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第245話 陽炎の神殿

 俺とレゼルは騎士団の皆と別れたのち、延々と空高く、空高くへとのぼっていった。

 だが、ただ闇雲(やみくも)に上空へと向かっているわけではない。


 太陽をはじめ、この(レヴェリア)の天球に浮かぶ星々はすべて、ある一点を軸の中心としてまわっている。

(せい)頂点(ちょうてん)』と呼ばれている点だが、その点へと向けて、ただひたすらまっすぐに進んでいくのだ。


 昼は太陽の動きを、夜は月と星の動きを見て。

 俺とレゼルは昼と夜となく、ただひたすらに天球の頂点へと向けて飛んでいった。




 ――理由は不明だが、サへルナミトスは光の龍神の居場所を知っていた。

 死者の数が増え、冥界と現世のちから関係が逆転したら光の龍神を殺害しに行くつもりでいたようだ。


 奴は光の龍神の居場所を、闇の龍神である帝国皇帝には黙秘していた。

 万一、皇帝に冥界へ攻め入られたとしても、身を守るための交渉の材料にする意図もあったことだろう。

 とにかく、俺たちはサへルナミトスの記憶の『探査(イノーケンス)』により、光の龍神の居場所を知ることができたのである。




 俺とレゼルの空の旅は、数日にわたって続いた。

 空高く進むにつれて空気はうすくなり、住んでいる人と龍はとうに見かけなくなっていた。


 名もなき小島を見つけてはヒュードとエウロの翼を休め、泉が湧いていれば水を汲んで(のど)を潤した。

 どうしても疲れてしまったときは、彼女とふたりで身を寄りそいあって、眠りについた。

 そうして七日七晩、俺たちは空の旅を続けたのであった。




 たとえどの地点から出発したとしても、『星頂点』へと向かっていけば座標は一点へと収束していく。

 そして……。


「! レゼル、あそこを見てくれ!」

「あれは……」


『星頂点』のある方角。

 抜けるような青空のなかに、熱した空気のようにもやもやとした空間がある。


 一見して、その空間に浮かぶものはなにもないように見える。

 しかし、レゼルは目をつむり、その奥の気配を探った。


「巧妙に隠されていますが……。

 とてつもなく巨大な構造物がこの奥に浮かんでいます」

「! なにも浮かんでいないのにか……?」

「ええ。

 そしてそのなかにかすかに漂う、ただならぬ気配……。『神気(しんき)』とでも呼ぶべき、聖なるちからの波動を感じます」

「神気……。ここで、間違いなさそうだな」


 龍神教の教主たるレゼルは、(しん)なるものへの感受性も強いのだろう。

 俺はレゼルの感覚を信じ、ともにその空間のなかへと飛びこんでいった。




 もやもやとした空気のなかを抜けていく。


 だが、べつに空気が熱せられて暑くなっているわけではない。

 どうやら目に入る光そのものがねじ曲げられ、視覚がゆがめられているようなのだ。


 そうして俺たちが、もやもやとした空気の壁を抜けると――。


「!! おいおい、マジかよ……!」

「すごい。

 これが、光の龍神様がおられる島……!」


 ほんとうに、あった。

 なにもなかったはずの空間に、国がひとつ乗っかるほどの巨大な島。


 これだけ高度の高い空に、外から見たらなにもない空間。

 今まで誰ひとりとして、この島の存在に気付かなかったわけである。


 しかしこの異様な島の在りかたに、俺とレゼルは光の龍神の実在を確信していた……!


「この島で間違いなさそうだな。

 レゼル、降りてみよう」

「はい!」


 俺とレゼルは、島のなかでも比較的建物が密集している箇所を選んで降りたってみた。


 ……じつに、不思議な島だった。

 空気は澄んでいるが、呼吸をするたびに心身が浄化され、ちからがみなぎっていくのを感じる。


 サへルナミトスが顕現(けんげん)したシャティユモンに充満していた『瘴気(しょうき)』とは、真逆。

 これがレゼルの言う、『神気』とでも言うものなのだろうか。


 島全体がひとつの聖域となっているようで、島のあちこちには色とりどりの不思議な光を放つ超巨大建造物が建てられている。

 いずれも人が住むためのものではなく、巨大な龍が住むために造られたかのような大きさ。


 建築様式もどの国の人間が造ったものとも違う、見たことがない構造だ。

 しかし、まるで小人(こびと)が造ったかのように細部まで緻密(ちみつ)に装飾がほどこされている。


 これらの建物は遠くにあると位置を認識できるのだが、近づいていくと思っていた位置からずれており、いっこうにたどり着くことができない。

 おそらく、これらの建物にも光の屈折操作がなされており、近づくことができないのだ。

 建物のなかに入ることができるのは、入る許可を得られた者だけなのだろう。


 まさしく、これらの建物は『陽炎(かげろう)の神殿』とも呼ぶべき神秘の建造物。

 人間の常識をはるかに越えた、神々の居殿(きょでん)なのだ。 


 聖域には人間どころか、龍一匹すら見かけない。

 いくら歩いても、俺たちに声をかけてくる者はいない。

 だが、俺たちは目指すべき場所を悟っていた。


 ……島の中央に存在する、ひときわ巨大な神殿。


 ほかの神殿に入ろうとしても位置がつかめなくて近づけないのに対し、その神殿は位置がずれていくことはない。

 それこそ、中央の神殿へと来るように招かれているかのよう。


「どうやら、俺たちはあの神殿にご招待されているようだな?」

「ええ。

 神気も、あの神殿の内部から強く感じられます。行ってみましょう!」


 俺たちは再びエウロとヒュードに乗りこみ、中央の神殿へと向けて飛びたった。




 巨大な神殿の入り口の前へと降りたつ。


 見上げると首が痛くなりそうなほどに大きな扉だ。

 人間のちからでは、とうてい開けることができそうにない。


 しかし俺たちが扉の前で途方に暮れていると、重い扉はひとりでにひらいた。

 入る許可を得たのだと解釈し、俺たちは神殿のなかへと進んでいくこととした。




 扉の奥は回廊(かいろう)になっていたが、通路をまたいでさらに正面奥にはまた巨大な扉が待ちかまえていた。

 その扉も、俺たちが近づくと自動でひらいた。


 その次も回廊と扉、さらにその次も回廊と扉……。

 全体としては幾重(いくえ)もの四角い枠に囲まれた構造をしているのだろうが、俺たちは誘導されるがままに正面を突っきっていった。


 ……建物から、時の重みを感じる。

 おそらく建てられてから数千年は経つであろうに、壁や柱にはひびひとつ入っていない。


 神々がつくりし、超古代文明の産物。

 数千年の月日を超えて、ほんとうに神話の世界にたどり着いたのだという、不思議な感覚を覚えた。


 聖職者でない俺でさえ、そうなのだ。

 敬虔(けいけん)な龍神の信徒であるレゼルが、始終(しじゅう)目を輝かせていたことは言うまでもない。




 そんな風にして、俺たちは最後の扉へとたどり着く。

 扉はひらき、ついに俺たちはその先で待つものと出会ったのであった――。




 次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします。

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