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第256話 真なる性質


 前回の場面の続きです。


 サキナの六本目の矢は、バルバネラの左肩の急所を的確に刺しつらぬいていた。

 バルバネラはこの戦いで左肩をあげるどころか、激痛でからだを動かすことすらままならないはず。


 サキナは相手に決定的な一撃を与えており、勝負はそのまま決したかと思われた。

 ……だが、バルバネラが見せた反応は予想だにしないものであった。


「あぁっ……んっ……♡」


 バルバネラの口から、悩ましげな吐息が漏れた。


 彼女が見せたのは、よりいっそうの快楽の表情。

 彼女は激痛にさいなまれながらも、いまだかつてない快感を味わっていた。


 ……それは嗜虐的(しぎゃくてき)な嗜好をもち、今まで他人から痛みを与えられた経験などないバルバネラが初めて露呈(ろてい)した、彼女の真なる性質だったのである。


「は……?」


 これには、さすがのサキナも呆然である。

 激痛によって、今度はバルバネラが地にひれ伏す番だと思っていたのに!


「これ……は……!?」


 バルバネラも、いまだ味わったことのない感覚に戸惑(とまど)っていた。

 しかしすぐに、彼女は自身の隠されていた本性を受けいれる。


 バルバネラは右手の(むち)で自身のからだを強く打ちつける。

 そしてそのまま長い鞭を自身のからだじゅうに巻きつけ、ギチギチに締めあげた!


「ワタクシはいくらでも痛みに耐えることができる……。さァ、命を懸けて遊びましょ♡」

「この、ド変態っ……!」


 自身のからだを痛めつけることで、バルバネラは魂を高揚(こうよう)させることに成功していた。

 痛みを与えるのも、痛みを受けるのも平気なのであれば、戦場において無敵!!


 バルバネラはふらつきながらも、再び右手で鞭を振るいながら迫りよってきた。


 サキナは次々と弓矢をつがえ、鞭の先端を射ちぬいて弾きかえしていく。

 機械のように正確で、冷静に淡々と繰りかえされていく作業。


 ……そしてついに、サキナの矢がバルバネラの龍の上顎(うわあご)を貫いた。

 龍は口のなかから頭頂部を貫かれ、バルバネラもろとも地に倒れこむ。


 バルバネラは龍鞍(りゅうくら)の固定をはずし、鞭を振りまわしながらサキナへと迫りよってくる。

 しかし左手の鞭を振るえなくなった今、バルバネラにサキナの矢を防ぐ手立てはない!


「……レゼル様は、民族の違いも宗教の違いも、『身分』の違いも超えて、皆が幸せに暮らせる国をつくろうとしているの……!」

「んんっ♡ ふっ♡」


 サキナはバルバネラの両脚を射抜いた。

 バルバネラは歩けなくなり、その場にひざまずく。


「生まれてもった『身分』なんかで、人の命の価値が軽んじられてよいはずがないわ!」

「このワタクシがっ、こんな平民ごときに……ハァッ♡」


 続いてサキナはバルバネラの右腕を貫いた。

 バルバネラはとうとう、右手の鞭も持てなくなる。 


 そしてついに、サキナはバルバネラの左胸をも射抜いた!


 ……だが、これはバルバネラの胸当てを貫いただけ。

 かろうじて心の臓には到達していない。

 サキナが、わずかに弓の引きを甘くしていたのだ。


「降伏し、身分による差別をあらためなさい!

 そうすれば、命を奪うことまではしないわ」


 サキナは降伏を勧告した。

 だが、バルバネラが返した答えは……。


「ひざまずくのはアナタたちのほうよ……愚民(ぐみん)ども!」


 答えを聞きとげたサキナは、弓矢を射ちはなった!


 ――『継ぎ矢』。


 バルバネラの左胸に刺さっていた弓矢の後端に、もう一本の矢が刺さって押しこまれた。

 先の弓矢の先端は、今や完全に彼女の心臓を刺しつらぬいていたのだ。


 いまわの際に、バルバネラは再びあられもない声をあげていた。

 自身のからだの芯が、熱く(うるお)うのを感じながら。


「サキナンっ……さまっ……♡♡♡」


 バルバネラのからだが、倒れこんでいく。

 彼女は恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべながら、息をひき取っていた。


 バルバネラが倒れたのを見届けると、サキナはやれやれとため息をついた。


「ちゃんと、反省したのかしら……?」 




 サキナ 対 バルバネラ、決着です!


 次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくよろしくお願いいたします!

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