はアレスの攻撃を次々とかわしては、強烈な反撃の一撃を放ってくる!


 ……この不思議な体術の秘密は、龍の筋肉運動と一致させて自身の肉体を動かすことによる。

 さらに、龍との完全な連動と調和により、通常攻撃の威力をも飛躍的に高めている。

 これはアレスの『破突槍(バルトレコ)』に通ずる技術だが、ソリンゲンはその技術を、()()()()()()()応用することができるのだ。


「くっ! おのれ、ふわふわと小馬鹿にしたように……!」

「フハハハ。体術ばかりではない。

 帝国民が世界最高の民族であることの(あかし)を、ご覧に入れよう」


 ソリンゲンの出自(しゅつじ)である最高武官の一族は、過去に帝国が滅ぼしてきた民族から戦闘技術を盗み、容易に自身の技として扱うことができた!


「これは大陸の辺境にあった、とある武闘国家の民族が使っていた技」


 燃えさかる烈火のごとく激しい槍術(そうじゅつ)


炎龍突き(フオドヴォルタ)』!!


「ぅぐっ……!」


 焼けつくように強烈な突きの連撃に、アレスはたまらず打ちのめされそうになる!

 それだけでも強力な技なのだが、ソリンゲンは次々と湧いてくるように、新たな技を繰りだしてきていた。


「これはとある密林の奥深くに住む原住民が、獣を(まど)わして狩りをするための舞踊から応用した技」


『幻夢(ルフトラオム・)斬』(シュナイデン)!!


「くっ!」


 揺らめく槍斧(ハルバード)の先端を目で追いかけるうちにめまいを覚え、アレスの上体がふらついた。

 危うく、そのままとどめの一撃を打ちこまれるところであった。


「これは荒々しい渓流のそばに住む狩猟民族が、激流のなかから獲物を仕留めるために編みだした技」


激流槍(ヴァッサ・シュペア)』!!


「ぐぁ……っ!!」


 激流に舞う水飛沫(みずしぶき)のごとく、不規則かつ猛烈な連撃!

 すべての攻撃を(さば)ききれず、槍斧の刃がアレスの身を掠めていく!


「そして見よ!

 これがすべての民族の頂点に立つ、帝国国民の必殺技だ!!」


 ソリンゲンが舞うようにして大きく振りかぶると、鬼気(きき)迫る闘気がその身にほとばしる。

 ……そしてついに、その技は撃ちはなたれた!


 ――『帝・(ヴァレン・)』!


 斬り!


 ――『国・(グライヒ・)』!!


 払い!!


 ――『(ラピス)』っ!!!


 突く!!!


「ぐあああぁっ!!」


 アレスとその龍は、なすすべなく吹っとばされた。


 ……それは、きわめて単純(シンプル)な三連撃。

 斬る・払う・突くの基本動作を(つな)げただけにすぎない。

 だが、その一撃一撃は究極と呼べるほどまでに研ぎすまされ、個々の動作がアレスの『破突槍』を凌駕(りょうが)するほどの威力をもつ!


 さらに、動作から動作への繋がりは完璧にして流麗(りゅうれい)

 ちからと速度をいっさい減ずることなく、むしろ勢いを増して最後の突きへと至るのである。


 この完全なる技をまともに食らってしまったアレス。

 かろうじて一命は取りとめたものの、すでに彼は虫の息であった。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

「よくぞ今の技を受けきったものだ。

 だが、仕舞(しま)いだな」


 アレスとその龍は、地に()いつくばっていた。

 埋めようのないちからの差を、まざまざと見せつけられてしまった。


 ……しかし奇妙なことに、アレスの心に浮かぶのは否応(いやおう)なく迫る死への絶望ではなく、ソリンゲンへと向ける『尊敬』の念なのであった。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……。

 すさまじき破壊力。

 なんとすばらしき技だろうか。

 それに……」

「……ム……?」


 ソリンゲンが不思議そうに首をかしげる。

 アレスが(つむ)ぐ言葉には、心の底からにじみでたかのような重みと深みが乗せられていた。


「それに、なんと華麗(ハイセンス)な技なのだ……!」

「なんだと……!?」


 アレスは悔しげに土をにぎりしめた。


 ――祖国への愛を高らかに歌いあげながら、槍による三連の絶技に乗せるという美的感覚(センス)と発想力……! 脱帽(だつぼう)だ……!!


「……フッ。

 今まで数多(あまた)の敵を(ほうむ)ってきたが、この技の華麗さに気づいたのは貴殿が初めてだ。

 国外にも貴殿のような違いがわかる者がいたことをうれしく思う。

 もっとも、この技を受けて生きのびた者が誰ひとりとしていなかっただけとも言えるがな……」

「「フフフ……」」


 敵どうしでありながら、謎に互いのことを認めあいはじめるアレスとソリンゲン。

 周囲で激戦が繰りひろげられるなか、ふたりの(バカ)のやり取りをとめられる者など、いるはずもなかったのである。


「……さて、アレスよ。

 殺すには口惜(くちお)しい男だが、我われは決着を付けねばならぬ。

 非帝国民のなかで、貴殿は(それがし)が認めた数少ない(おとこ)だ。誇りに思ってあの世へと逝くがいい」


 アレスとその龍は、ふらふらになりながらも立ちあがった。

 彼は槍を持ちあげているのもやっとである。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……ふぅっ」


 アレスは乱れる呼吸をなんとか整えながら、思考をめぐらせていた。


 ――いよいよお手上げだな。

 さて、どうする?

 ()よ。お前ならこんなとき、どうしていた?


 アレスの脳裏(のうり)に、ありし日の夜の光景が浮かんだ――。




※『帝・国・愛 (てい・こく・あい)』……祖国への愛を高らかに歌いあげながら、槍による三連の絶技に乗せるというイカした技です。


 今回の場面は次回に続きます。


 次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします!

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