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第248話 世界の成り立ち


 前回の場面の続きです。


 最初は、なにもない無の世界が広がっていた。

 生命はおろか物質ひとつ存在しない、茫漠(ぼうばく)とした虚無の空間。


 ……しかしそれは、すべてを統べる大いなる存在の働きだったのか。


 あるときそこに、光が生まれることとなる。

 光は徐々に大きくなり、やがて無限に広がる闇を照らすほどとなった。


 そして、その光は意思をもつようになる。

 光のなかに意思のみが存在する概念体。


 その概念体には、使命のごとくある潜在意識に支配されていた。

『自身は創世の神である』、と。


 概念体にすぎなかった意思はいつしか肉体をもち、命としてのかたちをとりはじめた。

 その光が姿かたちをもったとき、龍の姿をとっていた――。


『光の龍神』ゼトレルミエルの誕生である。


 最初は無限に広がる闇のなかに、自身が放つまばゆき光が占める空間しかなかった。

 光が(とも)されただけで、茫漠とした虚無の空間であることに変わりはない。


 しかし彼は気がつく。

 自身が『創造』のちからを備えられて生まれてきたのだということに。


 彼はすぐに、創世の作業に取りかかった。


 まずは空と、空に浮かぶ大地をつくった。

 大気を生みだし、島には川や火の山をつくりだした。


 自然が形成されていくのにともない、それらを(つかさど)る神々も必要となった。

 光の龍神のからだから、種々の龍神のからだが分け出でられる。


 リーゼリオンやブレンガルドなど、各自然素を司る龍神たちもこのときに生みだされた神々である。

 最終的には、もっとも多いときで百余りもの数の龍神がいたという。


 環境が整ったところで、龍神たちは生きものもつくりはじめた。


 まずは、大地を覆う草花や樹木。

 生命が息吹き、大地が鮮やかな緑で(いろど)られるようになった。


 植物の次は、動物もつくった。

 虫や鳥、獣たち……。

 生物の自己成長をうながすため、雌雄(しゆう)もつくり。


 一日じゅうまぶしい光に包まれていては生命が安らぐときがない。

 光の龍神は、この世界を照らす役割を空に浮かぶ太陽と月にゆだねた。

 こうして、昼と夜が生まれた。


 そして、数多(あまた)の龍神たちが生まれるうちに、自然素に神気(しんき)があてられて自然発生したものが『龍』である。


 神々と似た姿をもつ龍たちはどんどんと増え、この空の覇者としておおいに繁栄(はんえい)した。

 それから龍たちが空を支配する時代が、長く続くこととなる。


 ……しかし龍たちのなかには、夢をもつものがいた。

『知恵をもち、言葉を(つむ)ぎたい』と。


 自然素の集合体である自身の肉体を構築しなおし、まったく別の生きものへと姿を変える個体が現れたのだ。

 彼らは龍としての姿やちからを捨て、器用に動く手足と、意思を伝達する言葉をもつことを選んだ。


『龍』から、『人』への分化である。




 なんと、この空に住まう人間たちは龍から派生(はせい)したものだったのである!

 悠久(ゆうきゅう)の時を経て、かつて自分たちが龍だったころの特質を色濃く残した民族が、『龍御加護(たつみかご)の民』だったというわけである。

 彼らは強い『龍の鼓動』を秘めたまま生まれ、背中には翼の痕が残る。




 創世期は、順調なことばかりであったわけではない。

 人間が誕生して程なくしたころのこと。


 この世界は、別の世界の神からの襲撃を受けることとなる。

 この世界と同様にひとつの神の手によって発生し、この世界に隣接(りんせつ)するように存在していた。


冥界(めいかい)』の神、サへルナミトスである。


 彼は自身の手で生みだした冥界の住人たちをひき連れ、龍神フェルノネイフにまたがり、この世界を侵略(しんりゃく)しにやってきたのだ!

 対して、光の龍神は数多の龍神たちとともにこれを迎えうった。


 神々の戦いは熾烈(しれつ)を極め、七日七晩続いた。

 しかしついに光の龍神たちは戦いに勝利し、サへルナミトスのからだを冥界の地の底に打ちつけることに成功した。


 さらに光の龍神は、戦死したフェルノネイフの遺骸(いがい)と魂をちからの結晶と化し、のちの世に役立てるために保管した。

 世界で初めての『神剣(しんけん)』の誕生である。


 このときの戦いによって現世と冥界の境界は曖昧(あいまい)となり、罪人の魂は冥界へと流入し、生前の罪を裁かれることとなった。

 サへルナミトスは『冥府の神王』として君臨(くんりん)し、冥界は役割をもつことで消滅を(まぬが)れたのである。




 こうして現在へとつながる世界が形成され、人間は文明を築きはじめた。

 人間たちは自分たちが生まれたこの空を、『レヴェリア』と呼ぶことにしたのである。


 光の龍神はそうした人間社会の発達も自然な成り行きとして、静かに見守ることとした。

 光の龍神は『天上界(てんじょうかい)』をつくり、ほかの龍神たちとともに移り住んだ。


『天上界』とは、人と龍の世界の営みを見守るためにつくられた世界。

 この世界の空の、さらにその上。

『冥界』のように、現世に隣接する平行世界である。




 と、そこで俺はゼトレルミエルに質問をした。


「それじゃあ、ここが『天上界』ってことか?

 俺たちはいつの間にか、『冥界』みたいな別世界にきちまってたってのか?」

『いいや、ここは『現世』……すなわち『人間界』の最果てにすぎぬ。

 万一のときはここへと退避し、地上を見守ろうと秘匿(ひとく)していたものだ。

 まさか生きてたどり着くのが(われ)だけになるとは、夢にも思わなかったが』

「万一のときって……。

 それだけの危機が迫ることを予測してたってことか……!?」

「それだけの危機とは、まさか……!」


 俺もレゼルも、身が総毛立つのを感じた。


『冥府の神王』サへルナミトスをもくだした創世の神、ゼトレルミエル。

 その創世の神でさえも恐れる存在。

 そんなものは、ひとつしか考えられない。


 光の龍神は俺たちの考えを肯定するように、答えた。


『そう、闇の龍神の存在だ』




 今回の場面は次回に続きます。


 次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします。

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