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第243話 天翼の浮遊城

 シュバイツァーとその取り巻きは、都市行政の要人との話を終えると再び龍に乗り、上空へと向かった。

 彼らが向かうのは、首都エルパレスガーナの上空に浮かぶ天空の城。


 ――『天翼(てんよく)浮遊城(ふゆうじょう)』。


 帝国首都上空に浮かぶ浮き島をそのまま彫って造形された城。


 天空に大翼(たいよく)を広げたかのようなその外観は、雄大にして荘厳。

 人類が生みだしし建造物のなかで最大にして、もっとも美しいとされる城でもある。


 シュバイツァーたちは城の離着陸場にたどり着くと、そのまま城内を進んでいく。

 広大な城の内部を進んでいき、最上層の皇帝の居室(きょしつ)へと続く階段の前までたどり着くと、シュバイツァーは晶龍(しょうりゅう)の歩みをとめた。


「ここから先は俺だけでいい。

 さがってろ」

「「はっ!」」


 シュバイツァーは取り巻きたちをさがらせると、晶龍とともに長い階段をのぼり、皇帝の居室へと入っていった。




 彼が居室のなかに入ると、その先のバルコニーには帝国皇帝デスアシュテルと、『冥門(めいもん)』ヴィレオラが彼のことを待っていた。

 彼らのそばには闇の龍王オルタロヴォスと、冥界の屍龍(しりゅう)もたたずんでいる。


『天翼の浮遊城』、その最上階のバルコニーからは、世界最大の国土面積を誇るヴァレングライヒの蒼き大地を一望にすることができた。

 さらに遠方を仰げば、帝国が誇る霊峰(れいほう)フォルティナの連なる峰も霞んで見えており、広大な平野に高低差(アクセント)を加えている。


 シュバイツァーはヴィレオラの隣まで行くと、並んで皇帝の前にひざまずいた。

 普段は粗野(そや)な振るまいを見せる彼だが、帝国皇帝の前では別人のように礼儀正しい。


『遅かったな、シュバイツァーよ』

「はっ!

 たいへんお待たせしました、皇帝陛下。

 シャティユモンから避難してきた下位貴族の処遇(しょぐう)に追われておりましたゆえ、ご容赦くださいませ」


 ……シャティユモンの崩落(ほうらく)により、島に住んでいた多くの人間が巻きこまれて命を落とした。

 助かったのは貴族を始めとして、個人で龍を保有する一部の富裕層のみ。

 ほかの多くの国民は救助が間に合わず、シャティユモンの大地とともに無限の空へと落ちていったのだ。


 シャティユモンから避難してきた貴族たちは帝国政府から見れば下位貴族だが、貴族は貴族。

 逃れてきたほかのシャティユモン国民を含め、属国(ぞっこく)の民をないがしろにするわけにはいかなかった。

 情報統制を含め、移民の受け入れはもっぱら首都行政の要人たちの仕事ではあったが、皇帝の代務者であるシュバイツァーの最終承認が必要だったのである。


 話を聞きながら、ヴィレオラは(つゆ)のように美しい顔を曇らせていた。


「申しわけございませぬ、皇帝陛下。

 そもそもはわたしのちからが及ばなかったばかりに……。

 挙げ句の果てに、冥府の神王まで滅されてしまうとは……!」


 ヴィレオラはうなだれた。

 シャティユモンの崩落は、彼女の救援にシュバイツァーたちが駆けつけて戦ったことにより、大地が寿命を迎えたことが原因であった。

 また、戦いの敗北はヴィレオラ自身にも大きな傷痕を残していた。


 ……彼女は戦えなくなったわけではない。

 だが、存在自体が莫大な瘴気(しょうき)の塊であるサヘルナミトスが消滅したことにより、冥界のちからが大きく減じたことはたしか。

 それはすなわち、彼女自身の弱体化を意味していたのである。


 ――取りかえしがつかないほどの失態。

 彼女の死をもってしても、とうてい償いきれるものではないだろう。


 ヴィレオラは皇帝から死罰(しばつ)を言いわたされれば、甘んじて受けいれるつもりであった。

 しかし、彼の口からでてきた言葉は――。


『構わぬ。

 サヘルナミトスが我われのことを利用しようとしているのを知ったうえで、今まで遊ばせていただけのこと。

 頃合いを見てこの手で(ほうむ)ろうと考えていたのだ。その手間が省けただけだ』


 サヘルナミトスは、皇帝が起こした戦争によって死者の数が増え、冥界のちからが増すのを待っていた。

 そうして形勢が逆転し、冥界のちからが上回った頃合いを見計らって、現世を侵略しようと目論んでいたのだ。


 皇帝たちはそのサヘルナミトスの狙いを知っていながら、戦力として利用していた。

 もっとも、たとえ現世の人間がすべて冥界送りにされたとしても、皇帝にはサヘルナミトスをねじ伏せられるだけの自信があったのだが。


『ヴィレオラよ。

 シュバイツァーが余の右腕だとしたら、お前は左腕だ。

 次に戦いの機会があったならば、存分にその腕を振るい、役目を果たしてみせよ』


 ……思いがけず、皇帝から(たまわ)った温情の言葉。

 その言葉を受け、ヴィレオラは――。


「はははは、はいっ♡

 がんばります、こーていへーか……っ♡♡♡」


「ヴィレオラよ……。

 お前も相変わらずだな……」


 いつもは青白い(ほほ)を真っ赤に染め、はにかむヴィレオラ。


 ……そうなのである。

 冷酷無比な死の龍騎士も、帝国皇帝の前では恋する乙女になってしまうのだ。


 げに恐るべきは皇帝の魅惑(カリスマ)性。

 これには隣のシュバイツァーも呆れるばかりであった。

 (彼が人のことを言えたものでもないと思うが)


「しかし陛下、先日の戦いで反乱軍の枢軸(すうじく)である翼竜騎士団は壊滅。

 今さら反乱にでようという国もありますまい。

 ヴィレオラのでる幕は、当面来ないのではありませぬか?」

『いや、偵察兵の報告では騎士団の本隊はルペリオリントの領空に留まったまま、今もくすぶっているようだ』

「なんですと……!?」


 闇の龍神である帝国皇帝は、その気になれば世界の端まで見通すことが可能であった。


 彼は騎士団を自らの手で壊滅させ、彼らへの興味をすでに失っていた。

 しかし偵察兵からの報告により、騎士団がまだ近隣に在留していたことは、彼にとっても予想外の動きであったのだ。


『騎士団の本隊は祖国に逃げ帰らず、いまだに留まっている。

 それはすなわち、反逆の意思を捨てていないということだ。

 枢軸が生きていれば、世界的な反乱の芽はいつ息を吹きかえしても不思議ではない』


 皇帝は、あらためてシュバイツァーのほうへと向き、指令をくだした。


『シュバイツァーよ、『黒夢(くろゆめ)の騎士団』を率いて反乱軍の息の根を絶て。

 ひとりたりとも生きて帰そうとは思うな』

「はっ!」


 シュバイツァーは帝国皇帝の絶対なる命を受け、(こうべ)を垂れた。

 反乱軍を今度こそ抹殺(まっさつ)するべく、決意を新たにして。




 次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします。

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